<夜明けのレンズ 起立性調節障害を越えて> 『再生』 映画と重なる自分の姿

起立性調節障害と向き合う中で見つけた映像制作という目標。病気と進路に悩む日々の光となった(写真はイメージ)

 起立性調節障害の長崎市の高校3年、國武惠理さん(17)は、県内の中高一貫の進学校に通っていた昨年春、進路選択のストレスなどで追い込まれた。次第に朝起きられなくなり、夏は1日の大半を寝て過ごした。母親が何度起こしても記憶に残っていない。早い時間に寝ても朝起きられず、ひどい時は夕方まで眠った。起きていても頭がぼうっとして集中できなかったり、立ちくらみがしたりする。何もできない自分に嫌気が差していた。
 福岡で暮らす医師の父親も様子を見に来た。起立性調節障害を疑っていた。だが、自身は病気だとはどうしても思えなかった。「周囲からすれば自分は『朝が起きられず、夜更かしをしている悪い子』」。そう責め続けた。母親に勧められた起立性調節障害についての本も、読む気にはならなかった。
 「高校生が作ったみたいだよ」。同じ頃、父親から、起立性調節障害に関する映画のオンライン試写会があると教えられた。福岡県の高校生(当時)で同障害に悩んでいた西山夏実さんが監督を務め、自身の経験を基に完成させた「今日も明日も負け犬。」。脚本、出演などすべて学生の制作チームが手がけ、今年10月に米国で開かれた「全米国際映画祭」でも上映された作品だ。
 「自主制作か」。内容に期待しないで始まった試写会。しかし、パソコンの画面に流れる物語はまさに自分の毎日そのものだった。
 朝に起きることだけでも精いっぱいなのに、周囲に「頑張れ」と言われて生きる気力を失いそうになったこと。昼夜逆転の生活になり、友達に連絡したくても誰も起きていなくて孤独だったこと…。一つ一つのシーンが自分の経験と重なって、心に突き刺さった。「私、病気だったんだ…」。上映中、気付けばずっと泣いていた。
 試写会後、病院で起立性調節障害の診断を受けた。中学から通った中高一貫校を退学し、通信制高校に転学。血圧の薬や規則正しい生活の効果が現れ始め、昨年の晩秋以降は午前中に起きている時間が増えていった。
 体調が良くなり、映像に携わる夢に向けても動き始めた。監督や俳優として活動する同世代と交流サイト(SNS)でつながり、1月には北九州市の高校生が企画した映像作品にエキストラで出演することができた。
 「もっと出てみたい」。4月。撮影期間が短いミュージックビデオ(MV)なら参加しやすいと考え、友人の監督の1人に相談すると、思いがけない言葉が返ってきた。「そんなに出たいなら作ればいいのに」
 転校を機に、朝から晩まで学校と塾で勉強に追われる生活をやめ、気持ちに余裕が生まれていた。学校や進路のことでぎくしゃくする時もあった母親と、話す時間もぐっと増えていた。今なら本音を伝えられる―。そんな自信が持てたある日、切り出した。
 「勉強もするべきだけど、やってみたいことがある」。「したいことって、何?」。そう尋ねた母親に答えた。「作品を撮ってみたい」


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