医師が教える炎症を予防・改善する食事と呼吸の習慣

さまざまな病気の原因につながる可能性がある炎症ですが、その予防や改善のためにはどんなことに気をつければいいのでしょうか?

日本病巣疾患研究会副理事長で医師の今井 一彰( @imakazu )氏の著書『名医が教える 炎症ゼロ習慣 ~体内年齢が10倍若返る~』(飛鳥新社)より、一部を抜粋・編集して食事や呼吸と炎症について解説します。


「腹八分目」は長寿遺伝子をオンにする

慢性炎症を予防・改善したければ食べすぎは禁物。第1章でも述べたように、体にたまった脂肪は慢性炎症の原因になるからです。さらに食べすぎてしまうと、「サーチュイン遺伝子」が十分に働かないこともわかっています。

サーチュイン遺伝子は別名「長寿遺伝子」とも言われる遺伝子。人の細胞は分裂を繰り返して新陳代謝を行っていますが、その分裂する回数には限界があります。サーチュイン遺伝子には、この細胞分裂の回数を増やして新陳代謝を活発にし、老化を抑えるはたらきがあります。

一方、分裂回数の限界を迎えた細胞は新陳代謝ができなくなり、老化細胞となります。これがたまってくると、炎症を促進するサイトカインなどの物質が分泌され、慢性炎症が起こります。

つまり、サーチュイン遺伝子によって老化細胞の蓄積を抑えられれば、老化を防ぎ、慢性炎症の予防にもつながるということ。加えて、サーチュイン遺伝子には、直接的に慢性炎症を改善するはたらきがあるという報告もあります。

ところが、普段、サーチュイン遺伝子はスイッチがオフになって、ほとんどはたらきません。スイッチをオンにするには、(1)カロリーをとりすぎない、(2)空腹感を感じる時間をつくるようにすればよいのです。

そのためには、まず一食一食を「腹八分目」でやめることが大事。「もうちょっと食べたいな」というときが「ごちそうさま」のタイミングです。早食いは食べすぎのもとですので、ゆっくりよく噛んで食べましょう。

さらに、食べる量を可視化することも効果的です。大皿に盛りつけたものを自分で取り分けると、自分がどれくらい食べたかわからなくなって、どうしても食べすぎてしまいます。食事は一人前ずつ盛りつけるのがベストです。

「1日のうち12時間」は何も食べない

あなたは今日、どんなタイミングでごはんを食べましたか?「お腹は空いていなかったけど、ランチの時間だから」という理由で食べているとしたら、体はそこまで食事を求めていないかもしれません。

「おなかが空いた」と感じる時間をつくることが大切と前節で話しましたが、食べすぎを避けるとともに、食事と食事のあいだの時間を長めにとるのも効果的。

具体的には、1日のうち、12〜16時間食事をとらない時間をつくるとサーチュイン遺伝子が活性化すると言われています。

実践するとしたら、夕食と朝食の間隔をなるべく空けるのが現実的でしょう。

たとえば、19時に夕食を済ませ、翌日の朝7時に朝食をとれば、12時間食事をとらない時間をつくれます。

場合によっては、食事の回数を減らしてもよいでしょう。

「規則正しい食事が大切」と言いますが、1日3食にこだわりすぎて、空腹でもないのに食事をするのは、かえって体の負担になります。

食事をとるタイミングは、時間に合わせるのではなく、自分の体に合わせるのがベスト。体の内なる声に耳を傾けて、できるだけ空腹を感じてから食べることを意識してみては?

いつもなら夕飯を食べる時間でも、「あまりおなかが空いていないな」と思えば、野菜ジュースだけで済ませる日があってもよいでしょう。自分の調子と相談して食べる時間や食事量を調整するようにすることは、自分にとっての「腹八分目」を知ることにもつながりますよ。

もちろん、食事量を減らしすぎて栄養不足になってしまうのは、体にとってマイナスになるのでNGです。高齢者ほど食事量には気をつけましょう。ごはんや麺、パンなどの主食(炭水化物)だけに偏らないように、お肉やお魚、野菜もしっかりとって、たんぱく質やビタミン・ミネラルの不足を防ぎましょう。

食事ひとくちで「30回噛む」

「よく噛んで食べなさい」。先生や両親などから、だれもが一度はこう注意されたことがあるでしょう。聞き飽きたという人も多いでしょうが、実はこの昔ながらの教えは、慢性炎症の予防や改善に役立つことを知っていましたか?

