VOL.05実は大事なこと。地味CESを追いかける [CES2023] 

CES2023の醍醐味は多様性を許容していること

実に3年ぶりにCESに参加して、様々な場所を無計画に歩き回ってみると、少しずつ、忘れていた「CESの醍醐味」みたいな感覚が蘇ってくる。

CESで華々しく発表されたテックトレンドやプロダクトを記事や映像などを通しても、なかなか伝わらない「CES感覚」みたいなものなのかもしれない。参加してみないとこの感覚感はわからないだろう。実際、しばらくフィジカルに参加できなかった間、筆者もすっかり忘れていた感覚だ。

久々に参加ですごく明確になるのが、CESをCESたらしめているのは「超巨大な電気屋さんの中を歩き回る」感じなのだ。CESには、最先端のテクノロジープロダクトだけではない。むしろ最先端ではない展示ブースや展示プロダクトのほうが多数だ。

露店で売っていそうな派手な携帯ケースに始まり、七色に光る「誰が使うんだ?」と思わせるようなキーボードに至るまで、何から何まで、多様なものがCESには、数多く出展されている。CESには、そういう雑多なプロダクトが陳列されている「超巨大な電気屋さん」の側面があると言える。

そこで今回は、CESには最先端のスマートモビリティも出展されているけど、「実はこんなものまで出展されている」という切り口で、実は大事な「地味CES」を演出する展示物を紹介していこう。

「地味領域」に注目。さまざまな領域に存在する技術や製品

中国・深圳を代表する電気街といえば華北強。新型コロナウィルスの感染拡大をものともせず、中国は深圳から参加しているブースはたくさんあった。 コロナ前までは毎年あった光景だが、まるで華北強(深圳の超巨大な電気街)が引っ越してきたかのように、中国系ブースが、様々なOEM向け商品の展示や、華北強で売っていそうな、おもしろガジェットをデモンストレーションしている。

たとえば、この光る板(やはり中国系ブースに展示)は、とても興味深い形状をしていて、何かすごいことが起こりそうに見える。「これは何なんですか?」と聞いてみると、キーボード用のリストレスト(手首を置いとくやつ)なのだと言う。凄くはなかった…。さらに説明を聞いていると、「電源を入れるとあったかくなる」という機能がついていた。

CESの広大さとはこういうことだ。「AIを駆使したスマートグリッド技術」的なものと「光ってあったかくなるリストレスト」が一緒にぶち込まれた多様性ゴリゴリの製品やサービスがされるイベントがCESの正体であり、これらの地味プロダクト達と偶然出会ってしまう体験はCESの大切な要素なのだ。

炎の部分がゆらゆらゆらめいているキャンドルっぽいテーブルライトを扱っているブースもあった。メタバースオブシングスだのサステナビリティだの、先鋭的な言葉が飛び交う中、最高にほっこりする。嬉しくなって、買うつもりもないのに値段を聞いちゃったりする。

luosite8

細かい部品を展示している人たちもいる。写真は、パソコンの冷却などにも使われるヒートパイプだけを展示しているブースのものだ。

日本の部品工場の皆様も展示すると良いのに、と思ってしまう。ヒートパイプのような地味極まりない部品であっても、ちゃんとラスベガスまで来てしっかり営業する、というのはとても素晴らしい努力と言える。

ateios

そしてもちろん、地味な展示をしているのは中国系ブースだけではない。インド人男性がぽつねんと座って展示していたこの板は、ぐにゃぐにゃと曲げることも可能な薄型のバッテリーだ。地味だけど、強度もありそうで良さそうな製品。顧客のプロダクトに合わせてカスタマイズも可能だと話していた。展示物の地味すぎる感じを自覚しているのか、手指洗浄液のキーホルダーを用意して配っていた(https://ateios.com/)。

XO

Consumer Electric Show(家電見本市)と呼ばなくなり、家電に限らず様々な領域をカバーするという意味か、略称の「CES」が正式名称になって数年。大手・先端領域では自動車会社の参入なども話題になってきたが、地味領域においても、もはや全く電気と関係のないものが展示されている。

この「XO」は、プルタブを開けた缶のプルタブのところを塞いで保存性を高める、ある種台所用品だ。100円ショップにも売っていそうな気がするが、しかしこれはありそうで無かったプロダクトでもある。

電気屋に行ってやることの1つと言えば、マッサージ機に座ってリラックスすることかもしれない。CESにもたくさんのマッサージ機が展示されて、歩き疲れた参加者の休息ブースになっていたりするが、それに限らず様々な製品を触って体験することができる。

Nurieye

こちらは、ドライアイに効果があるという特殊アイマッサージャーの展示。ちょっと遠くから見ていたら、「ちょっと来い、やってみろ」と、やや強引に座らされてアイマッサージ開始、ドライアイに効果があるかどうかは体験的にわからなかったが、ちょっとした休憩になった。

VIBRA FIT

体験したことがない様々な体験をすることができるCESだが、地味領域でもそんな体験はできる。こちらの体重計のようなプロダクトは、「VIBRA FIT」。パッと見、何も起こっていないように見えるが、実は床部分がプルプルプルプルと震動していて、それに伴って体全体が振動する。この振動が「ダイエットに効く」と謳われていて、「本当かなあ…」と懐疑的になりつつも、乗ってみると気のせいかもしれないが、身体の脂肪がほぐれたような気がしないでもない。

「超巨大な電気屋」でもあるCESの中では、以上のような地味楽しいプロダクトや体験にひっきりなしに出会うことができる。CESで発表されるテックトレンドは報道で知ることができても、そんな愛すべき「地味CES」は、実際に行かないと触れることができない。そして、またリアルなCESが帰ってきた。

取材協力:なかのかな / 土屋泰洋

おまけ:中国らしさ

華北強(深圳の電気街)っぽいのはプロダクトだけではなく、たとえば、ブース内で、一緒に子供が遊んでいたり、展示そっちのけで居眠りしていたり、いろいろ自由な感じなのもとても楽しい。

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