長崎県庁跡地 どう活用? 出会い、集いの場… “野外オフィス”で働く職員の目に映る風景

 長崎市江戸町の県庁跡地。年明け早々、旧県庁正面玄関前の石だたみにテントやいすが並び、休憩場所となっていた。行き交う人がさら地となった跡地を眺めていく。県は昨年10月末から一般向けに一部を開放し、具体的な利活用の検討を進めている。「思い入れのある人が多くて、面白い出会いもたくさんあります」と担当者。職員の目に映る跡地の風景を教えてもらった。

“野外オフィス”で仕事をする県職員=長崎市江戸町

 暫定供用の開始以降、年末年始を除き、安全管理も兼ねて県県庁舎跡地活用室の職員5人が交代しながら“野外オフィス”で仕事をしている。テントの下にテーブル、いす、パソコン。訪れた人に声をかけ、アンケートをお願いすることも。「コロナ禍でリモートワークが進んだからできた形。住民の思いを直接聞け、県庁の机に座っているだけでは分からないことばかり」。鯨臥富生室長は現地駐在の意義をこう強調する。
 デザイナー、二胡(にこ)奏者、画家、インフルエンサー、医学部生、eスポーツ関係者…。多様な分野の人が立ち寄っては、ここで何ができるかアイデアを語っていく。跡地を囲う柵には長崎市の街並みの古写真が掲示され、懐かしそうに見入る住民の姿も。そんな中、鯨臥室長が特に印象に残っているのが1人の女性だ。
 11月上旬、女性と10分ほどしゃべって意気投合した後、鯨臥室長が尋ねた。「ところで何をされてる方ですか?」。音楽をやっていると明かした女性は「この場所(県庁)には本当にお世話になりました」。
 1990年に長崎市で開催された長崎旅博覧会。女性は、旅博のイメージソング「私ここにいます」を歌った3人組グループ「ひ・ま・わ・り」のメンバー、山田(旧姓田渕)睦美さん(54)=長崎市在住=だった。数日後、山田さんは音楽仲間と訪れ、旧県庁正面玄関前で同曲を披露。この地で歌ったのは30年以上ぶり。当時のファンの姿もあったという。跡地で偶然出会った舞踊家とも共演した。

旧県庁正面玄関前で歌う山田さん(左)(県提供)

 山田さんに話を聞いた。オーディションに合格し、知事室で当時の高田勇知事を前に、緊張しながら歌ったこと、旅博後から解散までのグループの波瀾(はらん)万丈な活動-。記憶を語った山田さんは言う。「ひ・ま・わ・りがなければ歌を続けられてはいなかった。だからこそ、この場所に音を届けたかった」。跡地については「深い出会いが生まれる場所になってほしい」と期待を込めた。

 5月までの供用場所は旧県庁正面玄関前と第二別館跡地の2カ所。旧県庁坂方面から出島方面への通り抜けはできない。第二別館跡地では週末にカキ小屋が開かれ、地域住民らの新たな交流の場となっている。企画した一人で近くの美容師、一ノ瀬智也さん(36)は「お客さんの年齢層も幅広く、口コミで広がっている」と手応えを話す。カキのシーズン後も人が集う場所をつくろうと、仲間と計画を練り始めている。
 県はイベントなどでの利用を歓迎。鯨臥室長は「歴史の詰まったこの場所に対する住民の思いを大切にしつつ、いろんな人のアイデアをつないで、周辺地域以外の人たちも幸せになる使い方を考えていきたい」としている。
 県庁跡地活用について、県は昨年6月、県庁舎跡地整備基本構想案を策定。▽にぎわいの場として利用できる「広場」▽本県の歴史や魅力を体感する「情報発信」▽若者や女性、NPOなど多様な交流を促進する「交流支援」-の三つの機能を整備する方針。暫定供用での利用状況などを踏まえ、広場内に設置を想定している建物の規模や配置を検討し、2024年度以降に設計・整備される見通し。


© 株式会社長崎新聞社