その秘密は唾液にあります。

食べ物を噛んでいると、その刺激が脳に伝わって、反射的に唾液が分泌されます。この唾液には、体のサビ(活性酸素)を除去するはたらきがあるのです。唾液には抗酸化作用のあるペルオキシダーゼという酵素が含まれているんですね。

さらに、唾液には抗ウイルス・抗菌作用を持つ物質も含まれています。唾液には体にとって悪い菌が侵入しないように防ぐ役割もあるわけです。

唾液がたっぷり出ていると、炎症を引き起こす感染症にかかりにくくなります。

たとえば、歯周病も感染症の一種で、慢性炎症をともないますが、唾液にはこの歯周病の原因となる歯周病菌の増殖を抑えるラクトフェリンとラクトペルオキシダーゼという成分が含まれています。これらの成分は歯周病菌だけでなく、多くの病原菌への抗菌作用、抗炎症作用などがあると言われています。

さまざまな健康効果を持つ唾液ですが、20代をピークにして、その分泌量は徐々に減少します。赤ちゃんはよだれでベタベタになりますが、年をとると口の中は乾燥しやすくなりますよね。唾液が十分に分泌されているのは、健康な証拠。毎回の食事の際、「ひとくちで30回噛む」ことを目安に、唾液を出すことを意識してほしいものです。

よく噛んで食べるコツのひとつは、ひとくちの量を少なめにすること。口のなかに入れる量が多いとよく噛めないので、早めに飲み込んでしまいがち。噛む回数が減ってしまうからです。ひとくちを控えめにして、よく噛んで味わって食べるようにしましょう。

万病を招く「口呼吸」をしない

人間のような哺乳類は本来、鼻から息を吸って、鼻から息を吐くというふうに、「鼻呼吸」をする生き物です。ところが、現代人のなかには、口呼吸になってしまっている人が少なくありません。とくに最近は、マスクをつけている時間が長くなって、その息苦しさから口呼吸になる人が増えているので、注意が必要です。

なぜ、口呼吸がいけないのかというと、体の防御機能が落ちるから。鼻は空気を体に取り入れる際の「空気清浄機」の役割をしています。鼻毛が空気中のホコリや花粉をせき止め、鼻の粘膜やそこに生えている細く短い繊毛が細菌やウイルスなどの有害物質をろ過してくれているのです。

同時に、鼻は「加温・加湿」の機能も備えています。細菌やウイルスの繁殖を防ぐためには、冷えや乾燥は禁物。鼻から吸い込んだ空気は鼻腔内で温められ、加湿されて肺に送り込まれます。

一方、口は本来、食べるための器官なので、鼻のような防御機能はありません。

口で呼吸をすると、ウイルスや細菌などの有害物質が侵入・繁殖しやすくなってしまううえ、体内に継続的に有害物質が侵入すれば、慢性炎症が引き起こされるリスクも大幅にアップします。

次のような人は口呼吸の可能性が高いです。すぐに鼻呼吸に切り替えを!

□気づくと、口が開いていることがある
□口の中がかわきやすい
□唇がかわいて、荒れやすい
□鼻詰まりがある
□いびきをかく
□起きたとき、のどが痛いときがある
□口臭がきつい

「落ちベロ」を正しい位置に戻す

慢性炎症の原因になるこわい口呼吸。なぜ、口呼吸になるのでしょうか。それは、舌の位置が関係しています。舌の位置が間違っていると、口呼吸になりやすいのです。

あなたの舌の位置は正しいですか? ……といっても、そもそも舌の正しい位置を知らない人、自分の舌の位置を意識したことがない人が多いかもしれません。

まず、自分の舌の位置(ベロポジ)を確認してみましょう。口を閉じたとき、舌はどこにありますか? もし、舌の先が上の歯、または下の歯の裏についていたり、どこにもふれずに宙ぶらりんな状態だった場合、それは、舌の位置が間違っています。おもに加齢や筋力低下によって舌が垂れ下がっている、「落ちベロ」になってしまっているのです。

舌の重さは約150g、分厚いステーキ分くらいあります。そのため、舌が垂れ下がって下あごに力がかかると、自然にパカッと口が開いてしまいます。これが口呼吸の原因になるのです。

正しい舌の位置は、「舌が上あごにぴったりとくっついている状態」です。舌を前歯の裏から上あごにそわせていくと少しへこんだ位置にたどりつきます。そこで鼻から息を吸い込むと舌が上あごにくっつきます。そこが舌のベストポジション。「違和感がある」「すぐ疲れる」という人は、普段、舌の筋肉が衰えている証拠。気づくたびに、舌の間違った位置を修正しましょう。

「あいうべ体操」で舌を鍛える

舌を正しいポジションに置くとつらかったり、いつの間にか舌が落ちてしまうという人は、舌の老化が進んでいます。舌の筋肉が衰えているのです。

けれども心配はいりません。トレーニングを行えば、何歳からでも舌の筋力をアップさせることができます。舌の筋トレを行えばいいのです。

基本のトレーニング方法が、私が考案した「あいうべ体操」です。いまでは全国の医療機関や病院・介護施設、小中高校などでも広く取り入れられています。

1日の目安は、1セット30回です。口や舌をなるべく大きく動かして筋肉を鍛えましょう。口の中が乾燥しないほうがよいので入浴中に行うのがとくにおすすめ。

ただ、入浴中、一度に30セット続けて行うのがめんどうな場合は、1日3回、10セットずつに分けて行ってもOKです。

名医が教える 炎症ゼロ習慣

著者:今井一彰
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