観光客が戻りつつある京都府宇治市で、内装にこだわった宇治茶の飲食・物販店が相次いでオープンしている。宇治の風景やお茶を海外の視点で表現したポップアートを展示したり、茶園の石や茶器のかけらを埋め込んだテーブルを置いたり…。店を訪ね、こだわりに込めた思いを探った。
世界遺産・平等院の門前に広がる商店街の一角、「中村藤吉本店平等院店」(同市宇治)に入ると目に飛び込んでくるのがアフリカ・タンザニア発祥のアート「ティンガティンガ」だ。横2メートル、縦1.2メートルの絵画には、宇治川を気持ちよさそうに泳ぐカバ、茶畑を飛ぶカラフルなチョウ、抹茶色のキリンが斬新に描かれている。9月の同店リニューアルオープンを機に飾っている。
同店の外観が、国の選定した重要文化的景観「宇治の文化的景観」を構成する明治期の風格ある料亭建物を生かしているのとは対照的な内装だ。中村省悟社長(42)は「宇治茶の楽しみ方で新たな価値を提供できる店にしたかった」といい、その象徴として日本在住のタンザニア出身者に制作を依頼した。
リニューアルにあたり、宇治川を眼下に望む2階は、座った時に川沿いの山々の稜線(りょうせん)や紅葉も含めて楽しんでもらおうと、あえて低めのテーブルといすを並べた。1階外側には木製テラスを設けた。セルフカフェを導入したため、客は商品を受け取ればテラスに立って景色を満喫し、会話を楽しむこともできるという。
同店は新型コロナウイルスの感染拡大により、インバウンドブームに伴う客のにぎわいが長らく途絶えた。中村さんは「地元の人も含めて『来たくなる』時間の過ごし方を提示したい」と意気込む。
宇治茶の生産現場や国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)について考えてもらう仕掛けを内装に施したのは、8月にオープンした「日本茶とジェラート かめうさぎ」(宇治市莵道)。
店内に設置した人工大理石のテーブル表面は、黒やオレンジの宝石がちりばめられたように見える。実際は、普段から取引のある京都府和束町の茶園の石や、宇治の窯元が商品化できなかった茶器のかけらを埋め込んでいる。
同店を運営する「利招園茶舗」(同)の利田直紀取締役(33)は「茶園の石を埋め込んだのは、茶の味が土壌に左右されることを知ってほしいから。茶器のかけらを見ることで、循環型社会に思いをはせるきっかけにもしてほしい」と話す。
埋め込まれた石や茶器のかけらを見た客は手触りを楽しんだり、「これは何ですか」と尋ねたりすることが多く、店側と客のコミュニケーションが生まれるという。SNS(交流サイト)映えする要素もあり、利田さんは「机の模様を見ただけでこの店を思い浮かべてもらえれば、オンリーワンの店づくりにつながる」と期待する。