<夜明けのレンズ 起立性調節障害を越えて> 「動けないつらさ」理解を 県立こども医療福祉センター副所長兼医療局長 小柳憲司医師

「人と比べず、自分ができる範囲で生活をしてみてほしい」と呼びかける小柳医師=諫早市永昌東町、県立こども医療福祉センター

 〈思春期に発症しやすく、不登校の3~4割に伴うといわれる疾患「起立性調節障害」。諫早市の県立こども医療福祉センター小児心療科で同疾患の診察を行う小柳憲司医師に、その特徴と、本人や周囲の向き合い方などについて聞いた〉

 -起立性調節障害とはどんな病気か。
 思春期に起こる自律神経の失調状態。体の成長に体の機能が追い付かないために具合が悪くなる。体と脳への血流が減ることで目まいや朝起きられないなどの症状が起こり、意欲や集中力の低下など精神的な症状も現れる。暑い時季や天気が悪い日に症状が悪化し、疲れや睡眠不足などでも状態が悪化する。治療は生活改善が基本。十分な睡眠や水分補給、適度な運動を続けてもらい、必要に応じて薬を使う。

 -当事者の子どもはどんな状況に直面するのか。
 ひどくなると昼夜逆転の生活や抑うつ状態になる場合もあるが、多くは軽症で生活を整えると元気になる子どもが多い。小児科では普通の病気だ。ただ、調子がよい時と悪い時との差があるために、学校生活では「サボり」と見なされることもある。例えば、行事に何とか参加しても疲れがたまり、その後も「頑張る」ことができない。ほかの人が楽にできることができず、無理をすると調子が悪くなる。だから「自分はダメだ」と考えてしまう。部活などのやりたいことを諦めなければならなくなり、つらい思いをする子どももいる。

 -何とか学校に行かせようとする保護者が多い印象がある。
 保護者が子どもを𠮟咤(しった)激励するのは当たり前。ただ、動けない子どもは本当にきつい思いをしている。頑張れば何とかなる具合の悪さではない。動けないほどつらいということを理解し、どこかのタイミングで保護者が気持ちや考え方を切り替えることが必要だ。

 -学校をはじめ当事者を取り巻く社会はどのような対応をすべきか。
 学校には当事者に調子がよい時と悪い時の波があることを理解してほしい。中学から高校に進学する際に(通信制など)自分の状態に合った学びができる学校を選べば、適応できる場合がある。ただ、学校はどうしても一斉に同じことをする場面が多い。多様な生き方を認めてほしい。
 また、以前より認知度は高まっているが、病名だけが独り歩きして腫れ物に触るような扱いをされることもある。「何もできない児童生徒」として接するのではなく、「病気だけどやれることをしよう」という働きかけをしてもらいたい。

 -当事者は自身の病気にどう向き合えばよいか。
 周りが気になるのは当然で、自分に自信があると言える子もいないだろう。ただ、普段診ている子どもたちには「『人は人、自分は自分』。自分のできることをしっかりやることが一番大事」と伝えている。症状に一生悩み続けるわけではないし、みんなと同じことができないのは悪いことではない。できる範囲で生活することで変わっていくはずだ。


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