「電話口で『ダメ』 結構、心が折れる」物件はあるのに、入居できない…“借上げ住宅制度”の限界-台風15号被害から4か月

「お願いします」。年明け早々、不動産会社を訪れた2人は、必死でした。

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「県の借上げ住宅の制度を使って、入居できたらいいね、と。でも、20日が締め切りなので急いでて、ずっと連絡したが、どこも『できない』と言われちゃって」

静岡県内に甚大な被害をもたらした台風15号から、まもなく4か月を迎えます。浸水などで家に住めなくなった被災者のための行政の借上げ住宅の申込期限が迫る中、「物件はあるのに、部屋を借りられない」事態があることが明らかになりました。そこには、関係者の“協力”に頼らざるを得ない実情がありました。

「物件はあるのに…」いまだ、心を休める場所さえ見つからない人たちがいる

2022年9月、台風15号による記録的豪雨被害で、家が床上浸水した静岡市清水区の森みつ子さん(81)。自宅での生活は困難で、被災後は、娘の家を間借りする状態が続いていました。この日、新しい家探しを手伝ってくれているボランティアと一緒に、清水区内の不動産会社に相談に訪れました。

「毎日、毎日が暗い生活ですね。健康な体もずんずん沈んでいくような。一日も早く借上げ住宅が決まってほしいです。私の願いです」。森さんは追い詰められていました。

「自宅で生活できない」を救済する制度だが…

静岡県内全域で約1万棟が浸水した台風15号。静岡市内だけでも、約6,000棟が被害を受け、流入した土砂などで生活ができない人が多くいました。森さんの自宅も「床上40センチぐらいまで水が来た」といいます。

「『ガタガタ、バーン』って音がして、急いで見たら、その時、水がそこまで来てて。お位牌とお米を持って、サブサブと、(水の中を)転ばないように運んだ」(森さん)

森さんのように、住まいに大きなダメージを受け、生活できない人の救済制度があります。県の「借上げ型応急住宅事業」です。不動産会社を通して、民間の物件を被災者に現物支給するもので、契約期間は最大2年。1人世帯では5万円、2人世帯では6万5000円など、上限額の範囲で無償で入居が可能です。その申込期限が2023年1月20日に迫っています。

リストに入る業者から断られる「現実」

「なかなか、物件を見つけにくいと伺ったんですけど…」。森さんたちを出迎えた清北土地の山﨑寛子さんがこう切り出すと、ボランティアからは、思わず本音が。

「不動産会社に4件くらい電話かけたんですけど、電話口で『ダメ』っていわれるところもあったし、『確認します』と言って、折り返しもらったけど、『ダメだ』っていうこととか。せっかく制度があるのに、結局は入れないじゃんと。結構、心が折れる…」

制度も、物件もあるのに、部屋を借りられない。静岡県がリストアップした協力事業者に電話をするものの、断られるケースが相次いだといいます。

<ボランティア>

「住宅はあるが、“借上げ”という制度を使っては、『入居できる』といってくれるところ(不動産会社)になかなか出会えない。(リストに)掲載されてない不動産会社も『できます』とあったので、このリストにこだわらずに、先に物件を見て、電話して、やっとこちらの不動産会社に出会えた」

通常と全く異なる業務に振り回される業者

山﨑さんの不動産会社では、この制度を使って、10件以上の契約が成立しましたが、業者側の事情も推し測ります。

<清北土地 山﨑寛子さん>

「すごい分厚い書類を作らなければいけなくて、しっかり静岡県や静岡市に聞いて、取り扱おうとすればできるが、通常の業務とは全く違う業務になる。通常よりエネルギーが必要になるし、自分たちが理解しないと書類を作れない」

不動産会社などの仲介業者は、通常の「借主と貸主との二者契約」と違い、借り上げ住宅の場合は「県と被災者と貸主との三者契約」を取りまとめる必要があり、多くの労力を要するのです。それでも、「困っている人のために」と、山﨑さんたちは、積極的に物件を探したといいます。

<清北土地・山﨑寛子さん>

「(被災者は)みんなすごく遠慮していて、『なんだったら、借上げ住宅じゃなくても、お金払いますけど、避難させてもらえませんか』くらいまで、なっている方もいる。私も清水区在住だし、ここの社員もほとんど清水区にいるので、お互い被災しているので、みんな協力できる範囲で、と思います」

業者の協力に頼らざるを得ない救済制度。被災者の窓口となっている静岡市も、不動産会社などに制度を使ってもらえないケースがある現状を認識しつつ、悩ましい実情を話します。

短期間での退去というリスク

静岡市住宅政策課の鈴木ちさと主任技師は「自宅が被災された住民だと、定期的に家に帰って、家財を片づけたり、掃除をしたりする事情があるので、できるだけ、通いやすい近くの物件を探したいが、被災エリアが限定的なので、そのエリアで同じような方がたくさんいる。そもそも、賃貸物件自体が被災していることもあり、貸せる物件が減っている」と分析します。

さらに、制度を使って物件が決まっても、自宅の再建などが済めば、短期間で被災者が出ていくことも考えられます。そのため、仲介業者が、貸主の理解を得るのもハードルがあるようです。協力してくれる業者などに、静岡市は「感謝しかない」としつつ、教訓を生かしていきたいとしています。

「いつ同じような災害が発生するかわからないので、その時に備えて制度の周知をして協力してくれる業者を増やしていきたい。被災された方は家が決まるまで、かなり落ち着かないと思う。初動をより早められるようにマニュアルの整備をしていきたい」(鈴木主任技師)

物件を探していた森さん。ようやく、借上げ住宅が決まりました。

<自宅が被災した森みつ子さん>

「気に入りました。なにせ、太陽が当たる。自分の家も南向きだったから。娘の家に間借りだと友達とも会えないし、一日バタバタ、洗濯、掃除、ご飯の支度と…。孫は『ばあば、ずっといて』と言ってくれるが…」

制度の限界が垣間見えた今回の災害。まもなく発生から4か月を迎えるいまも、“被災者”のままの人たちがいます。

【MEMO】家での生活ができない被災者の救済制度は、県の借上げ住宅制度だけでなく、市の支援金制度もある。これは通常の「ニ者契約」の後に、静岡市が補助をする形で3カ月まで交付され、現在、申込期限はない。

<問い合わせ>静岡市住宅政策課住まいまちづくり係 054(221)1590

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