『トヨタGR86 CNF Concept 』まさかの直列3気筒ターボ搭載。レースを起点にした開発の真骨頂/世良耕太が選ぶ2022年記憶に残るモータースポーツマシン

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が選んだ『2022年記憶に残るモータースポーツマシン』3台は、トヨタGR86 CNF Concept 、プジョー9X8、アウディRS Q e-tronだった。それぞれの魅力を解説する。

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■トヨタGR86 CNF Concept「フロントミッドに縦置き縦置きされた直列3気筒ターボエンジンに釘付け」

 トヨタGR86 CNF Conceptはは「カーボンニュートラル燃料(CNF)の課題を発見~改善し、将来的な実用化の可能性を探る」目的でスーパー耐久シリーズに投入された。

 車名が示すとおりベース車はトヨタGR86なので、ハードウェアを共有するスバルBRZと同じ2.4リッター水平対向4気筒自然吸気エンジンを搭載すると考えて当然だ。

 ところがこのクルマ、GRヤリスが搭載するG16E-GTS型の1.6リッター直列3気筒直噴ターボのストロークを縮めて1.4リッター化したエンジンを積んでサーキットに現れた。(取材のため特別に)ボンネットフードを開けてもらうと、コンパクトな3気筒エンジンが縦置きに搭載されているのが確認できた。

 半ばバルクヘッドに埋まるようにして搭載されているため(低いエンジンルームに直列エンジンを収めるためだ)、エンジンとラジエターコアサポートの間には広大な空間が生じているのが目を引く。重量物が重心点寄りに搭載されている証拠でもあり、いかにも「操舵応答性が高そう」との想像をかき立てる。

 GR86 CNF Conceptに興味を持ったのはCNFがきっかけだが、直列3気筒ターボエンジンが縦置き搭載されているのを知った途端、俄然そっちに関心が向いてしまった(もちろん、CNFが既存のエンジンに与える影響と対策の内容も気になるが……と、言い訳のように記しておく)。

直列3気筒ターボエンジンが縦置きに搭載されているGR86 CNF Concept

■プジョー9X8「複雑な思いはあったが、実車は予想以上にカッコ良かった」

 伝統のル・マン24時間レースをシリーズの一戦に含むWEC世界耐久選手権に投入されたプジョーのハイパーカーが9X8(ナイン・エックス・エイト)だ。このクルマの最大の特徴であるリヤウイングレスについては、ちょっと複雑な気持ちで見ている。

 責任はプジョーには、ない。ルール統括側だ。空力に関する規則を厳しく設定したので、リヤウイングを持たなくても規定上限の空力性能を実現することが可能になった。

 残念なのは、トヨタやポルシェやアウディが覇を競ったLMP1時代のように空力性能に特化した形状やデバイスが生まれなくなったこと。ただし、空力性能の上限を低めに設定したことでスタイリングに自由度が生まれ、9X8のようなカッコイイ車両が世に出ることになった。性能の追求とスタイルの両立は難しく、だから複雑な気分だ。

 正直に言うと、3年ぶりに富士スピードウェイで開催されたWEC富士6時間に出かけた際の最大のモチベーションは、9X8を自分の目で確かめることだった。予想以上にカッコ良かった(オイオイ、空力性能追求時代を懐かしがる気持ちはどこへ……)。

“リヤウイングレス”という奇抜なパッケージで登場したプジョー9X8

■アウディRS Q e-tron「DTMとフォーミュラEで培った技術を有効活用」

 アウディは2022年1月に開催するダカールラリーに向け、RS Q e-tronと呼ぶプロトタイプカーを開発した。強く印象に残ったのは、パワートレインの内容だ。エンジンは、かつてDTMに参戦していたRS 5 DTM(2019-20年)用に開発した2.0リッター直列4気筒ターボを搭載する(現行スーパーGT GT500車両が搭載するエンジンと同一規格)。

 RS Q e-tronがユニークなのは、このエンジンを発電専用としたことだ。生み出した動力をダイレクトに路面には伝えず、フォーミュラE参戦車両のFE07(2021年)が搭載したモーターを駆動して発電。作り出した電気エネルギーでフロントとリヤに搭載するFE07のモーターを駆動する。つまり、ニッサン・ノート系やエクストレイルなどが搭載するe-POWERと同じシリーズハイブリッドというわけだ。

 アウディはDTMもフォーミュラEも止めてしまったが(そのかわり、2022年からダカールラリーに、2026年からはF1に参戦)、両カテゴリーで培った技術を有効活用して新たな競技車両を生み出したところに「うまい!」と感心した。2023年のダカールラリーは、ボディや空力、電動ドライブトレインのエネルギー管理に大幅な改良を施したRS Q e-tron E2で参戦中だ。

アウディRS Q e-tronは、DTM由来のエンジンとフォーミュラE用に開発されたMGUを組み合わせた電動車だ
チーム・アウディスポーツのアウディRS Q e-tron E2(カルロス・サインツ/ルーカス・クルス組) ダカールラリー2023

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