水道民営化論争から考える“公共サービスのあるべき姿”をZ世代とXY世代の論客が議論

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。「モニフラZ議会」のコーナーでは、水道民営化論争から考える“公共サービスのあるべき姿”について、Z世代とXY世代の論客が議論しました。

◆人間が生きる上で重要な"水道”は民営化するべきか?

現在、施設の老朽化や財政難、人材不足などにより全国の水道が厳しい状況にあります。今年4月には宮城県が全国で初めて水道を民営化。

住民からは不安の声も上がっていますが、こうした水道事業をはじめとする"公共サービス”はどうあるべきなのか。そして、持続可能なものにするためには何が必要か、意見を交わします。

まずはZ世代の主張として、株式会社POTETO Media代表取締役の古井康介さんが、「ライフラインを守るため、行政が担う意義 議論を」と発表。

電気やガスに比べ、水道はたとえ支払いが滞ってもなかなか止まることはありませんが、それは人が生きる上での生命線だから。古井さんは「電気がなくても生きていけるが、水がないと生きていけない。水道は市場主義だけでは語りきれない意味がある。だから一度民営化については議論したい」と話します。

1980年代から1990年代にかけてNTTやJR、そしてJTなどさまざまな公共事業の民営化を体験してきているXY世代のコラムニストの深澤真紀さんは、当時を振り返り、「全てが民営化に成功したのかと言えば、その歴史を私たちは学んでいないし、反省もしていない。そもそもそういった歴史があったことも学生などはほとんど知らないので、まずはそこから」と話し、過去の歴史をもっと知ることを提案。

その上でライフラインを民営化することについては「例えば、NTTは民営化にあたって第二電電など競争相手がいた。でも、水道は一度民間に渡してしまうと競争相手が出てきようがない。そう考えると(水道の民営化は)なかなか難しいと思う」と深澤さん。「民営化していいものももちろんある。民営化がいけない、国有化が全ていいということではなく、一つひとつ丁寧に切り分け、考えるべき」とも。

同じくXY世代のキャスターの堀潤は、デジタル庁統括官・村上敬亮さんの言葉を引用し、「競争の自助でも完全パブリックの公助でもない 共助のレイヤーのビジネスモデルを」と訴えます。

村上さんは「共助のレイヤーのビジネスモデルを国家として作り出さないとこの国の発展・維持はできない」と言っていたそうで、「民営というのは、民間の企業が競争で勝ち抜いて利益を上げる。そうしたものはこのインフラにはそぐわないと思うので、今日はその(新しい)型を考えたい」と堀は希望。

Z世代の臨床心理士のみたらし加奈さんは、水道はかつて民営化した郵政などとは「意味合いが違う」とし、民間へと移行し現状のサービスを維持するとなると、水道料金も上がってしまうことが考えられるため「水道の民営化はなかなか難しいのではないか」と難色を示します。

◆公共と民間、どちらが安全かつ安心か?

公共サービスの民営化について、街頭で話を聞いてみると「一般企業のほうが安くなると思う。競争していくとなると絶対に安くなると思う」や「選べる方が良い、選択肢は多いほうがいい」などの賛成意見がある一方で、「災害時・非常事態時の対応はできるのか」、「業者が倒産したら水道が出なくなる可能性もあるので、やはり公共がいい」、「世界的にも水不足のなかで民営化は先が怖い」といった不安の声もありました。

ここで深澤さんは、今後の水道の大きな問題として「メンテナンス」を挙げます。これは水道に関わらず、あらゆるインフラにいえることですが、日本は高度経済成長期にさまざまなものを作り出し、それから50年以上が経過しています。

そうした現状もあって、深澤さんは「メンテナンスという発想が重要」と指摘し、「人間のケアも含め、メンテナンスを大事にする国になることで、先進国として新しいモデルが作れると思う」と持論を述べます。

ただ、メンテナンスにはお金がかかり、だからこそ民営化を進める自治体があるわけですが、ここで水道事業への住民参加を進める、ある自治体の取り組みを紹介。それは、岩手県矢巾町が行っている市民参加型の「フューチャー・デザイン」というもので、これは自分が将来世代のつもりで考えるという取り組み。

