大地震に備え「救命ボックス」 秦野の自治会、高齢化で考案 隣近所の力「動ける人が自発的に」

救命ボックスの備蓄品を説明する原田さん。住民の安否確認のための資料も保管している=10日、秦野市千村3丁目

 ごみ集積所に設置した「救命ボックス」で命をつなごう─。大地震による家屋の倒壊や家具の転倒に備えようと、秦野市内の自治会が考案した共助の仕組みが注目されている。どの世帯からも歩いて数分の場所に救助用工具を分散配置し、身動きが取れなくなった人を隣近所の力で助け出すアイデアだ。備蓄倉庫のある避難所へ行かずに済み、救出時間の短縮につながるという。消防や警察などの公助の隙間を埋める役割が求められてきた自治会の高齢化が背景で、「動ける人が自発的に共助に関わらないと、災害を乗り切れない」との危機感が根底にある。

 発案したのは、秦野市を拠点に活動する「QQ防災クラブ」代表で防災士の原田剛さん(60)。小田急線渋沢駅から徒歩で十数分の高台に住んでおり、地元の千村台自治会の取り組みとして2018~22年に計10カ所の救命ボックスを置いた。

 小型の物置を使った救命ボックスには、スコップやジャッキ、革手袋、消火器、ロープ、救護用品などを備蓄。ダイヤル式のキーボックスに鍵を保管し、地震時に無事な住民が解錠して備蓄品を使えるようにした。救助が遅れると、火災の延焼などで死亡するリスクが高まることから、ヘルメットはゴーグルやヘッドライトをセットした状態で収納している。すぐに活動を開始し、1時間以内に救出してもらうためだ。1カ所約10万円の設置費用は自治会費などから賄っている。

 震度7を記録した1995年1月17日の阪神大震災では6400人余りが犠牲になったが、その一方で住民や消防団員らが倒壊家屋などから多くの被災者を助け出した。

 しかし、当時の実態を調べた原田さんは「無事だった人がいったん避難所へ向かい、救助に協力してくれる人や道具を探し回った」と指摘する。「救命は時間との闘い。必要な道具が身近にあれば、そこに人と情報が集まり、自然と動き出す共助が期待できる」として分散配置を思い立った。

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