コーヒー生産をネイチャーポジティブへ UCCが国際環境NGOと連携

UCC直営のハワイ島農園。火山性の土壌、昼と夜の寒暖差など、現在は理想的な条件で栽培されているハワイコナコーヒー

UCCホールディングスは、2040年までにコーヒー生産地の自然の保護や回復を行う「ネイチャーポジティブ」を実現するために、国際環境NGOであるコンサベーション・インターナショナル(米国)とパートナーシップの契約をした。コーヒー栽培は気候変動の影響を大きく受ける可能性があり、2050年にはコーヒー栽培適地が半減するという予測もある。こういった危機感から、UCCはカーボンニュートラルの実現と共にネイチャーポジティブへのアプローチを急ぐことを4月にサステナビリティ指針として打ち出した。カナダで開かれたCOP15でも2030年までに生態系の保全地域を地球の30%に拡大する新たな目標が決まるなど、生物多様性の回復が急がれている。同社は環境NGOの専門的知見を取り入れ、生物多様性や森林、水資源などの領域において、どの生産国にどんなリスクがあるのか、農園の樹木の温室効果ガス削減効果なども定量的に明らかにし、具体的な対策を決めていく計画だ。(環境ライター 箕輪弥生)

コーヒー栽培適地半減のショック

コーヒーは自然との共生の中で生まれてくる農作物だ。ミツバチなどの昆虫が媒介しないと花が咲かず、周辺にある程度の森林がある方が収量も増す。UCCホールディングス サステナビリティ推進室の中村知弘室長は「コーヒー栽培は生物多様性が担保されてこそサステナブルになる」と話す。

しかし、気候変動が今後コーヒー栽培に大きな影響を与えることがわかってきた。コーヒーの栽培地である通称「コーヒーベルト」は、雨季と乾季があり、寒暖差のある地域が適しているが、温暖化が進むと、今よりさらに標高の高い場所に栽培地を移動するか、北へ移動せざるを得ない。しかしそれは新たな開発を意味するため、コーヒー栽培適性地が半分近くに減少する可能性があるということが示唆されている。

そのため、同社は気候変動の原因となる温室効果ガスを減らすために、2040年までにカーボンニュートラルとネイチャーポジティブを実現することを2022年春に目標に据えた。

その最初のステップとして今回、生態系や自然への知見を豊富に持つ、国際環境NGOである「コンサベーション・インターナショナル(以下CI)」とパートナーシップ契約を締結した。CIとは、これまでも生産地支援活動の中でアドバイスをもらっていた関係があった。

現在、同社のコーヒーの調達地域において、森林や水、生態系に対してどんなリスクがあるのかといったハザードマップ的なものをCIがマッピングして分析を始めている。

ブルーマウンテンコーヒーを栽培する直営のジャマイカ農園。広い農園内には日陰を作る樹木や、バナナやパパイヤの木もある

一方でポジティブな影響についても分析を進める。たとえば、コーヒーの木は日陰を好むため、農地に日陰を作る「シェードツリー」があることでコーヒーの収穫量が上がる。

中村室長は、「周辺の森林を保護することがコーヒーや環境にとってどういう影響を与えるかが重点領域のひとつになっていくと思う」と話す。

これらコーヒーに対する森林へ影響など科学的分析結果を踏まえ、具体的なアクションを2023年春には決定し、生産国でのプログラムを策定し具体的に実践していく計画だ。

注視される、生態系を回復する企業活動

同社は事業のサステナビリティについて1年前から課題の整理と分析を行い、経営陣がコミットしてネイチャーポジティブの推進を経営戦略として定めた。自然資本をビジネスの糧としている同社にとって、将来的に重要度が高いと判断したからだ。

12月にカナダで開かれた生物多様性の保護について話し合った国連の会議「COP15」では、生態系の保全区域を世界全体で30%以上にすることのほか、企業活動が生物多様性に与える影響について情報開示を促す目標も盛り込まれた。

さらに、EUは、このほど森林破壊に関わる製品を禁止するための法律を整備した。関連製品をEU市場に出す、あるいは輸出しようとする企業は、製品が2020年以降に森林破壊の対象となっていない土地で生産されたこと、生産国で有効な、すべての関連法律を守っていることの証明を義務付けられ、この中にはコーヒーも含まれる。

生態系の回復は企業にとっても、ステークホルダーにとっても、非常に重要なテーマとして浮上してきている。同社と環境NGOとの協働からどのような活動が始まるのか、その効果についても注視されそうだ。[^undefined]

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