馬毛島基地に注がれる防衛マネー。事業分割で地元業者に気を使う防衛省。だが人や資材確保は大手ゼネコン頼り。「足元見られ、うまみ吸い取られる」

台船に積み込まれる重機=西之表市の西之表港

 鹿児島県西之表市馬毛島への米軍機訓練移転を伴う自衛隊基地整備計画は12日から本体工事に入った。軍事的に台頭する中国をにらみ、面積8平方キロメートルの島は日米の防衛拠点に変貌する。構想が表面化して16年。戦後、真っさらな土地に大規模な基地が造られるのは初めてだ。着工の波紋を追った。(連載「基地着工 安保激変@馬毛島」2回目より)

 「どれぐらいの規模の工事なら受注できるか。教えてほしい」。昨年2月、西之表市の県建設業協会種子島支部。同市馬毛島の自衛隊基地整備を巡り、集まった地元の16社に防衛省職員が投げかけた。

 その2カ月前、同省は2022年度当初予算に馬毛島整備費3183億円を計上していた。「3000億円」は近年の県内全体の公共建設投資額に匹敵する。この時期から「着工」に向けた水面下の準備が加速度的に進んでいた。

 特に港湾や滑走路の段取りは周到だ。施工計画などを算出する「詳細検討」について、港湾は21年12月に、滑走路は22年5月に大手ゼネコンら共同企業体(JV)6社と随意契約。工事もこの6社が計約1680億円の随契で請け負った。

 さらに冒頭の「聞き取り」の通り、事業が大手に偏らないように分割。12月末までに種子島支部の業者単独で9社35億円を契約した。関係者は「地元業者にこれだけ気を使う事業はない。昨年11月の知事容認よりずっと前から、工事は進んでいる」と話す。

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 防衛省は補正予算で1441億円を、23年度当初には3030億円の整備費を追加した。低迷が続く業界にとって、巨額が次々と盛られる防衛マネーは渡りに船。県建設業協会の藤田護会長は「前例がない規模の国家プロジェクト。経済効果は計り知れない」と歓迎する。

 ただ、必ずしも順風ばかりではない。折しも熊本で、台湾の世界的な半導体メーカーの工場建設という国家事業が進む。かねて少ない建設従業員の確保は大激戦の様相だ。馬毛島は離島の離島、防衛施設という特殊性が加わり、人手を集めるのは容易ではない。

 ある業者は声を潜める。「馬毛島事業で年間売り上げ以上の契約をした会社も多い。人や資材の確保はスーパーゼネコン頼りで、結局は足元を見られ、うまみを吸い取られてしまう」

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 防衛省が馬毛島整備の環境影響評価(アセスメント)の評価書を公表した今月12日。西之表港では馬毛島へ向けた台船に重機が積み込まれていた。「今後、全国から重機が集まってくる」と男性作業員は言う。

 同日、防衛省と連携する国交省は県に鹿児島港の使用許可を申請した。目的は工事の資材置き。関係者によると、県内の主要港などで部材製作や搬出が見込まれる。基礎となるコンクリートブロックだけでも、数トンから90トンのものが5万個以上造られるという。

 県内の大手業者は、4年程度とされた馬毛島整備の工期に「普通なら8年かかる」と驚く。「24時間態勢で造らないと、とても間に合わない。何が起きるのか読めず、未知の領域だ」

13カ月、26カ月、38カ月…馬毛島基地の工事進捗状況をイメージ図で確認する

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