クラフトバンクが地方建設会社から「リモート出向」受け入れ

建設工事のマッチングプラットフォームを運営するクラフトバンク(東京都中央区、韓英志社長)が、地方建設会社などを対象にしたIT人材育成に乗り出す。同社サービスを利用する企業から一定期間、フルタイムでの「リモート出向」として人材を受け入れ、DX教育プログラムを実施する。地方では人口減少や担い手の高齢化、首都圏への人材流失などが深刻化する中、デジタルを活用した生産性向上とIT人材の育成は喫緊の課題だ。自助努力だけではリソースやノウハウが不足する企業に代わり、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって社内変革ができる人材を育て、出向元に送り出す。建設テックでは異例の試みといえる。

宝来社からクラフトバンクに「リモート出向」する営業の山田智代さん(左)と施工管理の杉野友衣那さん(写真提供:クラフトバンク)

クラフトバンクは12月21日から、遠隔によるリモートでの出向受け入れを開始。まずは内装施工などを手掛ける宝来社(富山市、荒井洋平社長)から、施工管理の杉野友衣那さんと営業の山田智代さんの2人を受け入れた。

それぞれの出向社員は、生活環境を変えることなく、現在住んでいる自宅から遠隔によるリモートで、クラフトバンクの業務に従事する。本社のある都内事務所に出社するのは月1回程度。期間は1年間で、費用は非公開としている。在籍型出向の形式を取る。出向期間の満了後は宝来社に戻り、クラフトバンクで学んだITの知識を自社に還元することを目指す。

クラフトバンクは内装工事会社に端を発した建設テックのスタートアップで、2021年4月に分社化。創業以降、建設業の「人手不足」を解決すべく、マッチングプラットフォーム事業に加え、建設会社向けのデジタル化支援事業を展開している。協力会社体制の構築や技術者採用、社内DX化など「現場外業務」のデジタル化を核とした支援などを展開。これまでオンラインや定期訪問によるDX化への支援を手掛けてきたが、出向を受け入れるのは初の試み。

業務改善の設計や提案まで幅広く従事

出向期間中は、出向者がデジタル化支援事業の業務に従事し、担当企業を受け持った上で、地域に根差した建設会社や専門工事会社のDX支援を担う。顧客の業務ヒアリングから、業務改善の設計・提案まで幅広く携わる。

たとえば、労務環境の整備やデジタルを活用した社内業務の改善から提案、設計施工のIT化の促進、またDXを浸透させるための組織カルチャーの形成など、地域の建設会社の現場と経営に入り込んで支援を手掛ける。

同社に在籍するDeNA(東京都渋谷区)やMixi(同)、ビズリーチ(同)など、メガベンチャー出身者を含めたテクノロジーチームと、大成建設(新宿区)やミサワホーム(同)、久米設計(江東区)、リクシル(品川区)、起業経験者らと切磋琢磨しながら業務経験を積む。出向者は多様なバックボーンを持つ人材と交流しながら業務に携わることで、視野を広げる機会にもなりそうだ。

宝来社とクラフトバンクの共催イベントでの集合写真(写真提供:クラフトバンク)

同社社長の韓英志さんは「地方では最新のデジタル事業に携わる機会が少なく、知見やノウハウが不足する企業は自前でIT人材を育成することが困難な状況にある」と認識を示す。

「コロナ禍を経て、完全にオンラインシフトしたことで、生活環境を変えることなく、リモートで出向が可能となった。ベンチャーならではのスピード感で、これまでにない知識を習得し、デジタルを入口とした実務ノウハウや、経営的思考の能力開発ができる。出向元に戻った際にはその知見を活かしてほしい」。

一方、出向を受け入れるクラフトバンクにとっては、建設の実務者と業務を通じた交流によって自社サービスの磨き込みや、新たなプロダクト開発に生かせるといったシナジーが期待できる。

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