好決算なのに売られる理由−−数字オンチでもわかる、決算で見るべきポイントとは?

株式投資家にとって、決算発表はけっしてスルーできない重要イベントです。業績や、進捗具合を示す決算発表は、投資家が株主であり続けるかどうか、もしくは新たに株主になるかどうかを判断するための重要な材料だからです。

しかし、実際に決算発表をきちんとチェックしている方は少ないかもしれません。かく言う私自身も、株式投資をはじめた当初3年間くらい、決算発表はノーチェックでした。

もともと、会社四季報から銘柄を発掘するのが得意なこともあり、決算を見なくても四季報だけ見てればよいと考えていたのです。ところが、株式投資にのめり込むうちに、決算発表を無視する愚かさに気づきました。そこには、売上や利益といった定量的な数字だけでなく、市場の環境や、問題点、その企業の目指す姿などいろいろは情報が詰まっています。決算を読み解くことができれば、投資のチャンスは飛躍的に広がるのです。

「決算なんてむずかしい」「文系のわたしには無理」

そんな風に思わないでください。数字にはめっぽう弱い文系女子の私でも、それなりに決算は分析できます。というのも、企業が開示する決算短信という資料は、おおむねフォーマットが統一されているので、どこを見るか一度おさえてしまえば、あとはひたすら“慣れ”が解決してくれます。

この連載では、数字オンチの方でも、分析の知識がゼロからのスタートでも、決算が楽しく分析できるように、事例を取り上げながらお伝えしていきます。


決算発表でチェックするポイントは?

決算の数字は、株情報を提供するポータブルサイトなどでも確認できますが、ここでは決算短信で見ていきましょう。事例は、2023年1月5日(木)に22年11月期の本決算を発表したネクステージ(3186)です。

画像:株式会社ネクステージ「2022年11月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

2022年11月期の連結経営成績をみると、①売上高418,117(百万円)、②対前期増減率43.6%、③営業利益19,448(百万円)、④対前期増減率42.6%と文句なしの好決算です。ただ、これはすでにバックミラーから見る過去の数字です。「この一年、よくがんばりました!」ということですが、投資家が気にするのは、今後も好業績が続くのかどうか、ということです。

そこで、新年度となる2023年11月期の連結業績予想を見てみましょう。⑤売上高500,000(百万円)、⑥対前期増減率19.6%、⑦営業利益25,000(百万円)、⑧対前期増減率28.5%と、引き続き二桁の増収増益見込みです。会社四季報の最新号(2023年新春号)の予想では、売上高予想450,000(百万円)、営業利益24,800(百万円)なので、四季報の予想よりも、同社が出した予想のほうが上回っていますね。

同時に開示された決算報告書を見ると、同社が重要と考えている指標(KPI)である小売販売台数、買取台数、車検台数、収入保険料すべてが前年比で大きくプラス、さらに事業別の業績でも販売店、買取店、整備店、輸入車新車ディーラーすべての部門で前年比プラス成長です。

ここまで完璧な決算内容ですから、翌日の株価は相当期待できそうです。ところが、市場の反応は予想外でした。

寄り付き(その日の最初の売買のこと)は、2,818円と翌日から156円高く始まりましたが、その後株価は1日を通して下げ続け、終値(その日の最後についた株価)は、前日より7円安く2,655円でした。

「好決算だ!」と飛びついた人が多くいたのに、その後、弱気になって売る人のほうが多くなり、下げてしまった−−いったいどうしてなのでしょう?

9年連続増収増益の超優秀企業

ネクステージは、中古車の買取・販売を全国展開しており、ライバルとしては「ガリバー」を運営するIDOM(7599)が挙げられます。どちらも売上高は4,000億円強ですが、ネクステージは販売が強いため小売業、IDOMは買取が強いため卸売業に分類されています。上場したのはネクステージは2013年、IDOMは1998年とIDOMのほうが先輩ですが、ネクステージの成長率がすさまじく、IDOMがかなり追い上げられている状況です。売上高の規模は同レベルですが、会社の評価額とも言える時価総額でみると、ネクステージは21.4億、IDOMは7.4億と3倍近く差があり、株式市場では、ネクステージのほうが有望とされています。

ネクステージは、2015年から今期の予想まで含めると9年連続で2桁の増収増益の優等生企業。実際、長期で株価を見ると、上場以来、右肩上がりで上昇しています。一方のIDOMは業績の推移がデコボコしていますので、その点が時価総額の差に現れているのでしょう。

けして目新しくはない中古車販売ビジネスでこれほどの成長を継続している強みは、店舗ごとに販売車種を絞り込み、専門店を展開し、顧客にあった車を提案できるところにあります。また、販売して終わりではなく、車検や保険などカーライフに関わるサービスをワンステップで提供できる総合店を強化し、年間20店舗ペースで出店。47都道府県すべて制覇をもくろんでいます。

それでも決算直後に売られる理由

ネクステージのようにいつも好決算を出してくる企業の悲しみとして、投資家たちがそれを当たり前と思っており、好決算でもびっくりされないという事があります。毎回100点を取っている生徒が、100点取っても、誰も驚きませんよね。

株価が勢いを増して上昇するときは、“サプライズ”というアクセルが必要です。ネクステージの今回の決算では、残念ながらサプライズはなかったのです。さらに言えば、いつも100点の生徒が90点を取ると、大きく落胆されます。ネクステージの決算も、よく見るとがっかりポイントがいくつかありました。

がっかりポイント(1):増益率が低下していること
2021年11月から2022年11月の営業利益の増加率は④42.6%、それにたいして2022年11月から2023年11月の営業利益予想では増加率が⑧28.5%に低下。つまり伸び率の鈍化です。

がっかりポイント(2):3ヵ月推移でみると減益していること
2022年6-8月の営業利益は5,605(百万円)、9-11月は4,692(百万円)と営業利益が減少しています。一方、売上高は伸びているので、結果的に売上高営業利益率が低下しています。とはいえ、輸送費や人件費の高騰を加味すれば、この程度の減益で済んでいるので目くじらをたてるほどでもないかと思います。

下げたところが買いチャンスなの?

ネクステージは、過去決算発表でも、わりといつもいったん売られがちです。ところが、その後買い戻され、結果的には株価は右肩上がりを続けています。そうであれば、今回も下がったところが買いチャンスかもしれません。

ただし、注意点もあります。

コロナ以降、新車の納品が遅れていることもあり、中古車人気が高まりました。そのおかげで中古車価格は上昇、なかには新車よりも高い価格で売買される車種も。しかし、新車の納品が正常化されれば、中古車人気が低下するリスクがあります。

同様に中古車価格が高騰したアメリカでは、2022年の前半よりすでに中古車価格の下落が続いています。原因は、カーローン金利が上昇し、買い控えが起こっているためで、日本でも金利が上昇すれば同様のことが起こり得ます。

さらにもう少し先を見れば、中古EV自動車の動向も心配です。世界的に新車はEVへと大きく舵を切っていますが、中古車市場では、EV自動車は、新車の10分の1程度の価格まで買い叩かれるそうです。電池の劣化による性能面での不安があるためで、この先、EV自動車が主流になれば、今まで同様の成長は見込めないかもしれません。

利益が伸びていれば、理論的には株価は上昇します。ネクステージも、今まで同様の成長がこの先も続くとすれば、株価が2倍、3倍、それ以上になる可能性があります。しかし、伸び率が鈍化したり、この先、伸びないであろうと投資家が予想すれば、見えている利益が伸びていても、株価は下落に転じます。

ネクステージがどちらの進路を取るか、今後も3ヵ月ごとの決算をしっかりチェックしていきましょう。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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