戦場からじかに発信し、ニュースでは伝えきれない世界の現実を突きつけるーー映画『戦場記者』

©TBSテレビ

須賀川拓氏は、中東を中心に、欧州、アフリカ、アジアと地球の約3分の1エリアをカバーするTBSの特派員記者だ。イスラエルからの攻撃を受けるパレスチナ自治区・ガザをはじめ、世界の紛争地の状況を現場から伝えている。TBSテレビが制作した映画『戦場記者』はニュースでは伝えきれない、空爆で破壊された街の衝撃、家族を失った住民の悲しみと怒り、政治家への不信感を露わに映し出し、戦争は人々に何をもたらすのか、知らなければならない世界の現実を突きつけてくる。(松島香織)

ガザは、世界で最も人口密度が高い場所の一つであり、人口の約45%は14歳以下の子どもとされ、7割は難民だといわれている。イスラエルによって地区の出入りや物量の制限を受け、日常的に空爆を受けている。須賀川氏は激しく攻撃を受けて崩壊したアパートを訪れ、妻と子ども3人を失った男性を取材した。

男性は空爆後、瓦礫の下で手足が切断された子どもたちの遺体を見つけたという。「子どもたちはただ遊んでいただけなのに」と涙を流す。その傍で、アパートの住人の子どもたちが瓦礫に飛び乗ったりして遊んでいる。屈託のない表情の子どもたちは微笑ましいが、まさに、日常の中で戦争が行われていることがわかる場面だ。男性はガザ地区を統治している武装組織「ハマス」から亡くなった子どもたちの写真を入れた華やかな額縁を贈られたが、「死んだ人を英雄視するような行為をしないでほしい」とハマスに対して不満を漏らした。

須賀川氏は、この空爆では「住宅に紛れ込んでいたハマスを標的にした」というイスラエルの見解について、報道官にインタビューを決行。丁寧な言葉で巧みに受け答えする報道官に、「ハマスがいたという事実があるのか」と質問を続け、報道官は住民が犠牲となる場合があり得ることをようやく認めた。

一方でハマス側の報道官にインタビューすると、報道官は、ハマスは学校、医療施設等のインフラを整備しており「ハマスを標的にすること」はつまり、住民すべてを標的にするものだと主張する。イスラエルに応戦するのは住民のためだと言わんばかりだ。須賀川氏は、日常や未来を奪われ、命を失うのはひとえに一般市民だと憤りを隠さない。「ニュースは消費されるもの。またガザか、と思われるかもしれないが、それにしても忘れられすぎている。自分は何をやっているのかと思うこともあるが、ほとんどは記者としての意地だ」と本音を漏らす。

さらに須賀川氏は、ウクライナ南部の街オデーサやミコライウ、チョルノービリ原発を取材し、ミサイルの残骸から、投下されたのは、殺傷能力が高いクラスター弾であることを暴いた。また米軍が撤退した後に極度の貧困や食糧危機に陥ったアフガニスタンを訪れ、タリバン政権でさえ見て見ぬふりをしている薬物中毒者の巣窟を訪れる。何百人といううつろな目の人々が、放置された死体と橋の下でじっと座り込んでいる姿はとてもショッキングだ。

世界で起きている戦争をどのように解決したらいいのか、簡単に答えが出るものではない。だが、いま起きている紛争の現場を伝える『戦場記者』から、私たちが事実の一片でも見聞き知って考えることは、現実を直視する良いきっかけになることは間違いない。

12月16日より、角川シネマ有楽町ほか全国で公開中。
https://youtu.be/Cb59fiAtKOw

『戦場記者』
https://senjokisha.jp/
配給:KADOKAWA

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