社内コミュニケーションのマナー、部下への指示を「お願い形」にすべき理由とは

社内の人間関係が円滑であれば、業務もスムーズに進行することでしょう。

そこで、マナーコンサルタント・西出ひろ子( @mannershiroko )氏の著書『知らないと恥をかく 50歳からのマナー』(ワニブックス)より、一部を抜粋・編集して社内コミュニケーションのマナーについて解説します。


指示を出すときのマナー

私たちもかつては上司や先輩から指示を出され、それに従う身でした。あなたも若手の頃は、「もっとわかりやすく指示を出して欲しい」「そんな言い方しなくても」などと思っていたかもしれません。

もし思ったことがなかったら、あなたは上司に恵まれていたのです。逆に「あるある!」と感じた方は、それはそれで幸せです。その上司は反面教師。あえてマイナスな見本を示してくれたのですから。あなたはかつての上司と、正反対のことを行えばいいのです。

「一方的な命令」と受け取られないように

指示を出すときは「部下の心地よさ」を意識

ビジネスシーンでは、部下への指示が付きものです。その指示に部下がどのように反応し動くかで、仕事がうまくいくかも決まります。

上司、部下といった立場に関係なく、誰かに指示を出すときは、思いやりの気持ちを忘れずに。あなたが敬意を持って接すれば、部下も耳を傾けてくれます。

そうなることで、仕事がスムーズに進み、職場の雰囲気もよくなり、あなたの評価もアップするわけです。

直後にひと言添えるだけでも、反応が変わる

指示を出したあと、このような言葉を加えるだけで、部下は安心し疑問点をたずねやすくなります。結果、トラブルの発生率が下がります。

コミュニケーションをとりやすい環境を作ってあげることも、上司としての役割、仕事の1つ。まずはあなたから心を開き、声をかけ続けることが、部下の心の扉を開く鍵となるのです。

ポイントは指示を出すときの言葉選び

同じ内容でも、言葉遣いで印象は変わる

指示を出すときに押さえておきたいのは、「伝わる言葉の選び方」です。「ものの言い方」「言い回し」と置き換えてもいいでしょう。

自分では何気なく言った言葉でも、言葉の選び方で印象は異なります。部下の気持ちと反応も、大きく変わるということです。

英語では「Sit down!」「Call me!」といった言い方は命令形ですが、前か後ろに「Please」をつけるだけで、依頼形へと変化します。「Please」のひと言を加えるだけで、相手が受け入れやすくなるわけですね。

全体を「Could you sit down, please?」のように言い換えれば、より丁寧な言い回しとなり、相手にこちらの要望を聞き入れてもらいやすくなるでしょう。内容は同じでも言葉選びで、その印象はぐっと変化するのです。

部下の個性に合わせて、言葉を変えるのが理想

どのように伝えたら部下が正しく受け取り、気持ちよく従うことができるのか。

常にそのことを考えながら、部下の性格やその場の状況に合わせて、言葉を使い分けましょう。ここがキャリアを積んだ人間力のあるあなたの腕、すなわちマナー力の見せ所です。

そのように驚いたり、気分を害した方もいらっしゃるかもしれませんが、部下を正しく導くためには、上司はそこまで気を遣わなければいけないのです。

そうした配慮ができる上司が、部下たちを魔法にかけるがごとく、指示通りに動かせることができます。そうして経験を重ねることで、部下も成長してくれて、あなたが注意や忠告をする場面も減ってきます。そのほうがあなたの楽になりますよね。上司と部下がWIN-WINの関係を築くために、部下への気配りや気遣いは必須なのです。

部下が自分から動く言葉選びのポイント

指示を出すときに命令形を使わない

あなたが若い頃に上司から、「あれをしろ」「これをして」と指示を出されたら、どのような気持ちになったでしょうか?

