にしおかすみこ「嘘は書きたくない」 コロナ禍で認知症の母ら家族と向き合った日々を執筆

SMの女王様キャラでブレークしたピン芸人・にしおかすみこ(48)が、コロナ禍の中で認知症の母ら家族と向き合った日々をリアルにつづった著書「ポンコツ一家」(講談社)が18日に発売された。にしおかがよろず~ニュースの取材に対し、この一冊に込めた家族への思いや執筆活動への意欲などを語った。

涼しげなショートカット。にしおかはホヤホヤの著書を手にほほ笑んだ。2007年、日本テレビ系バラティー番組「エンタの神様」でボンデージに身を包み、「にーしーおーかーすーみーこーだーよー!」と絶叫してムチを振り回し、三点倒立をしていた頃のキャラクターとのギャップを実感した。

講談社の雑誌「FRaU(フラウ)」のウェブサイトで2021年9月に始まった連載の13回分に5編の書き下ろしを加えて単行本化。物語は20年6月、コロナ禍で無職状態となった著者が家賃の安い都内のマンションに引っ越した際、荷物をほどく手間もあって、千葉県内の実家で食事でもしようと軽い気持ちで顔を出し、荒れた室内と共に母が認知症になっていると気づく場面から始まる。そのまま家族と同居することになり、「認知症の母」「ダウン症の姉」「酔っ払いの父」と向き合う日々が続く。

そもそも、なぜ文章を書こうと思ったのか。

「無職のまま実家に帰ったので生活費を稼がなくてはいけなかった。また、書くことは好きだったので、やりたいことにチャレンジしようと。さらに家族の誰かが倒れた時のことも考えて、パソコン一つ、家できる仕事が欲しいと思って。後は私が書いた文章で皆さんに元気を出して欲しいという、この4点です。私の方で先に10話くらい書いて、マネジャーさんを通してお願いして連載が決まった。支えてくださった周囲の皆さんに感謝です」

エッセー「化けの皮」(08年、ゴマブックス)以来の著書となるが、家族を描いたのは今回が初めて。壮絶なバトルも含めた日々が軽妙な文体で赤裸々につづられている。会話部分はリズミカルで実際に声色が聞こえてくるようだ。「嘘は書きたくないんで。誇張もしたくないし。(家族が)『こう言った』という言葉はなるべくメモしていました」(にしおか)。世間体を考えれば隠したくなる肉親の「ありのままの姿」を描いた。著者の「覚悟」が伝わった。

「コロナでピタッと仕事がなくなった。引っ越しもコロナ禍でなければ考えていなかったし、その流れで実家の様子もたぶん見に行かなかったので、コロナの影響はあったと思います。母は徘徊とか寝たきりではないので、『介護』というほどではなく、私はまだよく分からずにジタバタしている感じですけど、大切な存在です。姉は一つ上ですけど、年を取るのが早くて、さらにスローペースになったりするところはありますが、(姉と母は)一心同体。父はいつも酔っ払っているという感じです」

自身が芸人を志した動機は「有名になりたいという気持ちと、一獲千金」だったという。

「大金持ちになれるのは宝くじか芸能界だなと思って。宝くじは(運を)待つしかないけど、芸能界だと自分で動き出せば面白そうかなと。飲食店でバイトしながら、いろいろなキャラをやっている中、(女王様キャラは)レイザーラモンHGさんが毎日、テレビに出てらしたので、その女性版はどうかなと思って、原宿でボンデージを買って、アダルトショップでムチを買って、とりあえず格好から入って舞台に立った。母は近所の人から『娘さんがテレビに出てるわよ』と言われて知った。『キャラ』というのが分からないから、『なんで、テレビで薄着して叫んで、大御所や先輩の方たちによくない言葉を使うのか』と毎日のように電話で怒ってましたね。『すぐやめなさい』と」

元々はネタだったSM。だが、そのプロから助言された「心」というワードが家族と向き合う現在にもリンクしている。

「当時のマネジャーさんが本物の女王様がいるお店に勉強のために連れて行ってくださいました。『格好だけだと上っ面だから、テレビの向こうの人には響かない。とにかく、心からいって、気持ちを伝えること』みたいなアドバイスをもらいました。確かに、家族に対しても『心から…』ですね」

お笑いタレント以外に、落語、マラソンなど活動の幅を広げてきた。今は執筆活動に活路を見い出す。

「書く仕事が増えていくといいなとすごく思います。連載は続いているので、続編が本になればいいですし、今後は家族のこと以外も書いていきたい。小説もやってみたい。でも、肩書はお笑い芸人です。(女王様キャラも)需要があればやりますし。まずは自分の健康を一番に。自分が元気でないと家族も幸せにならないと思っていますので」

新刊の表紙にはマトリョーシカ(ロシアの人形)に模した家族4人(と父の酒瓶)のイラストが描かれている。その中の1人、次女である「一発芸人」は今も元気なボンデージ姿だ。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

© 株式会社神戸新聞社