札幌のスピードスター小柏剛 終わらない目標②【焦りと再発】

【焦りと再発】
病院での診断は「右ハムストリング肉離れ」。

「MRIの写真の範囲も広かったですし、出血の量も多くて、かなりいっちゃったなという感じはありました」と小柏が語った通り、2021年に負傷した左足の時とは、明らかに程度が違っていた。

シーズン開幕から約1ヵ月でのケガによる離脱。プロ2年目、再びA代表選出も見据えた勝負の年。
「ケガしてしまって、落ち込んでいる時間ももったいないというか…そんな時間もないと思いますし、切り替えてやるしかないなという気持ち」と、小柏は焦っていた。そんな中、チームは開幕から4月2日までリーグ戦6戦連続のドロー。勝ち切れない中、鳥栖に0-5と大敗を喫するなど、苦しい状況が続いていた。

ケガから約1ヵ月半が経過した4月29日の湘南ベルマーレ戦。後半18分に途中交代で試合復帰した。ピッチではアグレッシブにプレーするも、本人は怖さと違和感を感じていた。

「全力で走った時に、(負傷箇所が)キューってなる感じがあった」

これを早過ぎた復帰と感じられなかった事が、後に後悔だったとも話した。

そしてこの試合後、小柏の姿は再びピッチから消えた。

ゴールデンウィーク終盤、翌日に京都サンガF.C.戦を控えた日の宮の沢。そこに小柏の姿はなかった。彼はチームを離れ、東京に向かっていた。

そこでたった1人、自らのケガと身体に向き合った。筋トレとリハビリの日々。多い時は4部練を行い、肉体改造に努めた。

孤独なトレーニングを終え、6月に別メニューで練習に合流。7月10日の鹿島アントラーズ戦での復帰を目指していた。しかし、その試合の直前練習終了時、頭を下げ、曇った表情を見せた。

「10日の鹿島戦には、(状況が整わず)出られなくて、その次の週に練習に入っていたけど、ちょっと(肉離れ個所から)出血しちゃって、そこが結構自分的にはキツかったですね」

試合ではなく、練習で2度目の再発。先が見えなくなっていた小柏は、今まで当たり前にサッカーしてきた事が、出来ない辛さと、これからもそうなのかという不安に苛まれていた。

この辛い期間を乗り越え、再び復帰したのはそこから1ヵ月後の湘南ベルマーレ戦。奇しくも前回の復帰と同じ対戦相手。ピッチを走る姿を見ているこちらの方がハラハラした。そんな不安を吹き飛ばすように試合では、1アシストを含む2得点に絡む活躍で小柏剛の復活をアピールした。

そしてこの試合後、MF駒井善成がメディア向けのインタビューで「本当に剛は、スピードがあって相手はすごく脅威ですし、前線で組む方としてはとても楽なので、もうケガだけはしないで欲しいなと思います」と小柏の復帰を喜び、微笑みながらコメントした。

それを取材時に伝えると「お前肉離れ何してんねん!」と当時一番怒っていたのは、駒井だったという。ただ、「試合前も(足が)つらない薬と水と混ぜて作ってくれて、アップの前とハーフタイムに飲めと。そして、サロメチールもしっかり塗れよと、一番気にかけてくれていた。僕もそのおかげで湘南戦に入りやすかったですし、ケガなく終えられたと思える」と先輩の不器用な愛情に感謝していた。

次回【少年時代と家族への思い】へ続く
(2022年12月30日放送 テレビ北海道「終わらない目標 札幌のスピードスター小柏剛」より)

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