大学発ベンチャーの「起源」(72) シンプロジェン

遺伝子治療にイノベーションを起こすシンプロジェン(同社ホームページより)

シンプロジェン(神戸市)は神戸大学発の合成生物学ベンチャー企業。同大でバイオ生産工学・合成生物学の研究を統括していた近藤昭彦同大大学院科学技術イノベーション研究科長が、枯草菌を用いたDNA合成法を研究していた柘植謙爾氏を迎え入れたのが同社の「起源」である。

枯草菌を利用して遺伝子治療に「革命」

同研究科は2016年1月に、技術シーズを事業化する科学技術アントレプレナーシップ社(STE社)を立ち上げていた。招聘された柘植特命准教授が開発したDNA合成技術を社会実装するため、STE社の第2号の支援案件として2017年2月に創業したのがシンプロジェンだ。

最先端の遺伝子工学や情報科学、ロボット工学を駆使することで、DNA合成サービス、DNAライブラリーの開発・合成サービス、遺伝子治療に用いられる治療用ベクターの開発サービスなどに取り組む。

同社の研究開発拠点となっている神戸R&Dセンターでは、DNA合成やプラスミドDNA大量調製のほか、ウイルスベクター作製、プロセス開発、特性解析・品質試験からGMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)準拠製造施設への技術移管まで、幅広い顧客ニーズに対応している。

同社の基幹技術はOGAB(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis)法という遺伝子集積技術。OGAB法は枯草菌のプラスミド形質転換系を利用した多重DNA断片の集積法だ。枯草菌は環状化していないDNA断片でも、菌自身の中に取り込んで環状化してくれる。そのためDNAを環状化する工程が不要で、従来利用されてきた大腸菌では合成の難しかった長鎖プラスミドDNAを簡単に作成できる。


みずほ銀などから5億円超の資金調達に成功

具体的には、DNA断片の末端に設計した3~4塩基の特異性を利用して、最大で50個を超えるDNA断片を一度の操作で連結する。これによりコストを抑えながら、長鎖DNAを合成できるという。

この技術を利用して高品質・低コストで遺伝子治療用ウイルスベクターの設計や開発、分析を提供する「遺伝子治療バイオファウンドリ・サービス」を提供。2022年12月に独メルクとの間で、遺伝子治療用ウイルスベクターのプロセス開発とGMP製造について協業する基本合意書を締結するなど、着々と実績を積んでいる。

2022年12月9日には、みずほ銀行をリード投資家に、ジャフコグループやライフィクスアナリティカル、KISCを引受先とする第三者割当増資(シリーズC-1ファイナンス)を実施し、約5億4000万円の資金調達に成功した。調達した資金は最先端研究機器への設備投資や研究開発スタッフの増員などに使い、遺伝子治療用ウイルスベクターの開発や製造基盤の構築を急ぐ。

根本的な治療法がまだ見つかっていない難病を克服できる遺伝子治療は、患者はもちろん医療機関や創薬メーカーからも注目されている。同社が開発しているのは、その「インフラ」となる基幹技術だけに、これからも、さらなる成長が期待できそうだ。

文:M&A Online編集部

M&A Online編集部

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。

© 株式会社ストライク