おそらくは上から目線の指示の出し方に、反発心を覚えたこともあったのではないでしょうか。一方、「~してください」といった丁寧語なら、前述の命令形よりは柔らかい印象になります。しかし、この言い方も一方的に伝えているだけなので、マナー的には命令形とみなすのです。相変わらず、部下には疑問を挟む余地がなく、相手の意向を無視していることになるわけです。

命令形は部下に好まれない――。そのように強く心に刻んでおきましょう。命令形は反感を買うきっかけとなり、円滑なコミュニケーションを阻害します。

部下への指示は「お願い形」が基本

常に相手の立場にたって、相手の意向をうかがうのがマナー。部下に指示を出すのであれば、次のような言い方がふさわしいでしょう。

部下に仕事をお願いする言い方に、釈然としない人もいるかもしれません。しかし、それは不要なプライドです。素敵な愛され50 代は、このような考え方とはおさらばしましょう。

実るほど頭を垂れる稲穂かな。お願いするように指示を出すことで、部下は快く指示に従い、期待通りに動いてくれるでしょう。

お願い形で指示を出す2つのメリット

お願いするように指示を出すことには、2つの大きなメリットがあります。

1つ目は、相手を尊重する謙虚な姿勢が、さりげなく部下に伝わること。部下に好感を持ってもらえるわけです。

2つ目のメリットは、部下に「イエスかノーか」の選択権を与えていることです。

もちろん、「~してもらえないかな?」といった言い回しでも、上司からの指示に変わりはありません。従わない部下はまずいないでしょう。

それでも選択権が与えられたことで、部下の心には余裕が生まれます。それはあなたに対するプラスの感情につながります。お願いするような言い方をされれば、部下側も、事前にわかっていない部分がたずねやすくなり、ミスも減るでしょう。

使い勝手のいい「クッション言葉」

お願い形のほかにもう1つ、指示全体の印象を大きく変えて、あなたへの好感度を高める言葉遣いがあります。それが「クッション言葉」です。

クッション言葉とは本題の前に、相手をおもんぱかる気持ちを伝える言葉のことです。お願い形と組み合わせると、次のような言い換えができます。

クッション言葉が添えられたことにも、部下はあなたの気遣いを感じます。

より一層、あなたへの信頼を高めることでしょう。123 ページでお伝えしたように、部下の名前を呼びながらだと、さらに効果は高まります。

報告を受けるときのマナー

ビジネスにおいて「報告・連絡・相談」は鉄則です。報告を受け、全体を把握することは、上司としての仕事の一環。ところが、自分の仕事に追われるあまり、「今忙しいからあとで」などと、素っ気なくしてしまったことはありませんか?

すると部下は、「失礼しました」などと言ってその場を去るでしょうが、心は相当に傷ついていること、おわかりでしょうか。私たちが、「これくらいいいでしょ」「あたりまえ」と思うことも、部下の立場にたてば、「断られた」「拒否された」「忙しい上司の邪魔をしてしまった」などなど、大変なミスをしてしまったという気持ちになり落ち込んでしまうのです。

勇気を出して報告をしにきた部下の立場にたってみて、「あとで」と一旦、断るにしても、そのときの状況や、表情、言い回し、言葉遣いには十二分の気持ちで対応をするのが大人です。

自分の作業中、部下が報告してきたら……

「お時間よろしいですか?」に顔をしかめない

仕事に集中しているときや乗っているとき、部下に「お時間よろしいですか?」と話しかけられたら、テンションが途切れてしまうのはわかります。機嫌が悪いときに話しかけられて、「こんなときに何だよ!」と思う場面もあるでしょう。

このような場面こそ、あなたの人間力の見せ所。自己中心的な気持ちは振り払い、「ああ、いいよ」と受け入れる姿勢になりましょう。

このとき、表情には穏やかな笑みをたたえましょう。間違っても、眉間にしわなど寄せないこと。

作業の途中であっても、一旦手を止める

人は無視されることを嫌い、恐れます。あなたも話しかけられたら手を止めて、部下との会話に集中しましょう。

パソコンでメールなどを書いている途中だと、部下の話に耳を傾けながらも、キーボードを叩き続けることもあるでしょう。あなたも「これくらいならいいだろう」と思っているのかもしれません。

しかし、それだけの動作でも部下にしてみれば、「自分が話しているときにほかのことをしていた」と不信感を覚えます。報告の内容が深刻だったり、悩みの相談に近い内容だったら、なおさらです。

もう少しで一段落といった状況でも、一旦は作業をストップさせましょう。部下の報告を聴くことだけに、全神経を傾けてください。

顔だけでなく、体ごと部下に向ける

言葉を発するときには、きちんと相手と向き合うのもマナー。そのことを体全体で表現してください。

体はパソコンに向かったまま、顔だけ部下に向けていても、向き合っているとはいえません。「さっさと話が終わらないかな。この作業を続けたいな」といった気持ちが透けて見えているからです。部下に対して失礼ですし、あなたの評価を下げてしまいます。

