戦狼外交官が外相に~中国の“コワモテ外交”は2023年も続くのか?

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中国の戦狼外交を象徴する人事が行われた。過去に長くスポークスマンを務め、その後、駐米大使に転じていた秦剛氏が、外務大臣に昇進したのだ。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で秦剛氏を「異質なイメージ」と評し、今後の中国の外交について解説した。

中国からの入国規制を強化する国に“相応の措置”

中国外務省の記者会見が1月3日に行われた。そこで、中国を取り巻く国際関係の難しさを予測させるスポークスマンのコメントがあった。中国では新型コロナが爆発的に流行し、各国が中国からの入国者に対する規制を強化しているが、スポークスマンは、それら国々の対応をこのように非難したのだ。

「一部の国が、中国を対象に入国制限措置を取ることは、科学的根拠がない。このような過度なやり方は容認できない」

「政治的目的を達成するため、防疫措置をもてあそぶことに、我々は、断固反対する。対等の原則に基づき、相応の措置を講じる」

中国側が、具体的にどのような方法を取るのか、あるいは取らないのかは判らない。ただ、中国からすれば、自分の国だけが標的にされているように映るのだろう。国民に向けても、黙っているわけにはいかない。

それにしても、このような中国の主張に従わない相手に高圧的な言動を繰り返す手法=戦狼外交が、2023年も続くのだろうと感じてしまう。

新しい外務大臣の人事が戦狼外交を象徴する

その戦狼外交を象徴する人事が行われた。過去に長くスポークスマンを務め、その後、駐米大使に転じていた秦剛氏が、外務大臣に昇進した。12月30日のこと。長く外務大臣を務めてきた王毅氏の後任だ。

12月に予定されていた林芳正外務大臣の訪中が、新型コロナの感染拡大を理由に延期されたが、突然の外務大臣人事も関係していたのだろう。閣僚人事、特に外務大臣のような重要閣僚の人事は毎回、3月の全人代=中国の国会に合わせて発令されてきた。早く、この秦剛外相を含めた中国の新しい外交体制を整えるのが、目的だろう。

秦剛氏は56歳。69歳の王毅氏から一気に、13歳も若返った。イギリスに過去3回赴任するなど、主に欧州外交の畑を歩んできた。一方で、副報道局長や報道局長も長く務め、スポークスマンとして中国外交の「顔」だった。経済力、軍事力を背景に、中国が国際的な発言力を増してきた時と軌を一にしていた。

記者に食ってかかったスポークスマン時代の秦剛氏

私にとって秦剛氏といえば、外務省スポークスマンの時の強面(こわもて)イメージが強い。毎日新聞北京特派員時代、私はほぼ毎回、記者会見に出席していたが、秦剛氏はそれまでの歴代スポークスマンに比べると異質なイメージがある。

質問した記者に食ってかかるなど、質問した相手にもそうだが、テレビを通して、中国国内外の受け止めを意識していたようだ。

2013年12月、当時の安倍晋三首相が靖国神社を参拝した時は、秦剛氏は日本を、こう非難している。

「日本の政治屋は、口では民主、自由、平和と言うが、その一方で、軍国主義の亡霊を呼び戻した」

2007年には国会で、その年の中国の国防予算が公表された。中国の国防費の不透明性について尋ねられた時、秦剛氏は質問した外国人記者に、語気を強めて逆質問した。

「誰かがあなたの下着をまくり上げ、『中にあるのは、どんなモノなのか、見せろ』と聞かれたら、どう思うか?」

さらにさかのぼって、2005年4月。中国各地で日本の国連安保理常任理事国入りに反対したり、日本の歴史教科書の検定に抗議したりする反日デモが広がった。北京の日本大使館などに被害が出て、日本は中国に対し、謝罪や補償を求めたが、この時、秦剛氏は「日中関係における今日の局面は、中国側には責任はない」との談話を発表した。

繰り返すが、秦剛氏は世論を意識して「演じている」部分もある。だから時には高圧的にも見える態度は、ネット上では「戦うスポークスマン」として人気が高かった。だが、外国人記者の評判は? というと、敬遠する声も少なくなかった。

早くから嘱望され? 駐米大使としての赴任は短期間

駐米大使としてワシントンへ赴任したのは、2021年の7月末。だから、今回、外務大臣に昇進したことで、その在位はわずか1年5か月だった。秦剛氏の前任の駐米大使は8年間、ワシントンにいた。しかも、秦剛氏は欧州畑。アメリカに精通しているわけではないが、中国にとって最も重要な相手国・アメリカに赴任した。

秦剛氏の経歴を、こうして振り返ると、早くから嘱望されて、外務大臣になるように、キャリアが用意されていたようにも思える。昨年10月の共産党大会では中央委員に昇格していた。

外務大臣になっても、「戦う狼」のスタイルを貫くのかどうかはわからない。しかし、スポークスマン時代からの強面のイメージは、本人にとっても、中国外務省にとっても「いい材料」だ。当然、秦剛氏の外務大臣起用は、習近平主席の意向が色濃く働いている。

強硬な外交姿勢が続く公算が大きい

一方、前任の外務大臣の王毅氏は、習近平政権で目立ってきた戦狼外交を牽引してきた。その王毅氏は、さらに昇格し、中国共産党で外交を統括する部門(=中央外事工作委員会弁公室)のトップに就任した。やはり昨年秋の共産党大会では、党のトップ24人による政治局の委員に入った。69歳の王毅氏の政治局員昇格には内規である「68歳定年」の壁を突破したことになる。王毅氏も、習近平氏の評価が極めて高いといえる。

これから、中国の外交は、王毅-秦剛ラインになる。日本にとっても手ごわい相手だろうし、対米関係、そして台湾との緊張状態がどうなるか。ウクライナ情勢も、収束しそうに見えない。

中国の強硬な外交姿勢が続く公算が大きいと思う。秦剛外務大臣を注視していきたい。

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◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎

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