ノザワが全国販売の肥料「マインマグ」からアスベスト 使用で吸う危険 違法製造・販売10年超か

大手建材メーカー・ノザワ(神戸市)が全国展開しているミネラル肥料「マインマグ」から強力な発がん物質であるアスベスト(石綿)が法令の基準を超えて検出された。使うことで石綿を吸ってしまう危険がある。(井部正之)

筆者が2022年3月に購入した建材メーカーノザワが全国展開する肥料「マインマグC」と「マインマグmini」。いずれの製品からも基準超のアスベストが検出された

◆購入2製品からアスベスト検出

石綿は吸うと数十年後に中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがん)や肺がんを引き起こす。ほとんど石綿による被害とされ、発症から1~2年で亡くなることが多い中皮腫による死者は1995年の500人から20年間で3倍増。2021年は1635人と増え続けている。石綿ばく露による疾患で年間約1000人が労災認定を受けているうえ、旧石綿工場の周辺では住民の被害も発生。労災以外の認定も2022年11月までで1万7000人超に上り、工場周辺の被害を含む「環境ばく露・不明」が4005人(36.6%)に達する。

ノザワが全国展開している肥料「マインマグ」は東京農業大学と共同開発したもので、2010年3月から販売。1960年代まで操業した同社フラノ事業所の旧鉱山の石綿を含む廃棄物(鉱さい)を焼成処理により「完全無害化」して製造したミネラル肥料だ。主力のマインマグCをはじめ、計6製品がある。

初年度に122トンを出荷して以降、売り上げは伸び続けており、2021年度に3億9800万円を計上。決算資料に「施肥効果が口コミで広がり年々増収、過去最高を更新中」となどと毎回のように「過去最高」と記載される好調ぶりだ。最近の販売量は公表していないが、同社オンラインショップの価格から主力のマインマグCで逆算すると2021年度は2128トン(1袋15キロで14万1889個)の売り上げになる。

それだけなら旧鉱山に残存するやっかいな石綿を含む鉱さいを無害化して再利用に成功した好事例である。ところが筆者が3月24日に同社オンラインショップで購入したマインマグCと園芸用のマインマグminiを分析したところ、いずれも石綿を検出したのだ。

【関連写真】ノザワの肥料「マインマグ」のアスベスト含有を示す顕微鏡写真など

分析したのは日本環境測定分析協会(日環協)における石綿分析講習のインストラクターが所属する2社を含む計3社。建材などの石綿分析で日本でもトップクラスの分析機関である。いずれも国際標準の分析法(JISA1481-1)で石綿の有無を調べる「定性分析」をした。その結果、いずれの製品からも基準の「重量の0.1%」を超えるクリソタイル(白石綿)を検出した。

◆ノザワは石綿含有を否定

分析結果の表記上「0.1%超~5%」の含有とされる。石綿分析は人が顕微鏡で観察しており、国際標準の分析法では10~40倍程度の実体顕微鏡と鉱物学の研究でも使う最大400倍の偏光顕微鏡を組み合わせて石綿の有無を調べる。定性分析で石綿が検出されれば、労働安全衛生法(安衛法)の基準「0.1%」超と判断してよい。

法令ギリギリの含有ということがあるのか分析機関に聞いたところ、3社とも「間違いなく0.1%は超える」と断言した。

上記インストラクターの2社は「(重量の)1%近く入っていてもおかしくない」と口をそろえる。もう1社は「3%くらい入っているかも」と話す。念のためインストラクターの1社にマインマグCを定量分析(JISA1481-4)してもらったところ、「通常は繊維状のものはすべて計数するのですが、熱処理で変異した白石綿を除外しても基準超の0.8%でした」という。つまり実際にはもっと石綿の含有率が高いことになる。

しかも3社は「簡単に石綿が検出される」と口をそろえた。うち1社は「こんなものを肥料として売っているなんて……」と憤慨していた。

ノザワは「製造1時間ごとに焼成後の原料について検査を実施し、肥料造粒のバッチ処理毎に再度検査を実施しておりますが、現在までに、石綿が検出された事例はありません」(リスク対策部法務室)などと回答。筆者が購入した2製品の同ロット(1回の製造単位。約200キロと2022年3月に回答)についても「社内及び外部機関にて分析し、石綿は検出されておりません」(同)などと全否定した。

同社の回答を分析機関3社に伝えると絶句していた。すでに述べたように「簡単に石綿が検出される」からだ。

日環協インストラクターの分析者は「ふつうに調べれば(石綿が)出ると思いますけど。1時間ごとに調べて一度も見つからないっていうのはさすがに……。分散染色でも何回かに1回は引っかかると思う。あえて出ないように分析したんじゃないか」との見解だ。

