遺言の日

 よく知られた一句は、57歳の一茶が詠んだ。〈めでたさも中くらいなりおらが春〉。新年といってもめでたいのかどうか、あやふやなものだ…▲65歳の辞世の句は〈ああままよ生きても亀の百分の一〉。亀は万年というが、人はどんなに生きても亀の百分の一。俳句にうつつを抜かすことができた一生、こんなところかな。死を見つめて紡ぐ言葉には、その人の経験、人柄、人生観のもろもろが凝縮されるのだろう▲一茶のような淡々とした一作もあれば、しみじみとした作風もある。1を「い」、5を「ごん」と読んで、きのう1月5日は「遺言の日」とされ、「第7回ゆいごん川柳」の上位賞を日本財団が発表した▲寄せられた1万4800作のうちの大賞は〈無効かな 涙で滲(にじ)む 遺言書〉。書いているうちに涙が滴り、文字がすっかりにじんでしまった、と▲日本財団は同時に、全国の60歳から79歳までを対象とする調査結果も明らかにした。終活に興味のある人は60%に上るが、遺言書をすでに作った人は3%ほどにとどまる。その理由は「手間がかかりそう」が最も多かった▲ゆいごん川柳の過去の入賞作を。〈下書きを 妻に見つかり 書き直す〉。中にはこういう“手間”もある。淡々とした〈ああままよ〉の達観は、なかなか得がたいものらしい。(徹)

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