猫のサブスクや一緒に過ごせる宿泊施設…動物の幸せを無視したビジネスに疑問【杉本彩のEva通信】

猫のサブスクや一緒に過ごせる宿泊施設…動物の幸せを無視したビジネスに疑問【杉本彩のEva通信】

2023年がスタートしました。「杉本彩のEva通信」も早いもので、今年の2月で丸2年になります。動物を取り巻く問題と動物福祉について、さらに理解を深めていただけるよう執筆活動にも励みたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。 

さて、昨年12月には「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟 第17回総会」が開催され、当協会もアドバイザリーとして参加しました。改正動物愛護法の施行状況について、環境省と日本獣医師会からの報告と、今後の議連の活動計画について説明がありました。前回の法改正は2019年。5年に一度改正されるため、次期法改正に向けた議論としては、かなりスロースタートですが、いよいよ今年から本格的な議論が始まります。たくさんある課題の中でも、虐待されている動物を速やかに救うため、次期改正では絶対に取りこぼしてはいけないものがあります。前改正の時の署名運動やロビー活動、アドバイザリーとして参加した経験も生かし、しっかり提言していきたいと思います。

動物愛護管理法の改正と厳格な運用は、動物の福祉や命を守るためにとても重要です。しかし、法律に限界があることも事実。たとえば、法律には抵触しないけれど、絶対に容認できないこともあります。法律は、すべての問題に対して正しく対応できるほど完璧なものではありません。特に、ペット関連事業において、未熟な法律と甘い規制の下では、明らかに良くないことでも、はっきり「アウト」と言えないことがあります。そこで重要になってくるのが、私たち市民の声です。昨年、その声を上げる必要性を感じる2つの事例がありました。 

まず一つ目は、11月に発表された京都府南丹市の「にゃんたん市プロジェクト」です。猫や犬にやさしいまちづくりを目指して始めたそうですが、その内容は猫にまったくやさしいものではありませんでした。この計画は、ふるさと納税のガバメントクラウドファンディングという仕組みを利用したものです。しかし、広報した途端、SNSを中心に批判が相次ぎました。問題になったのは、「猫と過ごせる宿泊施設を増やす」という点でした。猫の習性について、まったく何も知らない人たちが計画したのでしょう。なぜなら昔から猫は、人より家に着くと言われるほどです。「借りてきた猫」という言葉もあり、自分の縄張りから外に出てしまうと、警戒心が強くなり、本来の自由な行動ができなくなってしまう動物です。猫の性格によって程度は違っても、猫は環境の変化に大きなストレスを感じます。中には、慣れない場所に連れて行くと人が助け出すのも困難なくらい、狭い所に隠れてしまう猫もいます。

もちろん脱走のリスクも高く、もし逃げてしまったら簡単に捕獲できません。その場合、交通事故など命を危険にさらしてしまうことになります。また、不妊・去勢手術をしていない猫が脱走して野良化したら、高い繁殖能力で不幸な命を生み出すことにもなり、地域の野良猫による問題の悪化も危惧されます。それに、猫を理解して適正に暮らしている飼い主なら、まずこのようなプロジェクトを歓迎することはないし、一緒に旅行という選択肢はありません。このプロジェクトは、企業と連携した猫グッズの製作に加え、猫と泊まれる施設や一緒に撮影できるスポットを増やしていくとしていたそうですが、専門家や愛護団体から批判の声が上がったため、なんと始動から約1ヶ月で見直すことになりました。「猫の生態などを調べられていない点で不手際があった」と、市は反省を述べていますが、そもそも猫の習性を調べず、旅を推奨するのは自治体としてあまりに無責任。もしも、猫のことをよく知らない飼い主が猫連れで旅行に来て脱走させてしまったら、猫探しもその後に付随する問題も、自治体や運営会社ではなく、善意の動物愛護団体が尻拭いすることになるのは容易に想像がつきます。動物愛護団体が黙っていないのは当然ことで、計画が見直され本当によかったです。

しかし一体なぜ、こんな浅はかな計画が進んだのでしょうか。その背景を見てみると、地方活性化のためのプロジェクトの企画・運営会社の存在があります。ふるさと納税クラウドファンディングを活用した自治体の増収コンサルティング、というのが事業内容のようです。広報にBS番組放送を活用していることから、このプロジェクトにおける番組制作会社やプロダクションとの密接な関係も見えてきます。要するに、コンサル会社が営利事業として、「猫や犬にやさしいまちづくり」が何かもわからないまま、動物愛護とふるさと納税を安易にドッキングさせ、そのプランに自治体が浅はかにも乗ってしまったということでしょうか。また、この広告の依頼を受けたプロダクションとタレントも、この計画に何の疑問も持つことなく、関わった人すべてが猫に対して無知だったことがわかります。このプロジェクトで利益を得るのは、コンサル会社、番組制作会社と芸能プロダクション、もちろん寄附が集まったら自治体もです。しかし、猫と動物愛護団体にとっては大きな不利益で、いい迷惑でしかありません。さらには、猫が脱走したことで生じる問題、その被害を被る地域住民にとっても、不利益となる可能性が非常に高く、問題だらけの計画でした。

そしてもう一つの事例は、昨年12月にネット上で大炎上した、のら猫バンクという会社が始めた「ねこホーダイ」というサブスクリプションサービスです。「サブスクリプション」とは、定額の料金を支払うことで、製品やサービスを一定期間利用することができるというビジネスモデルのこと。近年、多くの企業が取り入れています。サブスクとも略され、もともとは「予約購読」や「定期購読」という意味を持つそうです。動画配信サービスや音楽配信サービスなどもこれに当たります。デジタルの分野で広まり、最近は洋服、家具、車、サプリメント、食品など、さまざまな製品にもサービスが増えているそうです。このサブスクを活用して、動物愛護への貢献をうたったビジネスが「ねこホーダイ」でした。月額380円の会費で、提携する保護猫シェルターが保護・飼育する猫を審査やトライアルなしに譲渡。猫をもらうのも返すのも費用負担0円。「人と猫をつなぐプラットフォーム」をうたい、高齢者や単身者でなかなか最後まで面倒を見切れない責任を、誰かが代わりに負える仕組みだということです。

