変わらぬ部屋で息子思う母「自首してほしい」 京都の大学生殺害事件16年

大作さんが残した大学生時代に作った作品を眺める母淳子さん(2022年11月、仙台市)

 「なれるさ そうなりたいと強くねがうなら」。もし、事件さえなければ、息子は夢をかなえていたはず。母は、息子の部屋にあった直筆の貼り紙を見て思う。2007年1月、帰宅途中だった京都精華大マンガ学部1年千葉大作さん=当時(20)=が殺害された事件は、15日で未解決のまま16年を迎える。「犯人はなぜ命を軽んじた行為に手を染めたのか明らかにし、罪を償うべき」。母淳子さん(63)=仙台市=は一日も早い犯人逮捕を願う。

 実家の大作さんの部屋は、夢を抱いて大学に進学した当時のままだ。高校時代に使っていたリュックや、マンガ用の作業机、画材やペン。本棚には2000年代前半の週刊少年ジャンプが並んでいた。

 「部屋に入ると、どこか大作の匂いが残っている。そばにいるような感じ、ふらっと帰ってきそうな感じがする」。淳子さんは事件から16年たつ今も、大作さんが寝ていた布団を季節に応じて替え、部屋の照明が切れたら新品に付け替えるという。

 仙台市の実家には、大作さんのスケッチやマンガの下絵も数多くある。でも、淳子さんは、まだすべての遺品に目を通していない。大作さんの新しい一面を知る楽しみを、少しでも長く取っておきたいからだ。

 昨夏、小学3、4年頃の大作さんの自由帳ノートを見つけた。1冊分にわたってマンガが描かれていた。侍をモチーフにした主人公が凶悪な敵を次々と倒していく内容で、コマ割りは丁寧に定規で引かれていた。「勉強してたのかなって思ったけど、マンガだった。小さい頃から好きだったんだね」とほほえむ。

 事件が起きて以降、生活は一変した。何もする気が起きず、時間だけが過ぎていく日々。ふとした瞬間に思い出す大作さんの笑顔で勇気づけられた。事件から16年がたち、最近はマンガ家となった姿を思い浮かべる。目標に向かって努力していた大作さんは、人気シリーズ「ONE PIECE(ワンピース)」のような主人公が夢へと突き進む少年マンガを描いていたと思う。

 事件解決を願ってきた中、大切にしてきたのが、「一番足が遠のく」という事件現場での法要と、現場周辺の駅での情報提供の呼びかけだった。命日には、地元住民や近くの寺の住職と一緒に法要を営み、駅には大作さんの友人や恩師も集うが、十七回忌の今回を区切りにするつもりだ。「地元の皆さんの力がなければ、毎年この事件を思い出す人も少なかっただろうし、長年続けてこられなかった」

 大作さんの無念を晴らしたいという気持ちは16年間、少しも変わらない。どこかにいる犯人に対して、残虐な行為をした理由を問いただしたいと強く願っている。「これから理不尽な事件で命が絶たれる被害者を生まないためにも、自首してほしい」

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 京都精華大生殺害事件 2007年1月15日午後7時45分ごろ、京都市左京区岩倉幡枝町(現南木野町)の路上で、帰宅途中だった千葉大作さんが自転車に乗った男に胸や腹など十数カ所を刃物で刺され、殺害された。容疑者の特定には至っておらず、京都府警は犯人の男の特徴をホームページなどで公開している。情報提供は下鴨署捜査本部のフリーダイヤル(0120)230663。

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