持続可能な水道事業のために住民と事業者が話し合う場を設けて、そこでは現状のことだけを考えれば「水道は安いほうがいい」、「美味しい水が飲みたい」という意見が出たものの、「将来世代になって考えて」とお願いしたところ「将来も安全な水を飲みたい」、「設備更新のための値上げをしたほうがいいんじゃないか」という意見があり、財源確保のために住民らから値上げを提案。これは、水道だけでなく道路整備や保育無償化などの議論でも活用されているそうです。

こうした取り組みに対し、古井さんは「意思決定をする人たちには、その場しのぎの政策・対応は避けてほしいので、こうしたことはぜひやってほしいし、国会などでもこうしたことを意識して議論してくれる人が増えれば」と切望。

堀も「自治とは何かを考えた際、あらゆるステークホルダー(利害関係者)が参画して知恵を出し合って行うのは重要」とフューチャー・デザインに賛同しつつ、水道運営におけるもうひとつ重要な点を示唆。

それはガバナンスで、堀は以前、防衛省関係者からサイバー攻撃で最も脆弱なのは「水道システム」と聞いたことがあると言い、「水道システムにエラーが起きれば我々の生死に関わってくる。そういう意味では、本当に完全民営で大丈夫なのか」と懸念します。

この堀の意見に乗じて、古井さんからは「安全性を担保するためには、自治体(公共)と民間、どちらが良いのか」という質問が。これに堀は「民間は技術の提供はできても、インテリジェンスの供与は無理」、深澤さんも「ましてマネジメントは到底できない」と両者ともに公共に分があるとの見解を示します。特に深澤さんは「民間の力を借りるということと、完全に任せるというのは随分違う」とも。

さらに、今後の新たな公共を作る上でのキーとして「住民参加も大事だが、もうひとつ重要なのは、専門家の公務員」と深澤さん。日本では公務員にしろ会社員にしろ、さまざまな部署を回ることは必須で、ひとつの道を極めたプロになるには難しい環境とあって「水道であれば水道のプロを作るべき」と力説します。

例えば、岩手県では「岩手中部水道企業団」を作り、そこに公務員としての水道のプロを集め、同じようなことはヨーロッパでも行われているそうで「学生時代から専門的に学んだ人がプロとして就職し、公共を守っている」と紹介。「日本は就職時に大学名は見ても学部や研究は見ないような社会なので、もっとプロフェッショナルを育てるべき」と強調しつつ、「一方でそのプロの公務員と一緒に、私たち住民が消費者・お客さんではなく主権者としてどう動くか。ヨーロッパなどはそのふたつがあることで成功しているケースが多い」と指摘します。

みたらしさんは水道料金に関し、値上げしても美味しいお水が飲みたいという人たちは他でも買うことができる層だと推測。重要なのはそうではない人々であり、生活が苦しい人たちのためにも「インフラは守られるべき」と強調します。

そして、そうした人々も議論のなかに加わるべきで、「(議論には)ステークホルダー全員集まるべき」と堀。というのも、住民説明会などでは、行政vs住民、または企業vs住民という対立構図が生まれがちで、そうした状況になることは「良くない」と声を大にします。

◆新しい仕組みづくり、新たな時代の民営化を!

最後に、Z議会を代表して、古井さんが提言を発表。それは「強みを活かした新しい時代の"民営化”」。

古井さんは「すでにいろいろな仕組みや人材はあると思う」と言い、例えば、専門家についても独立行政法人などを活用することで賄えるとし、「そうしたものを活かして新しい仕組みが作れるんじゃないか、そこは意思決定の問題だと思うので、ぜひ進めてほしい」と訴えます。

一方、堀は何事にもエラーはあるものの「公が担うインフラは絶対に落としてはいけないという思いで関わっている、それだけの体力、責任など民間にあるのか。(民間が)一生懸命やっているのはわかるが、やはり公の重みというものはあると思う」と公の意義を提示。

また、深澤さんは「赤字でもやれるのが公共の強さ」と言い、「税金は赤字の事業のために使ってもらいたい。全部黒字化しよう、民営化しようというのは難しい」と改めて主張しました。

また、Twitterスペースに参加していた視聴者からは「(民営化は)反対。なぜなら、水道は飲み水としてだけでなく生活用水でもあり、そこを仮想敵国に狙われれば日本人の健康被害は甚大。郵政民営化などと比べ、生活への影響、危険が非常に大きいインフラを海外資本が参入できるような状況にするのは、日本の将来にとって非常に危険」という意見があがりました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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