雪山入門に最適な山が多い福井県、絶対に忘れてはいけない装備や道具とは…使いこなせるように練習も【ふくいのそと遊び】

青空が美しい荒島岳。福井には雪山入門に最適な山がたくさん。冬季シーズンに登る際は十分な装備を
ピッケルなしに本格雪山に向かうことはできません。落としてもなくさないようリーシュも忘れず
アイゼンは10本爪か12本爪がおすすめです。
新雪で浮力を発揮するのはスノーシュー。ただし大きくて重い
ことちらはワカン。スノーシューに比べて軽くて取り回しがしやすい
本格雪山ではスコップの携帯をお忘れなく
雪山人気が高い福井県大野市の銀杏峰。

いよいよ雪山シーズン!(・・・といっても驚くくらい雪のすくない年末年始でしたが)

以前、「雪山こそが山登り」「雪山だとこうなります」と題して雪山について2回お話ししました。雪山って気になるけれどどうなの?な方は、ぜひそちらをご一読いただければと思います。

その2回をふまえて、ゴム長靴での雪の里山歩きではなく「本格雪山※1」に行きたい。もしそんな思いが胸にあふれてしまったら。(※1ここでいう本格雪山とはアイゼンやピッケルをつかう雪山を指しています。)

ご安心ください。福井県には雪山入門に最適な山々があります。

勝山市の取立山、大野市の銀杏峰(げなんぽ)は雪山入門には最適な山ですし、深田久弥の日本百名山にあげられている大野市の荒島岳も、本格雪山※2のグレーディングからいえば初級です。(※2勝原コースや中出コース。他のコースは高難易度。)

それぞれの山の登山口や冬季ルートについては書籍やアプリの情報があふれていると思うので、今回は本格雪山をはじめるにあたって必要な道具について、私自身が感じていることをお伝えできたらと思います。

本格雪山に最低限必要なものは、 ・滑落をふせぐためのもの アイゼン、ピッケル ・浮力を与えてくれるもの スノーシュー、ワカン(和かんじき) ・雪山用グローブ です。

アイゼン、ピッケルについて。

よく「ストックからピッケルに持ち替えるタイミングはいつ?」との質問をうけます。これ!という絶対のタイミングというのはありませんが、目安として「足元にアイゼンを装着したら手元はかならずピッケルにしてください」とお伝えしています。

ピッケルにはリーシュ(流れ止め)が必要です。思わぬ拍子にピッケルが手から離れて落としてしまったら、雪面では簡単かつ即座に失ってしまいます。ピッケルなしに本格雪山に向かうことはできません。

リーシュは、身体に斜めがけして確保するタイプ、ハーネスのメインループやザックのウエストベルトに通すタイプ、輪っかを手首に通すタイプの主に3タイプがありますが、右手左手に持ち替えることも多いので、斜めがけタイプかメインループやベルトに通すタイプがおすすめです。

リーシュは本来の流れ止め以外にも、休憩時に自身の身体の確保のために雪面ふかくにピッケルを差し込み(場合によっては踏み込み)、簡易ビレイとしてもつかいます。

アイゼンは爪の数でいうと、4本爪、6本爪、10本爪、12本爪が主なラインナップです。4本爪や6本爪は軽アイゼンとも呼ばれ、爪が土踏まず部分を中心にした構造です。

よく「初心者なのでまず軽アイゼンからと思っているのですが・・・」とのお言葉をきくですが、私は「初めての方こそ、アイゼンは10本爪か12本爪を選んでください」とお伝えしています。

というのも、軽アイゼンは限られた数の爪が土踏まずを中心に配置された構造です。逆にいうと、つま先とかかとには爪が無いということです。

滑落が大きな事故に直結しうる本格雪山では、滑らず、転ばずに歩くことが最重要です。

あ!と思ったときに思わずついたのが爪のないかかとだったら。

スルッと雪面で足元がずれたときに咄嗟についたのが爪のないつま先だったら。

そのまま大きく滑ってしまうことは簡単に想像がつきます。

足裏のどこに接地したとしても爪があること。これが大切です。

軽アイゼンはどんなときでも土踏まず部で接地できる雪山歩行技術に長けた方のみが使用できるもの。そしてそれ程のエキスパートは本格雪山での装備に軽アイゼンを選択することはまずありません。

では軽アイゼンは役に立たないかというとそうではありません。山の道具はなんでも適材適所。残雪期に締まった雪面がところどころ残っているようなルートでは十分に効果を発揮しますし、その軽量さとコンパクトさは非常にありがたいです。夏でも溶けずにのこっている白馬の大雪渓などは軽アイゼン大活躍です。

