パーパスをめぐるトレンドを振り返り、2023年を予測する

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2022年はESGに対する消費者の懐疑的な見方や政治的な批判が増加した1年だった。一方で、企業はパーパスの実現に向けた取り組みを強化してきた。ここでは2022年に起きたパーパスに関連する重要なトレンドから2023年の動きを予測する。

パーパスを中核に据えたマーケティング、ESGとステークホルダーの関係はコロナ禍でさらに進化し、2022年は課題とチャンスの両方が増えた1年だった。企業・ブランドは2022年、自社のパーパスの実現に向けた新たな取り組みにますます力を注ぎ、消費者の信頼を高め、優秀な人材を維持し、飛躍的なインパクトを生み出せるよう努めてきた。その背後では、ESGに対する消費者の懐疑心や政治的な動機による批判が増加した。米国に本拠を置き、世界展開するマーケティング・コミュニケーション企業「アリソン・アンド・パートナーズ」が2022年の重要な動きから2023年の動向を予測する。

社会的課題を重視しない、ESGへの反発

ーージェイミー・バーマン (ボストン、VP)

気候変動問題に取り組むための投資、企業の気候変動対策への政治的反発は2022年、新たな局面に突入した。米国では少なくとも17州で反ESG規則が設けられた。2023年は、立法による阻害、ブラックロックなどからの資金引き揚げといった州政府によるボイコット、ネットゼロ・気候変動への取り組みを標的とした政治的な動きがさらに激化する可能性がある。

米国では共和党主導の下院が誕生し、投資家や企業のESGへの取り組みを調査し始めるため、2023年はESGがいくらか審判を受ける年になるのは確かだろう。ESGに取り組む企業が保守的な批判に押し戻されないように、投資家のポートフォリオや収益効果におけるESGの役割についてさらなる議論が行われるようになるだろう。米国証券取引委員会(SEC)が保留する気候関連開示規則案、とりわけグリーンウォッシュの疑いについて議論はさらに活発になると思われる。政治的逆風が吹く中でも、ESG投資というトレンドが上昇気流に乗り続けることを強く期待する。2021年、機関投資家の49%が環境・ガバナンスの要素を投資の意思決定プロセスに組み込んでいると報告しており、その割合は前年比で7%上昇した。ESG投資は次の3年間で2倍以上になる見込みで、ESGの勢いはさらに続いていくだろう。

資本主義の新たな章が開く

ーーケイティ・メンデス (サンフランシスコ、VP)

2022年、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏は同社の株式30億ドル(約4000億円)のうち98%を環境危機との戦い、自然保護に投じるとし、非営利の新組織「ホールドファスト・コレクティブ(Holdfast Collective)」に譲渡した。新組織は通常の非営利団体ではないため税額控除はない。残り2%の議決権付き株式はすべて新たに設立した「パタゴニア・パーパス・トラスト(Patagonia Purpose Trust)」に譲渡。新たな組織形態となったパタゴニアは再投資にまわさない資金はすべて地球を守るために2組織に配当金として分配すると発表している。

100%地球のためにビジネスを行う企業になるというパタゴニアの驚くべき動きは、パーパスを追求し利益を上げるビジネスモデルが十分に実現可能なことを示している。もちろん、すべての経営者がシュイナード氏のように変革を起こす立場にはない。しかし、気候危機が深刻化する中で喫緊の社会ニーズに直接的、積極的に取り組むためにも、こうした資本主義の見直しが、より多くのパーパス・ドリブンな(パーパス主導型の)企業やビジネスリーダーにとって利益モデルを再定義するきっかけになることを期待する。

気候変動の最前線にいるコミュニティへの影響

ーーメーガン・ラフティ (ワシントンDC、VP)

2022年の1年間は、洪水や干ばつ、記録的な猛暑、あらゆる自然災害など気候危機に起因する影響を目の当たりにした。気候変動による影響が明白になる中、2022年は活動家や政府、企業への理解と共に、気候危機の影響を最前線で受けているコミュニティへの理解が進んだ年でもあった。最前線にいるコミュニティは気候変動によるさまざまな負担を不均衡に背負い、自然災害や汚染などの物理的影響をより多く受け、保護制度へのアクセスもない。さらに、その多くが有色人種であることが分かっている。

気候災害がもたらした直接的影響はこれまでになく厳しいものだったが、2022年はこうした危機にあるコミュニティを守るための協調的な取り組みも増えた。米国ではインフレ抑制法が可決され、厳しい状況におかれた最前線のコミュニティが利用できる待望の基金が創設された。例えば、インフレ抑制法により、脆弱なコミュニティが暮らす地域の汚染を減らす事業に直接投資することが可能になった。その中には、コミュニティ主導の計画を支援する気候・環境正義包括的補助金の設置のほか、産業施設の付近での監視・調査、大気質の監視センサーの設置、複数汚染物質の監視サイトの新設・改善、貧しく不均衡に汚染の影響を被っているコミュニティのメタン・ストーブの排気の監視・緩和のための財政支援も含まれている。

