「FIRE卒業」の要因はなにか。早期退職を選択する前に考えておきたいこと

2010年代から欧米より広がったFIRE。経済的自立と早期退職を目標としたライフスタイルとして注目を浴びていますが、一方でFIREを卒業する人も増えています。その要因について解説します。


FIREを選択するときの下準備

下準備には、金額面・生活面、両面の計画が必要です。主に以下の3つについて考える必要があります。

●早期退職金
FIREの資金源の1つとして退職金が挙げられます。退職金とひとくくりにいっても「定年退職」「早期優遇による退職」「自己都合による退職」とでは金額に大きな差があります。

勤続20年以上かつ 45 歳以上の退職者のうち、大学・大学院卒の「定年退職者」の退職給付の平均額は、1,983万円であるのにたいし、「早期優遇」での退職給付額が2,326万円と高めになっていますが、「自己都合」による退職は1,519万円と低めです。

しかしいずれも1,000万円を超える金額であり、当座の生活資金として充てることができるでしょう。

●退職後のライフプラン
次に、FIRE後のライフプランを考えます。FIREはFinancial Independence, Retire Earlyの頭文字を取り「経済的自立、早期退職」を指しますが、その目的は人それぞれです。

単に会社を早く辞めてラクになりたいひともいれば、会社とは切り離された自由な生活を手に入れ、自身の夢やビジョンの達成を目的とする人もいます。

「自由な生活」や「夢やビジョン」というと聞こえは良いですが、自身にとっての「自由な生活」とはどんな生活か、「達成したい夢やビジョン」とはなにか。これが明確にできていないと、ただ時間を浪費することとなります。

●資金の使用計画
退職金と今までの貯蓄分と合わせて、資金がどれくらい確保できるのかを確認します。もしFIREの目的が「自己実現」ならば、いつどの段階で達成できるのか、実現できるためのコストはどれくらい掛かるのか、普段の生活資金も合わせて考えていくことが重要です。また欧米では投資で増やすことも取り上げられています。

FIREが失敗する原因は資金面だけではない

FIREの失敗例として挙げられるのが、しっかり資金計画を立てていたものの当初の予定よりも大きくズレが出てしまったケースです。

・投資で儲け続けようとしたが、相場や為替も大きく変わり、失敗した
・持っていた資産を少しずつ取り崩そうと思っていたが、暴落し、資産が大幅減少した
・インフレの影響で資金が掛かってしまった

上記のような外部要因による資金計画の失敗などが挙げられます。

さらには、あちこち旅行に出掛けたり、おいしいものを食べたりしたが、結局散財するしかなく、他に生きがいを見つけることができなかった。働かない選択をしたものの、娯楽は1ヶ月ほどで飽きてしまい、心も身体も老け込んでしまったといった自分の内面での要因もあり、資金だけではなく本来想定できなかった事実が待ち受けていたこともあります。

FIRE卒業への決断

会社勤めを辞めてFIREした人にとっては、FIREの卒業はバツが悪い人もいるでしょう。しかし資金計画が失敗したのであれば、バツの悪さや見栄よりも、生活資金を確保しなければなりません。自分の資産が大きく目減りし、日々の生活を脅かしてまで仕事をしない選択は本末転倒です。

FIREのつもりだったけれど、少しの休み期間を取り次へ転職したといった結果的に「単なる転職だった」という人もいます。固定給を受け取りながら生活していくことへ戻ることの安心感は大きいものです。

働くことは悪いことか?

周知の通りアメリカでFIREムーブメントが起こりました。雇われて会社に毎日通い、日々の業務に追われ、疲れて一杯飲んで帰って寝る、この生活があと何年も続くのかと負のスパイラルから逃れたい、会社を辞めたら楽しい生活が待っているといわれると、誰もが飛びつきたくなることでしょう。

このムーブメントから「働くことから解放されよう」といった旗印のもとに「働く」=「悪」という印象も受けかねません。

「働く」とは、どういうことか振り返ってみましょう。働くことは、いわずもがな社会に自身が貢献していくことです。誰かの困りごとを解決し、その貢献に対し対価が支払われる、これが「稼ぐ」ということです。「稼いだお金」はすなわち“感謝のしるし”です。

FIREを選択する前に

完全なFIREではなく、会社員の立場を保ち固定給を得ながら、定時で上がれる業務に就き、帰宅後や休日に自分のやりたいことを成す方法もあります。いわばハイブリッド型といったところでしょうか。

両立には、会社の立場や体力面などの問題もありますが、少なくとも生活費の確保はできますし、やりたいことへの実現を完全にFIREする前に始めることができます。そして軌道に乗ってから退職でも遅くはありません。そもそも早い遅いもなく、やりたいことをいつ始めたいかがポイントです。

人生のゴールはなにか。それは心身ともに幸せに笑顔で過ごしていくことです。このゴールへの道は、人それぞれでしょう。自分に合った選択肢を見つけて、一度しかない人生、謳歌していきたいですね。

(出典)厚生労働省 平成30年就労条件総合調査 結果の概況

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