今年で「69歳」!レトロな寝台列車はカナダで今も現役 「鉄道なにコレ!?」第37回

VIA鉄道カナダのウィニペグ―チャーチル間で運用される編成=2022年12月30日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 日本の定期寝台列車は東京―高松・出雲市(島根県)間の特急「サンライズ瀬戸・出雲」だけになったが、カナダで旅客鉄道を運行するVIA鉄道カナダは寝台車を連結した三つの夜行列車を通年で走らせている。VIA鉄道を多く利用して愛好家団体「VIAクラブ日本支部」に入っている筆者は、1954年の製造から今年で車齢「69歳」となる現役のレトロ寝台車に乗り込んで年の瀬を過ごした。(共同通信=大塚圭一郎)

 【VIA鉄道カナダ】カナダの都市間旅客列車を運行する国営企業。本社は東部ケベック州モントリオール。現在は貨物鉄道に特化しているカナディアン・ナショナル鉄道(CN)が切り離した旅客鉄道事業を引き継ぎ、1977年に発足した。カナダ10州のうち東部ニューファンドランド・ラブラドル州、プリンスエドワードアイランド州を除く8州を走る。新型コロナウイルス流行の影響が出た2021年の累計利用者数は約151万2千人と、コロナ流行前の19年(約500万8千人)の約3割にとどまった。慢性的な赤字で、21年12月期決算の本業の損益を示す営業損益は3億7050万カナダドル(約364億円)の赤字。CNなどの線路を借りて列車を走らせているため、ダイヤは貨物列車の影響を受けやすい。

筆者の「VIAクラブ日本支部」の会員証(筆者撮影)

 ▽旧紙幣に描かれた列車

 日本銀行が2024年度に発行を始める予定の実業家、渋沢栄一の肖像画を採用した1万円紙幣は、裏面に赤れんが造りの東京駅丸の内駅舎の外観が描かれる。これに対し、カナダの中央銀行、カナダ銀行が発行していた旧10カナダドル(約980円)紙幣の裏面にはVIA鉄道を代表する夜行の大陸横断列車「カナディアン」のイラストが載っていた。

10カナダドルの旧紙幣の裏面に描かれたVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」。「SPECIMEN」(見本)と記されている(カナダ銀行提供)

 東部オンタリオ州の主要都市トロントと西部ブリティッシュコロンビア州のバンクーバーの4466キロを4泊5日で駆け、車窓からはロッキー山脈といった大自然を満喫できる。寝台車の利用者は、牛肉のステーキといった地元食材を生かした料理を食堂車で楽しむことができる。

 ▽119年の歴史

 もう一つの主要な夜行列車は119年の歴史を持つ「オーシャン」だ。モントリオールとノバスコシア州の州都ハリファクスの間の南北1346キロを約22時間かけて走る。

VIA鉄道カナダの夜行列車「オーシャン」=2018年6月、カナダ東部ノバスコシア州(筆者撮影)

 オーシャンは旧インターコロニアル鉄道時代の1904年に運転を開始。同鉄道を吸収合併したCNを経て、VIA鉄道が引き継いだ。ノバスコシア州はロブスター漁が盛んで「日本にも多く輸出している」(地元の水産関係者)。筆者がオーシャンに乗った際は、夕食で味わい深いロブスタービスクを味わった。

VIA鉄道カナダの夜行列車「オーシャン」の夕食で振る舞われたロブスタービスク=2018年6月、カナダ東部ニューブランズウィック州(筆者撮影)

 2022年の冬休みは満を持してカナディアンに乗車することを考えていたが、希望していた寝台車は探した時点で予約が埋まっていた。代わりの列車を検討した際、思いついたのが映画の作品名「第三の男」ならぬ「第三の夜行列車」だった。
 映画で「第三の男」の正体がなかなか浮かんでこなかったのと同様に、この夜行列車はカナダ人の知人も「そのような列車があることは知らなかった」という知る人ぞ知る存在だ。

