横浜市の小学校でアスベスト飛散 市基準の25倍、住宅地の190倍超 市が危険を過小説明

横浜市の山王台小学校(磯子区)で9月以降、強力な発がん性を持つアスベスト(石綿)が基準を超えて漏えいする不適正工事が起きていた。市基準の最大25倍におよぶ。一体どういうことなのか。(井部正之)

横浜市の発表資料の一部。山王台小学校で市基準の最大25倍、住宅地の190倍超の石綿飛散が確認された

◆住宅地の190倍超石綿飛散

同小学校では体育館の骨組みだけ残してリニューアルする大規模改修工事を岡山建設(同市西区)に1億6142万4000円(税抜き)で委託。5月末以降に開始した。市によれば、体育館の屋根、外壁、内壁、軒天、天井(一部)の成形板に石綿を含有しており、計1573平方メートルに上る。発注仕様では割らずに原形のまま撤去することになっていた。

ところが9月5日午前に作業区画の境界4カ所において実施した大気濃度測定で、同日夜に速報値として2カ所から空気1リットルあたり22本、7.8本の石綿の可能性のある繊維を検出した。のちに走査電子顕微鏡(SEM)による詳細分析で、石綿の1つ、クリソタイル(白石綿)を同25本または同18本検出した。

市が定める指導基準(同1本)の最大25倍だ。住宅地域の全国平均は同0.13本(2021年度)であり、その192倍に達する。それだけ異常な濃度の石綿が学校敷地内にある作業区画の境界で漏えいしていた。当然区画外にも飛散したはずだ。

市は5日夜に速報値の報告を受けたところで翌日の石綿関連作業の停止を指示した。だが、すでに約3分の2の屋根材は除去を終えていた。

石綿飛散は、2日に始まった波形スレートにパーライト(ガラス質の火山岩を熱処理して作る多孔質材)板を重ねてボルト止めした屋根材の撤去作業が原因という。

市学校整備課の寺口達志課長は「ボルトがさびていて手工具で外れなかったので電動工具(ディスクグラインダー)を使った。このときにスレート波板を直径3~5センチメートル傷つけてしまったと(元請けから)報告を受けています」と説明する。

いずれの建材も石綿を含有しており、波形スレートにはアモサイト(茶石綿)とクリソタイル(白石綿)、パーライト板には白石綿が0.1~5%使用されていた。湿潤化はしていたというが、電動グラインダーで削れば高濃度の石綿が飛散するのは当たり前のことだ。

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7日に市大気・音環境課が現場を立ち入り検査し、散乱する石綿含有の可能性のある粉じんの清掃や散水による飛散防止を口頭指導した。

同課によれば、大気汚染防止法(大防法)や市生活環境保全条例の違反はない。指導は市が公表する「指導基準」で作業場外に石綿が飛散したり、そのおそれがある場合、直ちに市に通報するとともに飛散防止の応急措置を講じることが定められているためだ。

ところが問題はここで終わらなかった。

9月6日以降は石綿関連の作業をしていなかったにもかかわらず、10月17日に再び石綿を含む可能性のある繊維が市の基準を超えて漏えいしていた。19日発表によれば、作業区画境界4カ所のうち3カ所で同2.3~3.3本だったうえ、区画外で同7本を検出した。

市学校整備課はすべての作業を停止。18日夕方に市大気・音環境課に速報値を報告した。同課は翌19日に現場を立ち入り検査し、再び清掃の徹底などを指導した。結局、28日発表で石綿の含有はなかったと報告した。

今後、電動工具の使用はせず、手工具のみで波形スレートのボルトを切断し、手作業で取り外す。石綿の飛散を防止する湿潤剤も使用する。また測定も毎日実施という。29日に試験施工し、その後工事再開する予定だ。

だが、一件落着とは言い難い。横浜市の対応には問題が少なくないからだ。

たとえば石綿飛散リスクの認識や説明だ。

市は10月14日、15日に山王台小学校で保護者説明会を開催。そこで作業区画外への石綿飛散の可能性があるのは屋根材の撤去作業をした9月2日と5日の2日間と説明した。

だが、実際には屋根材と同じ石綿含有の波形スレートを使った外壁の撤去作業が8月15日から18日まで実施されている。市学校整備課は説明していないのだが、じつはその作業でも電動工具を使って同じ方式で作業していた。当然、石綿飛散もあったはずだ。

