Yusen Logistics (Hong Kong) Limited. 董事長 小野 隆さん

郵船ロジスティクスは中国広東省から香港国際空港までフィーダー船を使った航空貨物輸送サービスを開始した。香港国際空港を管轄する香港機場管理局(AAHK)が推進する「エアポートシティ」プロジェクト開始当初に、唯一の日系フォワーダーとして参画したもので、越境陸送の代替手段としてだけでなく、恒常的なルートとしてフィーダー船を使用し安定したスケジュールを確保する。詳しい話をYusen Logistics(Hong Kong) Limited.董事長の小野隆さんに伺った。 (聞き手 編集部・楢橋里彩)

プロフィール

Yusen Logistics (Hong Kong) Limited. 董事長 小野 隆さん

1989年、郵船航空サービス(株)入社。2003年、西日本営業本部京都支店営業課課長に就任。04年にはYusen Air & Sea Service (France) S.A.R.L.Asst.GM、15年 に郵船ロジスティクス(株)西日本営業本部大阪支店支店長を経て、19年よりYusen Logistics (Hong Kong) Limited.董事長を務める。

――香港での事業は1973年に開始されましたが、事業展開の経緯についてお聞かせください。

1970年代は香港に工場を移設する日本企業が増え、日本との貿易が拡大していた時期でした。それに伴い当社の主要事業である輸出入のフォワーディング、特に航空貨物の取り扱いおよび集荷、配送の業務を香港で開始しました。

フォワーディング事業は右肩上がりを続けていましたが、規模が徐々に大きくなるにつれ、フォワーディングに携わる人材の確保に非常に苦労を重ねていました。そのため多くのナショナルスタッフを登用し、それらの従業員が草分け的な存在となり会社の成長と共にキーポジションを担っていき、日系企業と香港の橋渡し役となっていきました。日本人駐在員と共に、現在に至る日本品質を中心とした独自の企業価値をつくり上げてきました。

――2003年に締結されたCEPAにより事業はどのように拡大しましたか。

中国本土での外資規制が存在していた中で、香港会社はCEPAを利用した中国本土への投資が可能であり、その役割は中国本土に事業拡大する上で必要不可欠なものでした。2000年代から上海、北京、広州に香港資本の会社を設立し、物流事業のライセンスを取得することで、中国本土に当社ネットワークを拡大し、事業展開することが可能となりました。

――香港の物流業界の現状と課題についてお聞かせください。

近年の香港を振り返ると、

・2019年、民主化運動抗議活動

・2020年、コロナ禍、国安法制定

・2021年、選挙方法改変による民主派一掃、移民等々による人口減少

・2022年、中国返還25周年、行政長官交代

とわずか4年ながらまさしく激動の時を過ごしてきたと言えます。それらに起因した様々な波動が激しく乱高下する状況下で、物流業界も未曽有のマーケット環境を経験し、まだまだその先行きは不透明かつ見定めるのは極めて困難な情勢です。

グローバルに目を向けると、ロシアによるウクライナ軍事侵攻、米中デカップリング、利上げや物価高騰などによるリセッション、近隣では中国防疫政策堅持継続、台湾地政学リスクなどビジネス環境を取り巻く話題には事欠かない、まさしく激動という言葉が当てはまる時勢下にあります。

上述の通り、目まぐるしく変動激変するマーケット環境下において、香港における物流業界を取り巻く課題は多岐にわたり、直近の懸念事項としては以下の通りです。

①人材の流出・人材の確保

②中国防疫政策軌道修正に伴う混乱、中国本土との往来制限による混乱(クロスボーダートラックなど)

③香港独自性・優位性の希薄化

しかしながら、これら課題を乗り越えれば、物流・貿易における立地的優位性に新たな特性が加味され、粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)構想にもあるように、華南地域との共生が推進され、香港が世界有数のゲートウェイとなることが期待できます。われわれ香港法人も50周年を迎えるにあたり、グループ経営理念のもと「世界で認められ選ばれ続けるサプライチェーン・ロジスティクス企業になる」という使命を全うするため、「Insight」を駆使し本質を見極め、「Service Quality」の向上維持に努め、「Innovation」のまさに新しい価値創造を見いだし、当地においても持続的発展につながる企業として努力を継続する所存です。