どうせ部下の報告が終わるまで、作業は再開できません。それなら体ごと部下に向けて、目と目を合わせて耳を傾けましょう。

必要以上に深く背をもたれたり、足を組んだり、腕組みをするのも避けること。いずれも威圧感があるように受け取られます。

部下が言いやすいように誘導するのも上司

あなたに話を聞いてもらいたくて、部下は勇気を出して声をかけてくれました。それでも上司であるあなたと向き合うと、緊張や遠慮などから、なかなか言葉が出てこないこともあるでしょう。

このような部下の気持ちを察して、話しやすいように誘導してあげる術も、50代になったら身に付けておきたいものです。

このように話しかけるだけで、部下の気持ちは楽になります。周囲の視線が気にならないスペースなど、部下が話しやすそうな場所に移動してもいいでしょう。

「聞く」ではなく「聴く」を心がける

部下の話を聞くときには、「聞く」ではなく「聴く」に徹するのが、マナーの神髄を理解した上司の姿です。

まず「聞く」というのは、単に耳から入ってくる音や言葉を感じることです。耳からの情報だけに頼ることです。対して「聴く」は、相手に心を傾け、心で感じ、心で聞き入ることを指します。聴覚以外からも多くの情報を得ているのです。

この「聴く」という漢字を分解すると、「十四の心で耳を傾ける」となります。普段よりもはるかに集中して、耳を傾けるという意味合いが、漢字そのものに含まれているわけですね。

あなたの心のあり方は、言葉や行動となって表れます。部下の話をしっかりと聴くことで、互いの距離が縮まり、仕事も円滑に進んでいくでしょう。

報告の途中で質問をしたいときは……

部下の報告を受けている途中で、質問したくなることもあるでしょう。

このようなとき、最後まで報告を聴いた上で、質問をする人もいると思います。

確かに途中で遮られるよりは、部下も報告しやすいですね。報告の後半に、質問に対する答えが含まれていることもあります。

しかし、報告が終わってから質問すると、その質問がどの部分に対するものなのか、すぐに伝わらないかもしれません。質問が複数だと、すべての答えを引き出すまでに時間がかかる上、それぞれの回答が不充分だったりします。

それよりは質問が浮かぶたびに、「ちょっと申し訳ないけど、一旦、ここで質問してもいいかな」と口を挟むほうが、互いが問題を理解できる場合もあります。部下も答えやすく、負担が軽くなるかもしれません。もちろん、相手によっては、ペースを崩し、次に何を話せばいいのかわからなくなってしまうパターンも否めません。

質問を入れるタイミングは、どちらが正解という鉄則はありません。部下との関係性やそのときの報告内容、質問の数などを考慮して、臨機応変に威圧感を与えないように、たずねればいいでしょう。

悪い報告であっても激しい追及はしない

トラブルなどのネガティブな報告の場合は、対応策についても考えなければいけません。その部下に引き続き対応させるのか、上司や別の部下が替わって引き継ぐのかなど、会社としての対応を話し合う必要があります。

ここでのポイントは、トラブルを引き起こした原因を、深く掘り下げることです。だからといって感情的に怒鳴ったり、問い詰めるような言い方はしませんね。

マナー力のある人は、感情を暴走させることはありません。常に平常心を保ち、真心を持って冷静に対応します。故に、人間力がある、と評価されるわけです。

どんな報告にも「ありがとう」のひと言を

たとえ悪い報告であっても、冷静に最後まで話を聴きましょう。

そして報告が終わったら、マイナスな情報を包み隠さず話してくれた部下に対して、感謝の「ありがとう」を伝えることを習慣化しましょう。「よく報告してくれたね」などとほめることも大切です。

悪い報告は誰だって言いにくいもの。それでも部下は勇気を持って、事実を話してくれたのです。そうした気持ちを受け入れ、ねぎらう姿勢が、信頼される上司には求められます。信頼されるには、思いやりのある真に優しいあなたの気持ち、心が必須です。

知らないと恥をかく 50歳からのマナー

著者:西出 ひろ子
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