英スタートアップ、木の形をしたソーラーツリーを欧州に展開へ

Image credit: RAW Charging & SolarBotanic 1

英ロンドンのスタートアップ「ソーラーボタニック(SolarBotanic)」は木の形を模倣した太陽光発電装置「ソーラーツリー」の開発を進めている。ソーラーツリーは、葉の形をした薄膜の太陽光発電ナノテクノロジーを使い、太陽光発電と最終的には風力発電も利用し、住宅への電力供給や電気自動車(EV)を充電する製品だ。従来のソーラーパネルとは一線を画す、美しく機能的で手の届く価格の発電設備を実現するべく2017年から研究開発を進めてきた。2023年半ばまでに、第1世代のソーラーツリーが英・欧州で設置される見込みだ。

地球の温度が予測できない速さで上昇し、化石燃料の利用により排出される温室効果ガスが世界の排出量の75%以上を占める中、世界規模での再生可能エネルギーへの移行は人類にとって最も重要で喫緊の課題の一つだ。エネルギー大手が再生可能エネルギーを用いたソリューションの研究開発に慎重に足を踏み入れる中、太陽光発電技術を筆頭に実用的イノベーションの開発は急増している。

ソーラーボタニックはその流れに参入し、従来型の四角く青色で屋根や土地に整然と並べられているソーラーパネルのデザインを刷新しようとしている。5年間の研究・開発期間を経て、ソーラーツリーは手の届く価格で大量生産できる体制が整ってきた。

ソーラーボタニックの創設者で会長のハリー・コリガン氏は、米サステナブル・ブランドの取材に「気候変動の加速は汚染をもたらす化石燃料への依存によるもので、人類にとって最大の脅威の一つです。大惨事を避けたいなら、ネットゼロエネルギー技術への転換が不可欠です。ソーラーツリーは世界が必要とするネットゼロシステムの拡大に役立ちます」と語る。

木や葉の動きにヒントを得たソーラーツリーは、柔軟性があり葉の形をした薄膜の太陽光発電電池により太陽光エネルギーを吸収する。ソーラーツリーには、太陽が出ているときに作動する数千の超小型回路が組み込まれているという。同社は、ナノテクノロジーのさらなる活用を模索しており、次世代のソーラーツリーには太陽光のみならず、ソーラーツリーの茎や小枝が動くときに電力を生み出せるようにして風力発電も実現したい考えだ。

「ソーラーツリーにはエネルギーを貯蔵する機能が組み込まれており、大量の再生可能エネルギーを生成しながら充電もできます。太陽光や風がないときは、蓄電した電力を使えます」(コリガン氏)

Image credit: SolarBotanic (video still)
Image credit: SolarBotanic

ドーム型のソーラーツリーは太陽光をできる限り吸収できるように設計されており、その下のスペースは駐車や好陰性植物の栽培、日陰での休憩に使えるようになっている。

第1世代のソーラーツリーは主に家庭や企業、商業用駐車場で使われるEVの急速充電器市場向けに設計されている。一方、同社は家庭でのソーラーツリーの利用も目指している。AIを搭載したエネルギー管理システムが組み込まれたソーラーツリーは地域送電網や主要送電網につなげることができる。コリガン氏は「こうした機能はエネルギー貯蔵を最大限に活用するのに役立ち、電化が進む未来に不可欠なもの」と話す。

ソーラーツリーは他のソーラーパネルと同様に、天候が晴れるほど電力をつくることができる。ソーラーボタニックは、第1世代のソーラーツリーの設置により、ロンドンで年間3400 kWhの電力を生み出すことを目指すという。コリガン氏によると、気象条件などにより太陽光発電が難しい場合、他のソーラーツリーや従来のソーラーパネルと簡単に連結でき、電力容量を増やすことが可能だ。

ソーラーツリーは1世帯分の供給能力があり、公園や郊外の道路など木が生えているような場所に設置できる。さらに、従来のソーラーパネルが数千も連結してソーラーファームを作っているように、ソーラーツリーを集合的に使ってソーラーフォレスト(ソーラーツリーの森)をつくることもできるという。

ソーラーボタニックは事業を順調に拡大していくために、自社のバリューやミッション、ビジョンを共有するEV充電事業者、不動産開発業者、再生可能エネルギー事業者、公共駐車場の運営者、管理組合などとの連携を進めている。

コリガン氏は今後5年間で、さらに技術を発展させ、さまざまな形で技術提供できるように追加投資を求め、エネルギーコストとCO2排出量を削減しながら、景観的にも美しい環境をつくるという使命を継続して果たしていきたい考えだ。

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