オンラインゲームの「ガチャ沼」にはまる子どもたち、抜け出すにはどうしたらいい? ゲーム障害&ギャンブル依存の症状も、久里浜医療センターの樋口進さんに対策を聞いた

オンラインゲームをする少年(米紙ボストン・グローブ提供・ゲッティ=共同)

 スマートフォンやパソコンなどでさまざまなオンラインゲームができるようになりましたが、子どものトラブルも増えています。特に「ガチャ」と呼ばれる、当たれば特別なアイテムやキャラクターが手に入る一種のくじ引きがやめられず、高額の支払いが発生したり、治療が必要になるほどのめり込んだりする子もいます。
 ゲームへの依存に詳しい精神科医で、国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の樋口進名誉院長によると「ゲーム障害とギャンブル依存が重なったような子がいる」といいます。樋口さんは「依存性の高いゲームについて広く周知し、対策を強化する必要がある」と指摘しています。(共同通信=村川実由紀)

 ▽手が吸い寄せられ…

 敵がなかなか倒せなくて次に進めない。クリアするには、主人公の味方になる強いキャラクターをガチャでゲットしたい。だが、無料で引ける1回目の結果は「はずれ」。2回目以降は有料で、クレジットカードやプリペイドカード、決済サービスなどを登録する「課金」の仕組みを使う必要がある。一度登録すればスマホのボタンを選択するだけで簡単に支払いができる。1回で諦めるか、強いキャラクターが出るまでもう少し頑張るか。考えながら、手は「購入ボタン」の方に吸い寄せられていく…。
 以上は筆者である私の経験ですが、こんなふうにして多額の請求が来たという人もいるのではないでしょうか。ガチャという仕組みは人気を高める要素でもあり、シューティングゲーム、ロールプレイングゲームなどさまざまなジャンルのゲームに組み込まれています。ガチャの名称は、お金を入れてハンドルを回すとカプセル入りのおもちゃが出てくる販売機に由来します。何が出るか事前には分かりませんが、当たった時の喜びはひとしおです。1回は無料や少額でも、外れて「次こそは」と熱くなって続けていると、いつの間にか支払いがかさんでいることも多いのです。抜け出すのが難しい、その感じから「ガチャ沼」「課金沼」という言葉もネット上では見受けられます。自分をコントロールできなくなり、治療が必要になるケースもあります。

国立病院機構久里浜医療センターの樋口進名誉院長=2022年10月31日、神奈川県横須賀市

 ▽親のカード無断使用も

 久里浜医療センターには、インターネット依存の専門外来があります。そこで治療を受けたある男子高校生の例を紹介します。中学卒業前にゲームから離れられなくなり、学校を休んで部屋に引きこもりました。課金も利用していて、支払いは月に5万円以上。母親がお金を出し渋ると物を壊したり、暴力をふるったりと暴れました。受診してようやく「生活を改めたい」という意欲が出てきたといいます。
 国民生活センターの発表によると、新型コロナウイルスの流行下で小学生、中学生、高校生のオンラインゲームに関係するトラブルの相談は増えました。2018年度の1957件から2020年度は3723件。親のクレジットカードの無断使用などが目立ち、支払い済み額として多いのは10万円以上50万円未満という結果でした。ガチャは、支払いが高額になる原因の一つに掲げられています。
 ガチャについて樋口さんは「勝ち負けがあるからギャンブルと同様、ゲームへの依存性を高める要因になっている」と問題視しています。また子どもの場合、お金がかかっているという認識が全くないこともあるそうです。

国立病院機構久里浜医療センター=2022年10月31日、神奈川県横須賀市

 ▽小学生患者も増加

 世界保健機関(WHO)は2019年に「ゲーム障害」を依存症の一種と認定しました。ゲーム障害とは、ゲームをしたい衝動を自ら制御できず、日常生活の他の用事よりもゲームを優先し、問題が生じてもやめることができずゲームを継続する状態を指します。海外の研究チームは、世界の有病率は3%程度で、男性に多い傾向があると報告しています。
 日本では久里浜医療センターが2019年に10~79歳を対象に調査を実施して4860人から回答を得ました。ゲームの仕方に問題があるかどうかについて聞くと「全く問題がない」を選んだ人は68.6%でしたが「少し問題がある」が28.6%、「かなり問題がある」が2.8%でした。「ゲームをやめられない」「朝起きられない」「学業や仕事などへの影響」など問題があったと回答した人の割合は10~20代が最も多く、年齢が上がると少なくなる傾向がありました。ゲームに使用している機器は、スマホが71.7%とトップでした。
 同センターのインターネット依存外来には、ゲームに依存している人も含め全国から患者が訪れます。患者のほとんどが10代で小学生も増えているといいます。
 根本的な治療法は確立されていませんが、例えばうつ病を合併しているケースでは薬物治療が行われることがあります。行動療法も効果があるとの研究報告があり、同センターは他施設と連携して自然の中で山登りや宿泊を体験するキャンプも実施しています。学校に行って友人と交流するだけで症状が改善する子もいるそうです。

久里浜医療センターの治療の一環で行われるキャンプで山登りをする参加者(国立青少年教育振興機構提供)

 ネット依存の診療に取り組む医療機関はまだ限られていますが、久里浜医療センターが全国の施設のリストをホームページに載せています。https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/net_list.html
また、依存の疑いがあるかどうかを調べるのに役立つテストも公開しています。
https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/

 樋口さんは「依存度が高いほど治療の選択肢は限られてくるので、心配があれば早めに医療機関に相談してほしい」と話しています。

 ▽業界も一緒に対策強化を

 国は何か対策を打っているのでしょうか。厚生労働省は久里浜医療センターなどに委託してまとめた「ゲーム依存相談対応マニュアル」を2022年3月に発行。
https://kurihama.hosp.go.jp/research/pdf/tool_book_gaming.pdf
消費者庁もオンラインゲームの課金トラブルへの相談対応マニュアルを公表しました。https://www.caa.go.jp/notice/entry/029257/

 年齢によって課金に制限を設けているゲームもあります。ただ年齢を偽って申告すれば簡単にアクセスできてしまう場合もあります。樋口さんは、問題の深刻さに照らすと、現状の対策は不足していると感じているそうです。「まずはゲームの依存性について多くの人に知ってもらいたい。その上で国や自治体、ゲーム業界が一緒になって、予防をはじめとする対策をもっと強力に進めていくべきだ」と話しています。

© 一般社団法人共同通信社