堺市がアスベスト飛散の再現実験で濃度減らす不正操作か

大阪・堺市の小学校4校で児童らが強力な発がん物質であるアスベスト(石綿)にばく露したおそれがあるとして市が9月末に実施した再現実験をめぐり、市が実際より飛散を減らす不正な操作をさせていた可能性があることが明らかになった。(井部正之)

11月21日の第4回懇話会のようす(筆者撮影)

◆ほぼ飛散なしと市が報告

同市では2021年7月に市内の日置荘小学校、登美丘西小学校、八田荘小学校、福泉小学校でそれぞれ体育館3階の天井裏にある吹き付け材(耐火被覆)から石綿の1つ、クリソタイル(白石綿)を重量の3.4~4.3%検出。そのうち2校で天井板の一部や点検口のふたが破損・欠損して吹き付け材が露出していたなど、児童らが日常的に石綿を吸っていた可能性があることが問題になった。

市は同11月、児童らの石綿ばく露による健康リスクの検証をするための懇話会(座長:東賢一・近畿大学医学部准教授)を設置して検討を開始。ところがそのための再現実験で石綿飛散の濃度を意図的に減らす不正な操作がされていた可能性があることが判明した。

実験は懇話会の議論に基づいて9月26日から29日に日置荘小学校の体育館3階で実施したもの。11月21日の懇話会で結果を市が説明した。

同小学校で行うことにしたのは「4校のうち、飛散する可能性が一番高いと考えられる」ためだ。この小学校では2013年4月から体育館3階を学童保育のような形で日常的に使っていたうえ、廊下天井の点検口にふたがなく、石綿を含む吹き付け材が一部むき出しになっていた。しかも児童がそこにボールを投げて遊んでいたほか、天井裏に直径90センチメートルの吹き付け材をはじめ多数の破片が落下しているなど、吹き付け材の劣化もひどかった。

実験は、
○扉の開閉による飛散の可能性
○点検口へのボールの投入れによる飛散の可能性
○改修工事等での落綿による飛散の可能性
○掃除による再飛散の可能性
──の4つを調べるもの。

市によれば、いずれも吹き付け石綿の除去に近い形で現場をプラスチックシートで密閉に近い状態で隔離養生し、外部に漏れないよう負圧にするなどして各3回実施した。

その結果、吹き付け材(白石綿4.2%含有)の塊(直径約20センチ、約187グラム)を天井裏に落とす実験で、石綿の可能性のある繊維が天井裏において最大で空気1リットルあたり75本、廊下(点検口真下)で34本検出した。走査電子顕微鏡(SEM)による詳細分析により、実際に天井裏で空気中に白石綿が0.19本、点検口真下の廊下で同0.39本浮遊していたことが明らかになった。

それ以外はすべて定量できる下限である0.07本未満ないし0.1本未満だったと報告された。石綿繊維は1本も確認されなかったという。

◆実態と異なるとの委員証言も

その後の議論で、4日間のうち3日実験に参加したという大阪アスベスト対策センター幹事の伊藤泰司委員は、ほとんど石綿が不検出とのデータについて、「少しほっとできるような内容が含まれている」としつつも、「あくまでも今回の実験は、説明のあった今回の実験の範囲の中での事態であって、現実はやっぱり違う」と感想を述べた。

その上で「たとえば、私(実験で)ドアの開け閉めをやりましたけど、小さい子ども、どっちかというと女の子が開け閉めするような感じでやってくれということだったんで(その通りに)やったんですけど、おそらく子どもは思いきりピシャンとやりますよね」と市から指示があったことを明かした。

ビニルボールを点検口内に投げる実験では玉入れのように下から軽く投げていたことから、伊藤委員は「ボールの投げ入れなんて、あんなお上品なことはたぶん子どもはやらなくて。サッカーボールを蹴り込むようなことをやっていたと思うんですね」と疑問を呈した。

また天井裏に直径90センチメートルもの大きな吹き付け材の塊が落ちていたことに関連して、阪神・淡路大震災など「過酷な状況で起こる」として、今回の実験は塊を天井裏に落としただけだが、大きく揺れたりする際の石綿飛散についても考慮が必要だと指摘した。

ほかの委員は「何十年に一度のことを考慮する必要はない」などと伊藤氏の主張に賛同しなかった。

東座長はドアの開閉について「それなりに大きな音もしていた」と反論。震災については可能性を否定しなかったものの、「いろいろ議論したり、情報を集めたりするなかでこれ以上のことは見当たらなかった」として実験の妥当性を強調した。結局、今回の実験結果からリスク評価する方針が示された。