10月17日に筆者が同課に確認したところ、寺口課長は「(作業初日の)測定時と同じような作業をしていれば(石綿は)出てないと考えていた」と主張した。

電動工具使用の有無を尋ねると「確認していません」と調べていなかった。

市大気・音環境課は「このときも(電動工具を)使われています。基本的に同じ作業です」と認める。9月7日の指導は外壁作業も含めたものという。市学校整備課も後に電動工具の使用を認めた。

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それでも同課の寺口課長は「測定で(石綿は)飛んでないと確認しているので、同じ作業がされたと考えています」と強弁する。

しかし実際には測定は8月15日の作業初日1回だけ。当然そのほかの作業日に石綿が飛散していたとしても知りようがない。しかも初日の測定にしても午前中4時間だけで、午後に飛散していてもわからない。

実際には飛散の可能性があるのは市が認める9月の2日間に外壁撤去の4日間を加えた計6日間と考えざるを得ない。仮に測定結果のある半日を除外したとしても計5日半。市の説明は石綿飛散・ばく露のリスクを半分以下に過小評価していることは間違いない。

市大気・音環境課は「(測定で)確認はできてないのでまったくないとまでは言い切れない」と消極的な言い回しながら飛散の可能性を認めている。

ところが寺口課長は上記の説明を繰り返した。

悪質なのは、市は外壁材撤去時における電動工具の使用を認めた後に開催した小学校での保護者説明会でそのことを“隠していた”ことだ。筆者がこの件を指摘したのは10月17日で、21日同氏は外壁材撤去時における電動工具の使用を認めた。つまり、石綿飛散のあった屋根材撤去時と同じ電動工具を使った不適正な除去であることを知っていたにもかかわらず、市は児童らのばく露リスクにつながる石綿飛散を「2日間」と説明し続けている。

寺口課長は隠したことは否定し、「次に説明する機会がございますのでしっかり説明させていただきます」と答えた。しかし説明会の予定はないというから単なる言い逃れの可能性がある。また石綿飛散リスクがあったのは2日間との主張は変えていない。

さらにいうなら市は石綿飛散がほとんどないかのような説明をするが、電動工具を使っていなくても、石綿スレートをバール破砕した場合、最大で空気1リットルあたり3840本の石綿を含む繊維が飛散していたことが2019年4月の環境省委員会でも報告されている。最近公表された厚生労働省調査では同9900本に達する。電動工具を使えば間違いなく万単位の高濃度となるはずだ。

こうしたデータがあるため、2020年の労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)や大気汚染防止法(大防法)改正で、石綿を含む成形板除去時に「原則破砕禁止」との規定が盛り込まれたのである。

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ちなみに湿潤化しつつ破砕せず原形のまま撤去して同256本検出している事例もある。適切に実施すれば、労働者の口元で測定したばく露濃度で同46本、作業現場の定点で同3.2本ないし3.7本まで低減できているが、ゼロというわけではない。

石綿含有建材を撤去する作業は必ず濃度の高低はあれど、石綿は飛散する。発生源における飛散をどれだけ低く抑えるかが腕の見せ所なのだが、日本においては成形板などいわゆる「レベル3」建材の除去では費用も十分支払われないことが多く、ほとんどまともな対策がされていない。

今回の事案では作業直近ならまだしも、作業区画の境界でわずか4カ所調べただけで飛散がないというのは無理がある。まして測定データもないのに飛散がないと主張するなど無茶苦茶だ。児童らの健康リスクを軽視し、知識のない保護者らを馬鹿にした対応といわざるを得ない。

関連して、市は児童らの石綿ばく露リスクの評価を専門家に依頼しているという。

ほかの自治体では公平性や透明性を確保するため、有識者による委員会方式により公開で検討しているが、横浜市の場合、専門医1人だけ。打ち合わせもしているというが、公開もされておらず、透明性ゼロだ。

市学校整備課に委員会方式で公開実施すべきでないかと指摘したが、「現状ではそこまで考えていません」(寺口課長)との見解だ。

寺口課長は「信用していただけるようしっかりと取り組みたい」という。だが、すでに市側は石綿ばく露リスクのある日数を半分以下に過小評価している状況であり、まともなリスク評価がされるのか疑問である。

こうした市側の対応をみていると、今回の問題の深刻さをどれだけ理解しているのかと言いたくなる。対応を抜本的に見直す必要があろう。

今後の作業についても、結局、作業の半分(午後)については測定もない。そもそも発生源の作業濃度を調べて対策を打つということがないうえ、作業区画境界の測定結果がわかるのは早くて当日夜ないし翌日のため、飛散防止の実効性に疑問が残る。半ば博打のようなやり方である。また石綿の漏えいが起きてもおかしくない。

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