【道の駅特集】 実は埋め立て地だった? 第1次産業を守ることからスタートした、漁師の町のマリンドリーム能生【動画あり】

新県糸魚川市にある道の駅・マリンドリーム能生は、ベニズワイガニの「かにや横丁」で有名だが、この「漁師直営のかに店」ができた背景や、能生漁港のとなりにある理由などには、実は知られざるストーリーがある。マリンドリーム能生を運営する株式会社能生町観光物産センターの清水靖博取締役本部長にマリンドリーム能生誕生の背景や、コロナ禍での販売状況などについて聞いた。

国道8号の渋滞を解決するために

まず、清水取締役はマリンドリーム能生ができる前の状況を語った。

「地元能生のまさに漁師町の小泊地区という場所があり、目の前が港で自分たちの船に乗って水揚げして、カニや魚を自宅を店に改造して元々売っていたたんですね。国道沿いにお店が並んでいるためにそこに買いに来る人が非常に多く、国道8道線は渋滞していた。さらに、お客さんが路上駐車するので、車の間から飛び出す人がいたりして、事故などを誘発する可能性もあり地域の課題になっていました」(清水取締役)。

そこに、まさに渡りに船でタイミングよく、北陸自動車道の開通の話が舞い込んできた。能生、糸魚川方面の高速道路はトンネルが非常に多い。そのトンネルの残土を利用して、能生漁港のすぐ近くを埋め立て、マリンドリーム能生を作ろうという話が持ち上がった。そうなのである。マリンドリーム能生は全国的にも珍しい埋め立て地の道の駅なのである。1989年マリンドリーム能生が完成し、道の駅制度ができた1993年に道の駅に認定された。

1月、2月は漁に出られないため、休業する「かにや横丁」

浜焼きが好調な鮮魚センター

第1次産業、すなわち、漁業を衰退させないこと

マリンドリーム能生のコンセプトは、第1次産業、すなわち、漁業を衰退させないことである。能生という町は現糸魚川市で旧能生町だが、新潟県内屈指の漁獲量を誇る能生漁港もあるほか、県立海洋高校(旧能生水産高校)もあるなど、まさに、漁業の町なのである。高鳥修一衆議院議員の父である故高鳥修元国務大臣は、能生町の町長も歴任している。

さらに、清水取締役は付加価値についてこう話す。

「6次産業化なんていう新しい言葉が出来上がってからはよくそうやって言われますけど、今から35年前にそれをやりたかった。1社でつくる6次産業ではなくて、地域でつくる6次産業化というものです。魚1匹で売ってしまえば1,000円で終わってしまうところ、加工して、工夫して売ったりするとそれを一気に1,000円のものが1,500円2,000円に変わっていく。よりよい価値作りができる。そうすることで漁師さんたちも一生懸命漁に出ていただければ実入りがあるという、そういったサイクルを作ることができます」

埋め立てる時に、漁協から漁業権を無償で放棄してもらった。その意味でも、「漁師さんや漁協と連携していくのは大命題である」と清水取締役は力説した。

県内一の跡継ぎがいる漁港

マリンドリーム能生も早いもので開業から35年である。「能生に新潟県で一番跡継ぎがいる漁港だと思います」と清水取締役。「それだけ儲けがあり、うまくいっている証拠だと思います。その意味では、初期の目的はある程度達成できているのかなと思います」。

ここで、マリンドリーム能生の年間利用者を見てみよう。コロナ前の平成30年時は50万人、コロナ初年度で37万人、昨年度で40万人に回復した。

一方、現状はコロナ禍でマイクロツーリズムが推奨されて来場者のニーズも変わり、カニや魚などお土産で購入する人が少なくなり、その場で食べていく人がかなり増えたという。

清水取締役は「コロナで一気に方向転換を迫られました。今は浜焼きなどの現地で消費して行けるものにすごく力をいれています。マイクロツーリズムが推奨されるようになってから、マリンドリーム能生を目的地として来場される方が多くなったこともあって滞在時間が倍になっており、駐車場の回転率も悪いです」と分析する。

コロナ禍にあって、マリンドリーム能生の商圏戦略は200キロ圏内に絞ったいう。

「200キロ圏内というと、富山県全体、新潟では新潟市まで入る。準メインの長野県のお客さんは松本市も入る。その先は、福島県とか群馬県とか山形県とかですね」(清水取締役)。

海洋⾼校アンテナショップも

新潟海洋高校アンテナショップ

さらに、マリンドリーム能生では、株式会社能⽔商店(新潟県⽷⿂川市)が昨年4月に飲⾷提供と物販を融合させた直営店「新潟海洋⾼校アンテナショップ能⽔商店」をオープンした。

海洋⾼校教諭を退職して、2018年に能⽔商店を創業した松本将史代表取締役は、昨年度採択された⽂部科学省指定研究事業「マイスター・ハイスクール」(2023年度まで)の運営管理職として再び海洋⾼校で勤務しており、出店は、マイスター・ハイスクール事業の⼤きな⽬⽟であり、事業後も海洋⾼校の情報発信や産学官連携事業などの拠点となることを目指している。

店舗は通年営業で、推奨販売はもちろん、在庫管理などに取り組む海洋⾼校⽣の販売実習が主に休⽇に⾏われるほか、実習で漁獲した⽔産物や養殖⿂など、⽣産現場から関わってきた⽣徒たちが店舗で新たな6次産業化商品などを販売する実習も予定している。

マリンドリーム能生は、地方創生のモデルであり、人口減少に直面している日本の課題のまさに最先端を行く第1次産業を守る砦だ。マリンドリーム能生は、まさにマリン(海の漁師)のドリーム(夢)を叶えた場所であった。

マリンドリーム能生外観

清水靖博取締役本部長

(文・撮影 梅川康輝)

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