昨年11月にエジプトで開かれたCOP27では、気候変動の影響を被り、再建に取り組んでいる途上国のコミュニティを支援する「損失と被害(ロス&ダメージ)」基金の創設が決まった。2023年は、最も影響を受けるコミュニティを保護する緊急性が高まるだろう。2022年は政府が取り組みを行ってきたが、2023年は企業が大きな責任を担うことになる。最も助けが必要なコミュニティを支持し、直接的な恩恵をもたらすために自社の影響力やプラットフォームを使うことが求められる。

グリーンウォッシュに注意

ーーノラ・シルバーストーン (ボストン、シニア・アカウント・エグゼクティブ)

企業・ブランドの中には、環境・倫理に配慮した製品の需要の高まりに乗じ、製品やサービスの環境配慮や透明性について誤った説明や誇張をするなどのグリーンウォッシュを行う組織もある。そうした行動には自社の気候変動対策への注意をそらしたいという期待もある。

過去には企業・ブランドのグリーンウォッシュは気付かれなかったかもしれないが、消費者や活動家の視線はますます厳しくなり、インターネット調査官として目を光らせ、もはや誤った情報に簡単に影響されなくなっている。懐疑的な見方が増す中、批判も増えている。企業への訴訟に発展することも多くあった。

企業・ブランドは、サステナブルと謳う製品の引き上げやサステナビリティマーケティングを避けるなど、グリーンウォッシュに加担するリスク、信頼や成功への影響をこれまで以上に認識するようになってきている。グリーンウォッシュと批判されるブランドが増える中で、2023年はありとあらゆる誤ったグリーンマーケティングを迅速にやめない企業への訴訟が増加するだろう。グリーンウォッシュを理由に批判されることを避け、消費者の信頼を得るために、企業・ブランドは進捗を誇張することなく、科学的根拠に基づく目標やサステナビリティの取り組みの進捗について透明性や信頼性を持ち、定期的に伝えていく必要がある。

政治と企業活動の境界線が曖昧に

ーーケイティ・メンデス (サンフランシスコ、VP)

2022年、中絶の権利を認めるロー対ウェイド事件の判決が覆され、不快な真実が露わになった。ブランドは極めて政治的な出来事に介入しない傾向にある。米最高裁判所の判決が明らかになったとき、多くの企業・ブランドは沈黙した。この出来事に声明を出した企業は1割に満たなかった。

しかし、政治と企業の行動の境界線はますますぼやけてきている。多くの消費者は、基本的人権が危機に陥った時、企業のリーダーが発言をし、自社のプラットフォームを使って消費者を支持してくれることを期待している。米国の消費者を対象にした最新の企業調査「Axios Harris Poll 100」によると、政治的危機への対応が遅い企業、一貫性のない対応をとる企業は消費者からの受けや信頼という点で苦戦しているという。現在の世界では、「沈黙は共犯」というフレーズをますます耳にするようになり、自社のバリューと社会的課題がどう関連しているかを理解し、適切な対応やコミュニケーションをとることなどが求められるようになり、ブランドへの新たなプレッシャーが高まっている。

従業員という非常に重要なステークホルダー

ーーキャシー・ダウニー (サンフランシスコ、アカウント・マネージャー)

従業員エクスペリエンスなどを管理するプラットフォームを提供する「クアルトリクス」の調査によると、雇用主の価値観と自身の価値観が一致していると考える従業員の70%は自社を素晴らしい職場と推奨する傾向にある。また、調査した従業員の84%はパーパスに基づき事業を行う企業やブランドとのみ働くと回答している。2022年を通して、企業のインパクトとパーパスへの取り組みに関して、従業員を非常に重要なステークホルダーと認識する事例が数多く見られた。最も印象的だったのは、ロー対ウェイド事件の判決を覆した「ドブス対ジャクソン女性健康機構事件」の判決に対して、従業員が企業に声明を求めたことだ。

企業・ブランドは優秀な人材を確実に採用・維持するために、外部へのコミュニケーションと内部の行動を一致させ、従業員評価を考慮し、そうした過程を通して解決策やコミットメントを協創していく必要がある。企業・ブランドは従業員への約束を行動で示すことで、自社のパーパスやESGの取り組みに従業員の関心を集められるようになり、パーパスと帰属意識が生まれるより団結した組織をつくることができるのだ。経済的な逆風が吹く中で2023年を迎えるため、従業員が職場の課題について同じように声を上げられる状況を維持できるかに注目が集まる。しかし、多くの企業がステークホルダーとしての従業員の重要さを学んできており、その認識は続くとみられる。

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