“業界の闇、一件落着”というわけにはいかない 映画化そのものに意義がある『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』© Universal Studios. All Rights Reserved.

時代を動かした調査報道

2017年にニューヨーク・タイムズ紙に掲載され、翌年ピューリッツァー賞を受賞した衝撃のスクープ記事を映画化した『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』。本作のベースとなった記事は、大物映画プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインの数十年に及ぶ悪行を告発したもので、世界中の様々な業界における性犯罪告発運動の活性化につながっていく。

もちろん記事化に到るまでにはジャーナリストたちの懸命な取材があり、それには被害女性たちの協力が不可欠だった。その調査報道は一体どんなものだったのか? という部分を硬派に映画化したのが本作なのだ。

本当の“報道”とは何か? 地道な取材のリアルを描く

主人公はニューヨーク・タイムズ誌の2人の記者、ジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)とミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)。カンターは、ワインスタインから性的虐待を受けたというローズ・マッゴーワンにコンタクトを取り、そこから取材が本格的に動き始める。しかしマッゴーワンやアシュレイ・ジャッド、グウィネス・パルトロウら俳優たちは自身のキャリアへの影響を懸念しており、実名での告発は難しい。

ここでトゥーイーが取材に参加し、同じく性被害を受けたミラマックス社(ワインスタイン兄弟が設立した製作・配給会社)の元従業員や、和解金という名の口止め料について知る元幹部役員などへと取材を広げていくものの、加害者に与する司法制度や守秘義務という足枷によって、やはり皆口をつぐんでしまう。それでもカンターは、かつてワインスタインのアシスタントとして働いていたロウィーナ・チウ、ゼルダ・パーキンス、ローラ・マッデン(全員実名)に会うためNYからLA、さらにイギリスにまで飛んで取材を敢行。調査報道がいかにハードなものかよく分かるシークエンスだが、当然ながら主人公2人はワンダーウーマンではない。産後鬱で心身ともに疲弊していたりもする。

タイムズ編集部の強固な取材力をリアルに描き、その過程における様々な障害やストレス要素もしっかり伝えることで、渋味ながらもしっかりエンタメも確保している本作。さらに刑事/探偵ドラマのようなスリルで盛り上げもするのだが、それらの実態はワインスタインによるスパイ行為や妨害工作だったりするものだから、権力の非道ここに極まれりといった感じでクラクラしてくる……。劇中、ニューヨーカー誌も同事件を追っていることについて少し言及されるが、そちらの記事ではワインスタインが外部調査員を雇って“監視”していた事実が明かされているそうだ。

感涙必至、 俳優陣の名演に大拍手

キャリー・マリガンのゴールデングローブ賞ノミネートは納得だし、映画化そのものに意義があるとも言える作品だが、何より綿密な取材パートを物語の軸に置いたことと、各登場人物の丁寧な描写が素晴らしい。実在の被害者たちの恐怖や葛藤、人生に与えた影響、苦悩の末の決意がスクリーン越しにビシビシ伝わってくるのは原作の詳細ぶりだけでなく、すぐれた俳優陣のおかげでもある。

とくにジェニファー・イーリーとサマンサ・モートンは物語の機動力になる破格の名演を披露しており、彼女たちの登場シーンでは自然と涙があふれてくる。この映画化によって“業界の闇、一件落着”というわけにはいかないのが気が重くなるところだが、業界内外におけるバックラッシュも懸念される今こそ観ておきたい傑作だ。

なお調査報道記事ベースの映画としては、ウォーターゲート事件を調査したワシントン・ポスト記者の物語『大統領の陰謀』(1976年)に似た構成なので、これを機に見比べてみるのも良いかもしれない。

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は1月13日(金)より全国公開

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