会合後、改めて伊藤氏から話を聞いたところ、実際には市から「小さい子ども」や「女の子が開け閉めするような感じ」と発言はなかったが、「平常時と同じようにゆっくり開け閉めしてくださいと言われたんです。それを小学生の女の子がやるようにと表現した」と明かす。

氏によれば、実験時にも市と扉の開け閉めの仕方をめぐってやり取りがあった。市から「普通のゆっくりした」開け閉めを要求されたが、「男の子は思い切り開け閉めする」と反論。市側もうなづいていたが主張は変えず、従うしかなかったという。

「子どもは思いっきり閉め閉めたり、全力でボールを投げたりってことを遊びのようにやるじゃないですか。相撲をとって扉に強くぶつかるとか。そういう場合に(石綿が)飛散すると思います。そういうシビアな事態は想定していないというのが今回の実験でした。僕はそのことをずっと主張してたんです」(伊藤氏)

◆「強く」開閉、投げる実験除外

また大きな塊の落下について、「震災のことを挙げましたが、それ以外にも実際にはシビアな事態というのは、いっぱい起こるんだということを想定すべき。僕が主張したのはそういう意図です」(同)と補足した。

じつは扉の開閉やボールを投げる実験のやり方は懇話会でも議論になっている。1月末の第2回懇話会で伊藤委員は「ドアの開け閉めを強くやる」などと2回主張。ほかの委員からの反対はなかった。にもかかわらず、「強く」がいつのまにか実験計画から外され、実験時にも主張したが無視されたことになる。

ボールを投げる実験でも、東座長が「ボールをちょっと入れてみるとか」と最初から強く投げない想定で説明したのに対し、伊藤氏は「ボールを投げ込むとかです」と強く投げる想定で反論。だが実験計画から除外されたわけだ。

今回の実験では、石綿を含む吹き付け材のある天井裏により大きな振動を与えるであろう、扉を「強く」開け閉めすることは反対意見もなかったのに除外され、意見が割れたボールを強く投げることは座長の弱く投げるものだけが採用された。つまり、石綿飛散を不正に操作して低くしようとした疑いがある。

市学校施設課は「通常閉めるようにやってくださいとは言いました」と指示を出したことは認めたが、不正操作は否定した。

実験計画の細部は公開の会合で議論されず、水面下で決められた。伊藤氏は実験の詳細は「聞かれてもいない」としており、市と一部の委員の間で決まった可能性がある。市は「最終的には各委員に回して、細かい仕様は確認してます」と否定。

伊藤氏に改めて尋ねると「どんな強度で開け閉めするかなど細かいことは(渡された実験計画で)決まってなくて、当日のことですよ」と明かす。

反対がなかった強く扉を開け閉めすることが実験計画から除外されたのはどう考えてもおかしい。またボールを投げる実験のように委員の間で意見が割れたのであれば、強弱それぞれ実験するのが当然だ。それを実験計画にも明記せず、現場でこっそり「強くしないよう」指示していたとすれば、やはり不正操作ではないのか。

会合後、堺市在住で「アスベスト患者と家族の会連絡会」の古川和子さんは「(会合で流した実験の)映像みたときにドアの開け閉め自体、上品だなあとおかしいと感じた。そうしたら小さい女の子が開閉するようにといわれたと伊藤さんがバラしてた。ボール投げだって、ふつう男の子なら思い切り投げますよ。大きめのボールは蹴飛ばしたっておかしくない。過小評価ですよ」と批判した。

同連絡会の傍聴者はもう2人いたが、いずれも実験がおかしいと感想を述べた。筆者も会場で実験映像をみたが、石綿が極力飛散しないようなやり方で実験しているようにしか思えなかった。

筆者の取材に、市は今回の実験が「普段の子どもたちの動きなのかと思います」と自画自賛した。だが、不正操作疑惑にも十分な説明がされているとは言いがたい。これでリスク評価して、本当に保護者の理解が得られるのだろうか。

【訂正】記事タイトルとリードに誤りがありました。堺市の再現実験について問題提起した懇話会委員は「実験の想定が不十分」と指摘しており、「不正操作」とまでは主張していないため、タイトルの「懇話会委員が証言」、本文リードの一文〈市の懇話会で委員が証言した。〉をそれぞれ削除します(12月2日午後4時更新)。

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