首相、新型コロナの「5類」引き下げ表明、時期など閣僚に検討指示

 岸田首相は20日、新型コロナウイルス感染症の法的位置付けを今春に「5類」へと引き下げる意向を正式に表明し、関係閣僚に移行時期の決定を含め準備を進めるよう指示した。第8波がまだ収まったとはいえないなか、感染状況を睨みながらの慎重な政策判断が引き続き求められる。

移行時期は早くて4月

 首相の指示を受け、関係閣僚が具体案について調整を開始するが、焦点は移行するタイミングだ。

 結核などとほぼ同じ現在の「2類相当」は、法に基づいて隔離療養や営業自粛の要請など強い措置が可能だが、季節性インフルエンザと同等の「5類」では、そうした強い措置や、診療費、薬剤費、ワクチン費用などを公的補助する法的根拠が失われる。そのかわり発熱外来以外の診療科でも広く診療することが求められる。

 20日の会議では移行にあたり、公的補助については経過措置として一定期間維持する方向でほぼ固まっており、また、様々な要請の法的根拠が失われることから、屋内でのマスク着用要請の撤廃についてなども話し合われる見通し。焦点の移行時期については、現在第8波がまだ続いていること、死者数が最多ペースで推移していることなどを考慮しつつ、専門家の意見聴取を経て慎重に検討する。首相が時期について春と明言したことを受け、4月から6月のいずれかの時期に移行する方向で意見集約が進んでいるものとみられる。

「5類」に移行すれば医療ひっ迫はなくなるのか

 政府はあくまで感染状況を見極めながら、適切な時期に移行を図ることで社会を通常に戻せるという見立てをしているが、実際に思惑通りに進むかは極めて不透明だ。というのは、「5類変更で発熱外来でなくてもコロナ患者を診療する」という想定が外れる可能性も強いからである。

 医師には「患者が診療を求めたら応じなければならない」という医師法上の縛り「応召義務」がある。これに対し、一部の関係者は「2類相当」の感染症ならその縛りから逃れ、事実上の診療拒否が可能となるので、早く「5類」にすべきだと主張していた。しかし応召義務は感染症の類型で明確に何かを免除されるわけではなく、実は「2類相当」でも「5類」でも、正当な事由があれば診療をしないことが直ちに医師法違反となることはない。これは、厚生労働省自身が2020年3月に発出した連絡文書でも示されている。

 その文書によると、発熱患者をその医療機関で「診療が困難だ」として診ないとしても、近隣の発熱外来を紹介するなどすればよいことになっており、さらに、2類の患者であることを理由に診療を拒否したとしても、差別的な措置にはあたらないとも示されている。

 これはつまり何を示しているかというと「5類」になってから、発熱外来を標榜していない、多くの内科クリニックなどで新型コロナの診療を求めても、医療機関が近隣の発熱外来を紹介すれば診療しなくて良いということだ。つまり事実上の「たらい回し」容認である。

 現在は指定感染症という理由で発熱外来で診療すべきという指針になっているため、こうしたかたちでの診療拒否が正当化されているが、指定を外れても発熱外来を紹介すれば良いというのは、実は変わらないのである。

 「5類」への適切な移行には、感染が収束した時期を選ぶことのほかに、臨床現場の実情に即した運用ルールの見直しも必須だ。この課題解決がなされないと、結局いまと同様に、発熱外来だけに患者が集中し、医療ひっ迫が起きる可能性が残されることになる。

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