もう1人のインストラクターは「2人で分析しましたが、10分とかからずあっという間に『ありますよ』っていわれて、『そんなすぐ見つかんの』って驚いたくらい。なにしろ実体顕微鏡、要するにごつい虫眼鏡で簡単に見つかるレベルなんで。それを偏光顕微鏡で見たら石綿でしたと、それくらい簡単に見つかります」と呆れていた。

最後の1社は「偏光顕微鏡では簡単に見つかります。粒のような一見短い白石綿が含まれていてほぐすと長い石綿繊維なんですが、JIS2(簡易分析法の略称)だとアスペクト(直径と太さの)比が3対1以上しか計数しないので(石綿)なしにできます」と分析法の欠陥あるいはそれを意図的に利用した偽装の可能性を指摘した。

日環協インストラクターの1人は建材メーカーで品質管理をした経験から、「品管なんて分析の知識がない人が言われるがままにやるだけ。出たら困るから(石綿が)あるなんて答えはいらないんでしょう」と推測する。

外部の分析機関でも不検出だったことについてもこの分析者は「(石綿の悪徳)除去業といっしょでしょ。グルになってないって結果出せばいいだけ。怖いですね」と語った。

◆製造工場周辺でほぼ毎年石綿飛散

じつは同社フラノ事業所ではマインマグの製造をしている冬期を中心に工場敷地境界付近で毎年のように大気中から石綿を検出していることが環境省の調査で問題になってきた。たとえば2020年3月には空気1リットルあたり37本の石綿を含む可能性のある繊維を検出。実際に同28本の白石綿が同定された。しかも測定地点は焼成炉の排気口付近だ。

解体現場など発生源でない限り全国的に大気中の石綿濃度は下がり続けており、住宅地域では石綿以外を含む「総繊維数濃度」でも平均同0.18本(2021年度)だった。それに比べると150倍超に達する。

2019年度の同省・アスベスト大気濃度調査検討会の資料は〈今回、石綿繊維数濃度が高濃度に確認されている地点は、工場南側の敷地境界に近い地点であった。特に第2期調査(12月)において、工場直近の地点で特に高濃度のアスベスト繊維が確認され、その周辺の調査では高濃度が見られなかったこと、風向から考慮し、より発生源と考えられる地点がないことから、事業場が発生源であると推察される〉と報告している。

現場周辺を含めて何年も測定し続けて、近隣の旧鉱山周辺や住宅地域でも高濃度のデータは出ておらず、ほかに発生源がないことをあらかじめ確認。焼成炉の排気口の風下から鉱さいに含まれているのと同じ白石綿が毎年のように高濃度に検出されている実態から「事業場が発生源」と考えるほかないというのが国や専門家の見解だ。

2022年3月の同省検討会でも石綿飛散が止まらない実態に強く懸念の声が上がり、改善を求める意見が出ている。「肥料の検査が必要」との指摘もあった。

当時筆者の取材に対し、同社は「同省の測定前後に同様の検査を外部機関に委託して行ったが、(総繊維数濃度で同)1本超は出ておりませんでした」(同)などと反論。マインマグについても定期的に分析して安全性を確認していると強調した。

国の分析では石綿が検出されるのに、同社の分析や同社が委託すると検出されない。今回と同じことがここでも起きていた。

データ偽装とサンプルすり替えは日本の“お家芸”といってよいくらい何度も繰り返されている問題だ。ノザワでも子会社が石綿除去工事を請け負うために試料をすり替えて「石綿あり」との分析結果を偽装した詐欺同然の“事件”が住民の調査で発覚し、2008年12月に社長が謝罪会見をしている。

同社の“前科”からも実際には石綿含有を知りつつ、製造・販売していた可能性が浮かぶ。あるいはよほどいい加減な検査なのか。販売当初から石綿含有を知っていた可能性すらある。だが同社は「マインマグから石綿が検出された事実はありません」(同)などと繰り返す。

同社は認めないが、石綿含有は信頼性の高い分析機関3社の結果から間違いないだろう。残る4製品については現段階でははっきりしないが、製造工程が同じである以上、やはり石綿含有の可能性が高い。環境省の検討会で「白石綿が入っていると肥料として使われたときに飛散する可能性もある」と委員が指摘しているとおりで、石綿を吸ってしまうおそれがあるため使用はお勧めしない。

石綿を0.1%超含む製品の製造・使用などは2006年9月に原則禁止されている(一部除外規定があり全面禁止は2012年3月だが、肥料は除外の対象外)。同社は労働安全衛生法(安衛法)第55条違反の疑いがある。有罪になれば、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)である。

2022年12月下旬に筆者は厚生労働省など関係省庁に情報提供し、対応を求めた。同社は「石綿が検出された事実はありませんので、マインマグの製造・販売を停止する必要はなく、また、リコールを行う必要もない」(同)と反論するが、同社と同社が委託した分析機関では石綿が一切検出されない異常な状況が今後も続くのだろうか。

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