<社説>日米首脳会談 国民不在の暴走やめよ

 岸田文雄首相はバイデン米大統領とホワイトハウスで会談し、日本の防衛力強化や防衛費増額の方針を説明、バイデン氏はこれを称賛した。両首脳は他国領域のミサイル基地などを破壊する日本の敵基地攻撃能力(反撃能力)開発と運用に向けた協力で一致し、同盟深化への決意を示した。 岸田政権は先月、敵基地攻撃能力保有の明記など防衛力を強化する安保関連3文書を閣議決定し、安保政策を大転換した。専守防衛を逸脱する内容だ。2023年度から5年間の防衛費を現在の1.5倍の約43兆円に増やす方針だ。

 バイデン氏に伝えられたこれらの内容は国会で議論されておらず、国民から理解を得ているどころか反発も強い。にもかかわらず、米国に「約束する」のは、国民への背信行為で、断じて許されない。岸田政権は国民不在の独断的な暴走をやめるべきだ。

 重要なのは、日本の敵基地攻撃能力保有や防衛費増額が米国の要求であることだ。岸田首相が国民を置き去りにしたまま、米国の要求に応えた形である。乱暴極まりない。

 首相の唐突な方針表明に世論は反発している。共同通信社が先月実施した全国電話世論調査によると、43兆円の防衛費増額方針について賛成は39.0%に対し反対は53.6%。防衛力強化のための増税については支持30.0%に対し不支持は64.9%。この増税を巡る首相の説明に関し「不十分だ」と答えた人が87.1%で、「十分だ」の7.2%を大きく上回った。

 両首脳が表明した「同盟深化」は危険もはらむ。「民主主義国」を中心とした国際秩序が中国やロシアなどによって脅かされているとの危機感を背景に両国への対抗姿勢を鮮明にした。国際社会の分断を回避する道筋を示すどころか、むしろ対立をあおる形だ。

 中ロに北朝鮮を加えた国々との軍拡競争によって「安全保障のジレンマ」を自ら招く形といえる。軍備増強で自国の安全を高めようと意図した政策が、想定する相手国にも軍備増強を促し、実際には双方とも衝突を避けたいにもかかわらず、結果的に衝突の恐れが高まる状況だ。今回の首脳会談の結果は、東アジア地域で安全保障のジレンマを決定的にしたともいえる。

 この地域で緊張が高まり有事が起きれば、真っ先に標的にされ被害を受けるのは、急速に軍備強化が進む南西諸島だ。有事の際の住民保護計画は不十分で、戦闘が長引けば実行は不可能だろう。配備予定の攻撃型ミサイルを撃ち合えば、甚大な被害をもたらす。絶対に避けるべきだ。

 列島に点在する原発を狙われれば日本は致命的な事態に陥る。住民保護は脆弱であることを肝に銘じるべきだ。重要なのは有事をいかに回避するかだ。この議論が決定的に不足している。対立ではなく衝突回避のための国際協議の枠組み構築など安定的な関係を生む外交戦略が必要だ。

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