長崎の被爆体験者を「被爆者」と認めず 厚労省、黒い雨報告書で見解

被爆地域図

 国指定地域外で長崎原爆に遭い被爆者と認められない「被爆体験者」の救済に向け、県の専門家会議が原爆の「黒い雨」に遭った体験者を被爆者認定する妥当性を認めた報告書に対し、厚生労働省が17日までに見解を示した。従来通り、体験者が起こした過去の訴訟で「降雨の客観的記録はない」などとする判決が確定していると主張。県や長崎市が報告書に基づき求めていた体験者の被爆者認定を否定した。見解は16日付。
 黒い雨被害者の救済を巡っては2021年7月、広島高裁判決が「原爆放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」と、広島原爆の黒い雨に遭った原告全員を被爆者と認定。国は救済拡大のため新認定基準を昨年4月から運用しているが、対象を広島に限り、長崎について▽被爆未指定地域で雨が降った客観的記録がない▽被爆者認定を求め体験者が敗訴した最高裁判決が確定-の2点から対象外とした。
 一方で県は、この2点を検証するため専門家会議を設置。昨年7月に厚労省に提出した報告書は未指定地域における黒い雨証言について、1999年度の県市の調査を統計的に解析し「客観的記録」と認定。また過去の体験者訴訟判決でも、黒い雨による健康被害の有無については判断が示されておらず、長崎の黒い雨被害者に手帳を交付しても矛盾はないと結論づけた。
 これを受け厚労省は今回、あらためて体験者訴訟の福岡高裁や最高裁の判決内容を挙げ、「降雨の客観的記録がない」「(被爆未指定地域で)健康被害を生じる可能性があるとは言えない」などとし、「事実認定と整合性を欠く施策は困難」との見解を示した。
 体験者訴訟で原告側証人を務めた県保険医協会の本田孝也会長は、この見解について「報告書は福岡高裁判決などが(体験者の被爆者認定を拒む)理由になっていないと指摘しているのに、国は同じ主張を繰り返すだけで反論になっていない」と指摘。黒い雨訴訟の広島高裁判決は「健康被害の可能性を否定できなければ認定すべきとの判決」だとして、「長崎にも(黒い雨などの)客観的証拠はある。長崎と広島で認定要件の解釈に違いがあるのはおかしい」と批判した。
 大石賢吾知事は定例会見で、厚労省の見解について「県が期待をしていた救済は難しいという内容。長崎で黒い雨などに遭った方も広島と同じように認定救済につながる回答を得られなかったことは残念。長崎市にも意見を聞きながら国の回答を精査し、引き続き被爆体験者の支援について協議する」と述べた。


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