スノーシュー、ワカンについて。

積雪量が多いときに靴のままで歩こうとすると(ツボ足)靴が埋まってしまい歩行が困難になります。そんなときに浮力をあたえてくれるのがスノーシューとワカン。

「2つの違いはなに?」「どっちがいいの?」この時期、遊山行で耳にするご質問ナンバーワンです。

まず、スノーシューは欧米で発達したもので言うなれば洋かんじき。ワカンは日本固有の和かんじき。略してワカン。もともとは木製の枠に縄一本を巻きつけて装着するもの(富山では芦峅ワカンや立山ワカンの名で現在も愛用者が多いです)。現代版ではアルミ製になり、アルミスノーシューと呼んだりもします。

浮力は圧倒的にスノーシューが上、取り回しのよさでは小ぶりで軽量なワカンが勝ち、です。

新雪の深雪でラッセル力を発揮するのはスノーシューですが、急登はワカンに分があります。とはいえ、脚力に自信がある方ならスノーシューは面が大きくて重いというデメリットよりも浮力の大きさというメリットが勝ると思います。

また、滑りやすい雪面での踏ん張りは、両脇に爪が2箇所のワカンよりも底面いっぱいにギザギザの歯がついているスノーシューのほうが効きます。

同じルートでも積雪のコンディションは日々刻刻と変化します。

この山、このルートならスノーシュー、このルートならワカン、といった決め事は不可能です。山行当日だけでなく数日前からの降雪量、気温、日射、風、標高などを複合的にみます。私自身はワカンとスノーシューの両方を車載していき、目指す山のようすを遠目に確認し(山全体が白くて低い標高まで積雪があるんだな・・・とか、逆に白いのは尾根だけで谷筋は想定よりも黒い=積雪がない等。近づいてしまうと山容は判断できません)、登山口での積雪量や雪質などもみてどちらにするかを決めることもあります。

雪山用グローブについて。

本格雪山においてグローブは非常に重要です。

ふくふくと温かな素材のものというだけではなく、手に触れた雪が解けて濡らしてしまうことがないよう、防水防滴仕様のもの必携です。

分厚い冬用グルーブひとつで本格雪山にむかうことはできません。

手汗による濡れをふせぐ薄手のもの。好天時の登りで汗をかくような場面で活躍するフリース素材のもの。零下何度での風のもとでも寒さから守ってくれるウール素材のもの(薄手と厚手)。オーバーグローブ。いろんな役目のものを、そのときどきに単体で、あるいは組み合わせて、臨機応変にはめ替える必要があります。衣類のレイヤリングとおなじですね。

本格雪山に必要なもの

本格雪山に最低限、ではなく、必要なもの。

なんだと思われますか?

保温ボトルやハードシェル上下、ダウンジャケットなどなど必要なものはたくさんあります。なかでも残念ながら見過ごされがちなものがスコップではないでしょうか。

万一の停滞時にはとにかく体温を維持することが最重要課題。

風よけの壁や雪洞、横穴を掘るにはスコップがなにより有効です(手でかける雪量なんて微々たるもの。ピッケルのブレードをつかうこともできますが、技術と根気が必要です)。

休憩時の場所つくりに便利なスコップですが、なによりも安全のために、ぜひとも用意してください。

道具は使いこなせてこそ

便利で優秀な道具もつかいこなせなければ無用の長物です。

アイゼンやワカンは雪山用グローブを装着したままで脱着できなくてはなりません。

ピッケルの使い方は。雪山用スコップでの雪洞の掘り方は。

いざという時にオタオタするのは時間がむだに過ぎて低体温症や凍傷をまねくだけではなく、気持ちのあせりという巨大な敵を招きこみます。

「取立山や銀杏峰は条件がよかったらピッケルもアイゼンもいらないですか?」と尋ねられることがあります。私の答えは「不要かもしれなくても持っていってください」。

そんな好条件のときこそ格好の練習の機会だからです。

好条件のときの練習の積み重ねがあり、好条件下で使いこなせてこそ、その逆の場面でようやく使いこなせるのです。

ああ、なんだか面倒だなあ。と思われる向きもあるかもしれません。

その通りです。山は時間とおカネ、この大切な2つをごっそりもっていきます。

道具を買いそろえる費用をだすのがためらわれる、準備や調整・練習の時間をつくるのが面倒。そんなお気持ちがあるなら、本格雪山にむかってはいけないのです。

さてさて、今回もおすすめしてるんだか止めろといってるのか、どっちなんだって文章ですが、そう、山は誰に強制されるものでもありません。

でもでも魅かれてしまう山、雪山。

踏みこえてしまった方には心から「ようこそ。そしておめでとう!」です。

そして雪山こそ無事に帰ってこそ登山。どうぞ備えを万全にお出かけください。

(登山用品店「遊山行」=福井県福井市田原1丁目8-2 服部佐和子)

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