<北朝鮮内部>始まった寒さとの戦い 窮民が炭鉱に集結し騒動 警察出動も 「このままでは凍え死ぬ」

降雪の中で三池淵の観光特区の工事現場を視察した金正恩氏。2018年11月労働新聞より引用。

北朝鮮で12月中旬から冷え込みが厳しくなっている。朝晩に零下20~30度にまで気温が下がる日が珍しくない北部地域の庶民にとって、煮炊き、暖房用の燃料の入手は命にかかわる問題だ。咸鏡北道(ハムギョンプクド)の都市部では、昨年に続いて労働者への石炭配給が実施されたが、その量は3分の1以下に激減。都市部の住民が炭鉱に集まって警察が出動する騒ぎも起こっているという。(カン・ジウォン

◆石炭配給を異例の実施も「まったく足りない。どうやって生きろと?」

「工場や企業に勤める労働者に対し、煮炊き、暖房用の石炭が1人当たり150キロ配給されることになった」
咸鏡北道の都市部の国営企業に勤める取材パートナーが12月20日、このように伝えてきた。

石炭配給が広範な労働者に対して実施されるのは昨年に続いてのことだが異例。代金はかなり以前に定められた廉価な国定価格で、労働者の給与から天引きされるという。だがその費用はどうやって賄うのか。

今、どこの工場や企業にも従業員に越冬用の石炭を買い与える余裕はない。国営企業の給与はおおむね2000~5000ウォン程度(日本円で約32~80円)で形式に過ぎず、コロナ防疫を口実にした統制による経済麻痺で、商行為で稼ぐこともままならないのが現実だ。

越冬用の薪や石炭をどうやって確保するかは、庶民にとっては死活問題だ。「人民の苦境が上に報告されて『伝票』で石炭を配給することになった」と協力者は言う。その仕組みは次のようなものだ。

国が費用を保証する「石炭伝票」を国営企業に対して発給し、それで炭坑や石炭会社は石炭の引き渡しを認める。石炭会社は「伝票」を銀行や国家機関に提出し、後に精算する方式だ。昨年も北部地域では1月に「石炭伝票」方式で労働者に石炭500~800キロ程度が配給された。異例のことだった。

(参考写真)村の共同井戸で水を汲んで家路につく女性。燃料代費節約のため沸かさずに飲む人が多い。2015年1月北朝鮮中部地方で撮影「ミンドゥルレ」(アジアプレス)

◆ひと冬石炭150キロでは越冬無理

しかし「伝票」を通じた取引は、炭鉱での石炭引き渡しまでだ。そこから職場までの運搬は企業が自力で解決しなければならない。車両や燃料を調達する費用は結局、受け取った石炭を充当させるしかないため、実際に労働者が手にする石炭は150キロをかなり下回ると見られる。

また石炭配給が出るのは出勤している労働者本人分だけだ。扶養家族の分や退職した老人たちは、これまで通り自力で現金で購入しなければならない。

咸鏡北道出身の脱北者によると、石炭だけで煮炊き、暖房をする場合、1世帯でひと冬に1.5から2トンが必要だのことだ。現地の取材協力者はまったく足りないと憤る。

「収穫が終わったのに食糧価格があまり下がらず、皆お金が無くて暮らしは極めて厳しい。さらに凍えて死ぬ心配をしなければならないのだ。石炭わずか150キロで、冬をいったいどうやって生きていけというのか」

◆石炭拾いに子供と年寄りまで炭鉱に

それでも、石炭配給が出たことで市場価格が大幅に下がったという。この協力者によれば、1トン当たり130中国元程度だったのが95元まで下がった。それでも買えない人が多く、炭鉱周辺では石炭と食糧を物々交換する商売も現れているそうだ。
※1中国元は約19円

「炭鉱には子供から年寄りまで、石炭を拾って持ち帰ろうとする人が大勢集まっている。恩徳(ウンドク)郡の梧鳳(オボン)炭鉱では、殺到した人を炭鉱の『糾察隊』(秩序維持組織)が取り締まり、拾い集めた石炭を回収していた。現場は殺気立っていて、泣き喚く人もいたし、喧嘩になって刃物沙汰まで起こって安全局(警察)の機動隊が出動している」

協力者は現地の混乱をこう説明した。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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