――長引くコロナ流行に伴い物流にどのような障害をもたらしたのでしょうか。

香港は中国のゲートウェイとして多くの貨物が流入し、ヒトの移動が大きく制限される中でもモノの流入は活況となった一方で、スペースの供給が著しく低下し、需給バランスが変化していき、航空、海上問わず貨物のリードタイムや運賃に大きな変動がありました。

中国本土への玄関口として、感染拡大当初は日本からの輸入貨物が増大しましたが、感染の拡大に伴い、クロスボーダートラックが制限されると、中国本土のゲートウェイ機能を有する香港の物流に大きな障害が生じました。香港から中国本土への流入に問題が生じることで、香港経由で中国本土へ輸送されていた一部の貨物は、深圳や広州あるいは他の地方都市へ直接送られるようになり、お客様の商流とサプライチェーンに変化が起きています。

しかしながら、香港の地理的優位性や特に航空における国際空港のハブ機能はまだまだ大きな可能性を秘めており、東アジア地区の中核として、香港の新しい価値の創造に期待しています。

――エアポートシティ、また香港市場への期待について聞かせてください。

すでに報道にもある通り、香港機場管理局は香港および各地域の経済発展を推進するために、空港の輸送能力・機能の更なる向上を図り、今後10年において400億香港ドル以上を投資する計画を発表し着工に至っています。

香港国際空港を新たなランドマークとして経済発展を促進する「エアポートシティ」では、新しいインフラ構築によるビジネスチャンスを利用し、空港のコア機能と関連産業をシームレスに統合することによって、大きな相乗効果が生まれることが期待できます。これは外需的拡大のみならず内需的拡大にもつながるプロジェクトであり、香港そのものの活性化や底上げにも大いに期待するものです。香港最大級のショッピング、ダイニング、エンターテインメントの総合施設、2万人収容可能なアジアワールドエキスポ完成は圧巻ではないでしょうか。空港施設の整備向上プロジェクト推進を主眼とし、様々な運営効率化が図られることを期待します。また、更なる入境規制の緩和と共に「ひと(人流)」旅客インバウンドを含む活性化が進み、その相乗効果は「もの(物流)」へと拡大すると確信しています。

当社も当該プロジェクトに参画し、中国広東省東莞市の保税区から香港国際空港へフィーダー船による航空貨物輸送サービスを開始しました。東莞虎門総合保税区に香港国際空港の拠点が設立されたことにより、中国本土からの輸出貨物を彼らの管理下にて通関、セキュリティー検査、パレタイズ、検量、ラベリングなどの作業した後、香港国際空港のエアサイドカーゴターミナルに海上輸送し、世界各地へ直接発送することが可能となります。

またこれから2025年までに輸入貨物へも拡大し、中国本土へ輸入される航空貨物においては香港空港到着後、通関手続きなしで香港国際空港の制限区域から当該東莞保税区へ直接運送することができるようになり、更に運用次第では海空複合輸送モード構築にも結び付けることができると期待しています。これは香港を基点とする物流動線が世界および中国国内のより広いマーケットへと展開し、新たな旅客・貨物供給源となるプロジェクトです。中国国内の物流の発展、促進に寄与し、香港が有数の物流ゲートウェイとして不変の存在となることを期待しています。

港国際空港ビルにて香港機場管理局メンバーと撮影

中国広東省東莞保税区からフィーダー船で香港国際航空に到着した当社ULD

――粤港澳大湾区での事業展開の構想についてはいかがでしょうか。

広東省・香港・マカオから成る大湾区は、人口8000万人以上、GDPは約12・2兆円(中国全体比11%)と巨大な経済圏を有しています。今後もハイテク産業を中心に成長が期待でき、特に東南アジアとのつながりも活発になっていくと予測しています。

米中貿易摩擦、コロナ禍にも関わらず「一帯一路」沿線およびびRCEP加盟国への輸出額は2020年比10%以上増加しており、大湾区の存在感は日に日に増していると考えています。

そのような状況の中、香港機場管理局のプロジェクトを一つの契機と捉え、東莞を基点とした航空貨物需要に留まらず、海上、鉄道、ベトナムなどへのクロスボーダーなどの拠点といった陸海空様々なモードのサービスを大湾区からお客様に提供して参ります。

香港国際空港のターミナルへULDを移送

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