前代未聞 美術愛叫ぶラップバトル 岡山4館学芸員 ファン獲得へ一手

ラップバトルで対決する橋本さん(左)と四角さん(右)。観客も手拍子を送り盛り上がった=9日、岡山県立美術館

 ラッパーに軽妙な語りで紹介され、ステージに現れたのは2人の男性。和服に能面をつけた1人が「備前焼の魅力は何? 釉薬(ゆうやく)使わない、絵も描かない。土の力、炎の力~」とリズムを刻めば、真っ赤なイラン遊牧民族の衣装をまとったもう1人が「オリエントのコレクションは、ガラスのコレクションが世界的に有名~」とたたみかける。

 岡山県立美術館(岡山市北区天神町)で開かれた「美術館学芸員ラップバトルトーナメント」。県内4館の学芸員が美術への愛をラップでぶつけ合う―という前代未聞のイベントは、SNS(交流サイト)などで拡散され、詰めかけた若者らで定員180人の会場は満員。ジャッジも担う客席の拍手に盛り上げられて、林原美術館(岡山市)の橋本龍さんと岡山市立オリエント美術館の四角隆二さんが対決した第1試合から、熱戦が繰り広げられた。

 2人の“推し”は、備前焼や刀などの工芸とオリエントの古代ガラス。スクリーンに自慢の館蔵品を映し出しアピールする姿に、ツイッターで知り福山市から駆けつけた会社員女性(27)は「学芸員とラップという意外な組み合わせが斬新で面白い。熱い語りを今度は展覧会のギャラリートークなどでも聞いてみたい」。

 決勝は、橋本さんと倉敷考古館の伴祐子さんが対戦した。休日には愛車を500キロ以上走らせ、フィールドワークに励むという伴さんは、ヘルメットと作業着姿で登場。備前焼製や玉乗り型など、素材も形も多彩な神社のこま犬の魅力を紹介したが、能面のまま当意即妙の対応をみせた橋本さんに一歩及ばず。

 守安收・県立美術館長から金色のチャンピオンベルトを受け取った橋本さんは「ラップは初挑戦だったが、これを機に美術館に縁遠かった人たちが、美術や工芸、学芸員の仕事に関心を向けてくれるなら頑張ったかいがある」と喜んだ。

 イベントは、音楽イベント制作会社・遊覧座(東京)の代表が、会合で同席した県立美術館の鈴木恒志さんが語った仏像愛に感嘆し発案。成人の日に合わせ、ファン層の拡大を狙い、同館が近隣館に呼びかけ実現した。鈴木さんは急病で無念の欠場となったものの、エキシビションでは、同館の福冨幸学芸課長が展示室のLED照明化を要求するのに対し、渡辺健総務課長が予算がつかないと返す“台所事情暴露ラップ”が披露され、大受けだった。

 美術館は敷居が高い、学芸員の話は難しそう。そんなイメージを覆した今回のイベント。会場に入れない人が多数出たほどの盛況は、普段の美術講座などでは考えられない。時には思い切った変化球も必要ということだろう。熱意にあふれる学芸員を擁する各館の、次の一手を期待したい。

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