2022年「物価高」倒産は282件、複合的な要因で幅広い産業に影響広がる

 2022年の「物価高」に起因した倒産は、累計282件に達した。 2021年秋から原油高が進むなか、 2022年1月4日に1ドル=115円44銭だった外国為替相場は、12月30日には132円70銭と円安が加速した。さらに、2月にロシアのウクライナ侵攻で穀物相場が高騰したことで、一気に物価高が押し寄せた。今回の物価高は、企業から家計まで深刻な影響が広がり、夏以降、倒産は月を追うごとに増勢を強めている。

 ウクライナ情勢によるエネルギー価格の上昇やコロナ禍で停滞していた企業活動の再開で需給バランスが崩れた。また、木材価格の上昇によるウッドショックや半導体不足も続いた。さらに、日米金利差による円安など、さまざまな要因から物価が上昇した。
 2022年12月12日、日本銀行が公表した「企業物価指数(2022年11月速報)」によると国内企業物価指数(2020年平均)は118.5%(前年比9.3%上昇)と急激な物価上昇が続いている。
 東京商工リサーチ(TSR)が2022年12月初旬に実施した「原材料・資材の『調達難・コスト上昇に関するアンケート』調査」では、調達コストが上昇した企業は84.8%に達した。一方、コスト増加分を販売価格に「転嫁できていない」企業は44.2%にのぼり、増加分を100%転嫁できた企業はわずか4.4%にすぎなかった。
 2022年10月21日、外国為替相場は1ドル=151円90銭台に急落したが、12月20日に日銀が長期金利の変動幅上限を0.25%から0.5%に拡大することを発表すると、1ドル=131円70銭に急騰した。
2023年1月3日には一時、1ドル=129円50銭まで円高が進んだ。だが、物価の安定には円高だけでなく、地政学的な安定、需給バランスの均衡も必要で、いまは国内物価が下がる要素は見当たらない。このため、採算性が低調で価格転嫁が難しい企業を中心に、苦境は当分続くとみられる。

  • ※ 本調査は、2022年の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②上昇分を価格転嫁できなかった、ことが一因になった倒産(私的・法的)を集計、分析した。

2022年は282件、年後半から増勢が強まる

 ロシアのウクライナ侵攻やサプライチェーン問題、円安、コロナ禍など、複合的な要因が重なり物価上昇が続いている。「物価高」倒産は、2022年1月は7件だったが、その後は右肩上がりで増勢を続け、12月は53件と1月の7.5倍に増加。2022年は合計282件に達した。
 1月は建設業3件、製造業2件、運輸業とサービス業が各1件だった。だが、12月は製造業と運輸業が各10件、サービス業他9件、小売業8件、建設業7件、卸売業6件、農・林・漁・鉱業2件、不動産業1件と、幅広い産業に影響が広がっている。

物価高

【産業別】運輸業が76件で最多

 10産業のうち、金融・保険業、情報通信業を除く8産業で倒産が発生した。
 最多が運輸業の76件(構成比26.9%)で、燃料価格の高止まりが大きく影響した。
 以下、製造業の51件(同18.0%)、建設業48件(同17.0%)、卸売業36件(同12.7%)、小売業28件(同9.9%)の順。
 円安やコロナ禍での経済活動の再開による需要の増加、ロシアのウクライナ侵攻なども加わり、モノの値上がりが幅広い産業に影響を及ぼしている。

物価高

【業種別】道路貨物運送業が69件で最多

 産業別を細かく分類した業種別(業種中分類)件数は、道路貨物運送業が69件で最も多かった。燃料価格の上昇が資金繰りに大きな影響を与えた。
 次いで、総合工事業の32件。このうち、木造建築工事業13件、建築リフォーム工事業5件で、ウッドショックによる木材価格の上昇など、建設資材の価格高騰が一因となっている。
 以下、食料品製造業23件、農業17件、飲食料品小売業16件と続き、円安による飼料や原材料の仕入コストの上昇によるところが大きい。

物価高

【負債額別】負債1億円以上が6割超

 負債額別件数は、最多が1億円以上5億円未満の124件で、4割超(構成比43.9%)を占めた。
 また、5億円以上10億円未満が26件(同9.2%)、10億円以上が30件(同10.6%)で、1億円以上が180件と6割超(同63.8%)になった。
 このほか、1億円未満の小規模倒産は102件(同36.1%)だった。

物価高

【形態別】破産が約9割

 形態別件数は、破産が251件で、構成比は89.0%と、約9割を占めた。次いで、取引停止処分が14件(構成比4.9%)、民事再生法が12件、特別清算が3件で続く。
 消滅型の法的倒産が254件(同90.0%)と、ほとんどを占めるが、再建型も14件(同4.9%)発生した。
 コロナ禍で業績回復が遅れ、資金繰り支援策の副作用で過剰債務に陥っている企業は多い。
物価の上昇により運転資金の需要も高まるなか、そうした企業を中心に資金調達難から事業継続を断念し、「破産」を選択していることがうかがわれる。

物価高

【従業員数別】10人未満が約6割

 従業員数別件数は、10人未満が168件で、「物価高」倒産の約6割(構成比59.5%)を占めた。
このうち、5人未満が109件(同38.6%)、5人以上10人未満が59件(同20.9%)。このほか、10人以上20人未満が57件(同20.2%)、20人以上50人未満が43件(同15.2%)、50人以上300人未満が13件(同4.6%)。また、300人以上でも1件発生した。
 企業規模を問わず、燃料や原材料などの値上がりの影響を受けている。

物価高

【地区別】関東が最多の75件

 地区別件数は、最多が関東の75件で、構成比26.5%だった。
 次いで、近畿46件、九州38件、中部32件、東北30件と続く。
 都道府県別件数では、鳥取県、島根県、徳島県、高知県の4県を除く43都道府県で発生した。
 最多が大阪府の29件で、以下、北海道27件、東京都20件、茨城県と福岡県が各16件で続く。

物価高

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