しかし、このような仕組みで責任の所在が明確になるとはとても思えません。案の定、ネット上では「猫の命を何だと思っているのか」、「命のサブスク」、「環境が変わるだけで体調を崩す猫もいるのに、絶対にダメ!」など批判の声が噴出し、このサービスはスタートしてわずか2週間で停止に追い込まれました。当然の結果です。一部には、このサブスクが猫の殺処分を減らすことにも繋がるなど、肯定する意見もあったようですが、それは問題の一部を切り取って、猫の命を他の製品と同じように、数だけの論理で見ているからでしょう。このコラムでも以前からお伝えしていますが、そもそも行政が発表している殺処分数には数字のトリックがあり、殺処分数が低いイコール動物の幸せ、に繋がっていないという現状があります。数字で単純に動物の幸せを評価はできません。行政が発表する殺処分数を減らしたいなら、極論を言えば「ねこホーダイ」などという仕組みを使わなくても、その先の動物の幸せを無視して、どんな不適正な団体にもどんどん自治体が猫を譲渡していけばいいだけのこと。無責任な団体は、引き受けた動物を無責任に横流ししたり、ネグレクトします。そうすれば容易に殺処分数を減らすことができるでしょう。殺処分の背景には、さまざまな問題があり、目の前の数字だけで、行政の努力や動物の幸せを単純に測れるものではありません。問題と課題を正しく理解している団体なら、これは共通の認識です。

また、このサブスクの驚くべきは、感受性ある動物を、お金もかからない、審査もない、どんな人かもわからないのに譲渡してしまうという、非常に横着で無責任なやり方です。良識があればできません。人間の都合と気分で、好き放題に手元に置いたり返したり、命に対して無責任きわまりない姿勢です。まさに「ねこホーダイ」という、その名の通り、猫の命と幸せを軽視したビジネスといえるでしょう。

そして何よりも最大の問題は、動物虐待を愛好している異常者に、猫が渡ってしまうリスクがきわめて高いことです。動物虐待愛好者は少なからず存在しています。動物を入手するには、通常どんな場合もハードルがあります。動物愛護団体には、厳しい条件が設けられており、適正飼養できるか住環境のチェックがあり、トライアル期間もあります。ペットショップは、ずいぶんハードルは低いとはいえ高額な販売値という、一応ハードルがあるわけです。それでも近年立て続けに、ペットショップの無責任な販売から購入された猫たちが、残虐な被害にあっています。

このような一般飼い主による虐待事件の公判を傍聴して知るのは、たとえお金がなくても、後々支払いが大変になるとわかっていても、クレジットカードやローンで何頭も動物を入手し、虐待を繰り返すということです。そこに罪の意識がないどころか、虐待行為が快楽のスイッチに繋がっていると考えるのが妥当だということです。一度得た快感は、何が何でも再び得たいという、異常な欲求や強い依存性を公判の公訴事実から感じることがあります。虐待を楽しみ、平然となぶり殺す虐待愛好者のその残虐さを知れば、無責任な命の譲渡は絶対にできません。動物の命の安全と幸せが、自分の手に委ねられていることへの責任は、本当に重いものなのです。誠実な動物愛護団体は、このことを重々に肝に命じ、人と動物のマッチングに心身をすり減らすほど細心の注意を払います。慎重かつ丁寧な譲渡は、動物の命を扱うものの当然の責務です。その先に動物の幸せがあるからこそ、保護活動は意義あるものになるのです。ねこホーダイは動物虐待愛好者にとって、労力なく簡単に猫を入手できるツールになり得ます。このサービスを一番喜んだのは、間違いなく動物虐待愛好者と、猫を癒しの道具としか考えていない、その存在を軽視した人たちでしょう。命を数という効率だけで見るのは、所詮、動物の命を製品と同じように扱っている証。保護動物の幸せとは、非効率な活動の上に実現するものなのです。一般企業が保護動物をビジネスにするなとは言いません。もちろん違法ではありませんので。もし、その仕組みが素晴らしいもので、動物が安全で幸せになれるならいいでしょう。

しかし、そんな丁寧な仕事をしていたら、おそらくビジネスとして旨みはないのだと思います。また、動物の健康面や法的な観点からも、「ねこホーダイ」は問題視されていました。何度も飼い主が変わる可能性がある仕組みでは、環境の変化に敏感な猫は、ストレスにより食事も排尿もしなくなり、病気のリスクが増え、命に関わる可能性もあると、獣医師は警鐘を鳴らしています。そして、弁護士による法的な見解もまた、このサブスクを肯定するものではありません。終生飼養に努めるべきという動物愛護法の趣旨にそぐわないからです。しかし、現時点で法的な問題としてアプローチし、規制することはできないと言います。このような時、やはり法律の不備を痛感します。しかし今回、良識ある市民が抗議の声を上げたことでサービスは停止。相当数の疑問と批判の声が殺到したと思われます。先述したように、法律では止められないことも、私たち市民が声を上げることで、流れを変えることができます。今回、両事例において良識ある皆様が声を上げてくださったこと、とても嬉しく思います。動物愛護ビジネスがどんどん盛んになっている今、保護動物が人間の利益のためだけに、悪用されないことを願うばかりです。 (Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。  

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