札幌のスピードスター小柏剛 終わらない目標①【ケガのトンネルの始まり】

【ケガのトンネルの始まり】
北海道コンサドーレ札幌のスピードスター・FW小柏剛。彼の魅力は、ディフェンスの背後からの抜け出しと、一気にゴールを脅かすスピードだ。ルーキーイヤーの2021年には7ゴールを決め、プロ2年目の2022年、さらに期待は高まっていた。

昨年11月に行われた「アジアチャレンジinタイ」から帰国した翌日。群馬県の実家に帰省する小柏に密着した。アジアチャレンジでは、ブリーラム戦、川崎戦の2試合2ゴールと十分な結果を残した。そんな状況に「ピークがここに来ちゃって…」とはにかみながらも、「来年には繋がった」とも話した。

ただ、2戦目の川崎戦で左肩を脱臼。周囲をヒヤリとさせた。左肩の脱臼は、大学時代、2021年に続いて3回目。しかし、手術をするつもりはないという。なぜなら「来季は本当に勝負」と思っているからだ。彼にはそこまで思う理由があった。

2021年12月、ルーキーイヤーの活躍が認められ、夢だったA代表に選出された。しかし、そのおよそ1ヵ月後、ケガによる辞退が発表された。

「夢の1つだったし、チャンスを逃した」

4月のインタビューでそう振り返った悔しさは、違う形でユース時代にも味わっていた。

大宮ユース時代、小柏とともにトップチーム昇格を見送られたヴァンフォーレ甲府の長谷川。その当時「もちろんお互い悔しかった。2人でジョグしながらやってやろうぜと話した」という。

そして、コンサドーレでもプレーした、当時の大宮ユース監督だった大塚真司(現・ヴァンフォーレ甲府ヘッドコーチ)は、当時の2人に対し「剛にも長谷川元希にも、どこか足りないものがあった」とした上で、小柏には「日本を救う存在になれるぞ」と言って大学に送り出したという。

日本代表という夢をケガで棒に振ってしまったことを、2022年のキャンプイン直前まで引きずっていたが、「1年プロでやってみて、自分もこれだけ出来るんだ、これだけ評価してもらえるんだというところは感じた。代表選出があったから目標を明確にすることができた」と前向きな気持ちに変わっていた。

そして迎えた開幕戦。スタメンでの出場もゴールこそなかったが、2022シーズンの活躍が大いに期待できる躍動だった。
しかし、3月12日の横浜Fマリノス戦。後半40分に得意の抜け出しからフルスピードでゴールへ走る小柏。まさに決定機だったが、シュートはキーパーに当たり、シーズン初得点を奪うことは出来なかった。その直後、小柏の表情はゴールできなかった悔しさとは違う、険しい表情だった。

「荒野選手からボールが出て、ディフェンスとディフェンスの間を抜け出したぐらいで(足が)つりかけだなと思って、でもそのくらいだったらいつもプレーできるので、本当はGKを抜いたりとかも考えたんですけど、トーキックで打つことしかできなくて。その後はもう、あ…これ肉離れだなと思った」

右もも裏を押さえて少し歩いたものの、ピッチにうずくまった。痛みでうずくまった訳ではなく「また俺サッカーができなくなるのか…」というやり場のない思いでピッチに顔をうずめていたという。これが、2022シーズン長期戦線離脱へとつながる、長いトンネルの始まりになろうとはこのとき本人も思っていなかった。

次回 【焦りと再発】へ続く
(2022年12月30日放送 テレビ北海道「終わらない目標 札幌のスピードスター小柏剛」より)

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