 ▽東急初代7000系に技術を供与

 2022年12月27日午前、筆者は穀倉地帯として有名な中部マニトバ州の州都ウィニペグの玄関口、ユニオン駅に着いた。VIA鉄道の窓口で代金を支払い、予約していた切符を受け取った。
 この列車は北極圏のハドソン湾沿いにある同州チャーチル駅までの1697キロを2泊3日で結ぶ夜行列車だ。ウィニペグとチャーチルの間を週2往復し、途中駅のザ・ポー(表記は「The Pas」で、呼び方は先住民が使っていた「ザ・ポー」)とチャーチルの間を週1往復している。
 乗った列車は2両のディーゼル機関車が計6両のステンレス製客車を引いた。これらの客車を主に製造したのは、日本初のオールステンレス車両となった1962年登場の東京急行電鉄(現東急電鉄)の初代7000系向けに技術を供与した米金属加工メーカーの旧バッドだ。
 機関車の後ろは利用者の預け入れ荷物を運ぶ荷物車、続いてクロスシート座席が並んだエコノミークラスの客車が2両、ドーム状の屋根にある大きなガラスから車窓を楽しめる展望席を2階に備えた「スカイラインドームカー」が1両、その後ろの2両が寝台車だった。

VIA鉄道のウィニペグ―チャーチル間で運用される編成の最後尾に連結されていた寝台車=2022年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 ▽室内に便座も

 妻と息子を含めた3人で旅行したため、2人用と1人用の個室寝台2室を予約していた。どちらの部屋も後ろから2両目にある1954年製の車番8229の客車にあった。この客車は「シャトー・ビガー」の愛称が付けられ、初代モントリオール市長を務めたジャック・ビガーにちなんでいる。

VIA鉄道の寝台車の2人用個室にある二段寝台(左)と、収納後の状態=2022年12月27日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 2人用個室は、窓際の通路沿いに入り口がある。日中には二つのいすが置いてあり、夜になると乗務員がいすを折りたたんで進行方向と直角になった2段ベッドを出してくれる。壁際に収納された下段ベッドを引き出し、天井の下にある上段ベッドを降ろす。壁際には洗面台と三面鏡があり、扉で仕切られた奥にはトイレがある。

VIA鉄道の寝台車の1人用個室にある便座=2022年12月28日、カナダ・サスカチワン州(筆者撮影)

 一方、1人用個室は通路が真ん中にある部分の左右に並んでいる。進行方向にあるベッドを壁際に収納すると、クロスシートとともに出現するのが何と便座だ。ただ、列車の接客を率いるサービスマネージャーのジェニファー・ロイさんは「この車両には共用のトイレがあるため、室内の便座を使わなくてもいい」と説明した。

 ▽「部屋を作ってください」

 室内にはホテルのようにベッドメーキングを依頼する際などに扉につり下げるタグがあり、カナダの公用語である英語とフランス語に加えてドイツ語、スペイン語、そして日本語も記されていた。唯一のアジアの言語に国連公用語で話者も多い中国語ではなく、日本語を採用していることに「さすがVIA鉄道!」と好感を持つのは私だけではなかろう。
 ただ、英語の「Please make up the room」を日本語で「部屋を作ってください」と記しているのはやや直訳的な気がする。「部屋を清掃してください」と表記した方が良かったのではないか。

VIA鉄道の寝台車の個室にかけられていたタグには日本語表記も=2022年12月29日、カナダ・マニトバ州(筆者撮影)

 タグの裏に記された英語の「Please do not disturb」を「邪魔しないでください」と訳したのは適切だ。
 同じ車両には個室ではない2段寝台と、寝台車の利用者ならば空いている時に使える共用のシャワールームもある。シャワーを使用時はダイヤルを回して温度を調整し、ボタンを押すと約30秒間お湯が出てくる。
 筆者は最後尾につながれた寝台車も気になり、扉を開けて見学しようとしたが鍵がかけられていた。最後尾車両が「開かずの間」になっていた理由を次回お伝えしたい。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

© 一般社団法人共同通信社