在来線最速級の快速列車、今春のダイヤ改正で消ゆ【取材ノートから No.13】

新潟県南魚沼市の六日町駅~上越市の犀潟駅を結ぶ「ほくほく線」で活躍するHK100形電車。「超快速スノーラビット」にも充当されます(写真:tarousite / PIXTA)

鉄道業界にとって毎春恒例の一大行事・ダイヤ改正、2023年は3月18日に実施されます。今改正は東海道・山陽新幹線へのN700S追加投入、上越・北陸新幹線の所要時間短縮と話題豊富。その一方で、時代を彩った名列車のいくつかが姿を消します。その一つが、新潟県の第三セクター・北越急行の看板列車「超快速スノーラビット」です。

2015年3月ダイヤ改正で登場。上越新幹線からの乗り継ぎで、越後湯沢―直江津間を結ぶ列車は途中、十日町だけに停車。普通運賃で乗車できる列車では日本最速級ランナーとして鉄道ファンの注目を集めましたが、コロナ禍による利用減などで8年間の短すぎる歴史に終止符を打ちます。十日町市にある北越急行本社を取材したのは2017年と2020年の2回。当時の取材ノートを読み返しながら、雪原を駆け抜けた〝雪うさぎ(スノーラビット)〟の足跡を追います。

国鉄新線として構想、三セク鉄道として開業

北越急行ほくほく線は、六日町―犀潟間59.5キロの路線です。路線は六日町でJR上越線、犀潟でJR信越線に接続します。

1968(昭和43)年から「北越北線」の名称で工事が進められてきましたが、「国鉄経営再建促進特別措置法」の施行により工事は中断。利用の少ない地方ローカル線を地元自治体などが出資する三セク鉄道として存続するか、それともバス転換するかの判断が地元にゆだねられました。

これを受け、新潟県、沿線自治体、金融機関などが出資する三セクの北越急行が設立されて建設を引き継ぎ、国鉄改革10周年目前の1997年3月に開業しました。

高規格鉄道という概念

北越急行の前期を象徴するシーン、ほくほく線を行く特急「はくたか」。北越急行所属の特急用車両は北陸新幹線金沢開業でJR西日本に売却されました(写真:IK / PIXTA)

北越急行が日本の鉄道界にもたらしたもの、それは高規格鉄道という概念を認識させた点に尽きます。鉄道高速化では新幹線が思い浮かびますが、ほくほく線は在来線ながらポイントは高速分岐器、レールは山陽新幹線建設時と同じ60キロレール、新しい信号システムの採用などで、在来線最速の時速160キロ運転を可能にしました。

ほくほく線を建設したのは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の前身の日本鉄道建設公団。工程中には青函トンネルと並ぶ難工事とされ、膨らむ地山(じやま)に行く手を遮られた鍋立山トンネルもありました。そうした困難を克服して開業したほくほく線には、鉄道技術陣の思いが結集します。

ターニングポイントは北陸新幹線金沢開業

2022年に開業25周年を迎えた北越急行の歴史は、2015年3月に北陸新幹線長野―金沢間が延伸開業するまでの前期と、新幹線開業後の後期に大別できます。

新幹線金沢開業まで東京から北陸方面への移動は、ほくほく線経由が一般的でした。上越新幹線越後湯沢でほくほく線の在来線特急「はくたか」に乗り換えて北陸に向かう。開業から18年間、ほくほく線は首都圏と北陸をつなぐ幹線の一部でした。

幹線時代の北越急行、使命は東京から北陸に向かう旅客を少しでも早く通すことでした。その手段が、最高時速160キロの高速運転だったのです。

「少しでも長く沿線に滞在してもらう」

ところが、北陸新幹線開業で目的は大きく変わりました。開業前が「なるべく早く乗客を運ぶ」なら、開業後は「少しでも長く沿線に滞在してもらう」です。

幹線からローカル線への移行に合わせて登場したのが、「超快速スノーラビット」です。なるべく長くとは矛盾しますが、「超快速スノーラビット」は「なるべく早く」という幹線時代の目的を維持した列車でした。

HK100形の車内。車端部はロング、中央がクロスのセミクロスシートです(筆者撮影)

主なターゲットは、東京から上越や十日町に向かうビジネスマンや観光客。東京―上越間は北陸新幹線(上越妙高駅)と、上越新幹線+ほくほく線(越後湯沢乗り換えで直江津駅へ)のダブルルート化しました。

「超快速スノーラビット」は2015年3月のダイヤ改正で、朝下り1本、午後上り1本を設定。停車駅を十日町のみに絞ることで、普通運賃で乗車できる列車としては日本一となる表定速度88.6キロ(ほくほく線内に限れば99キロ)を達成。後のダイヤ改正で増発、停車駅を増やした超快速も設定されましたが、2022年3月のダイヤ改正で最速便を含む1往復が廃止となり、現在は下り1本のみという状況です。

もちろん、「超快速スノーラビット」には相応の存在価値がありましたが、ビジネスマンや観光客の多くは乗り換えなしの北陸新幹線を選択しました。コロナによる業務効率化が求められる中で、北越急行は存続をあきらめるという重い決断を下しました。

北越急行は今春のダイヤ改正で、利用実態にあわせ全列車を各駅停車に変更。最高速度も現在の時速110キロから、95キロに引き下げます。特急「はくたか」運転時は、普通も特急に追い付かれない速度で走る必要がありましたが、普通列車だけのダイヤで特急を意識する必要はなくなりました。

現行ダイヤの「超快速スノーラビット」は直江津で接続する、同じ三セクのえちごトキめき鉄道に直通運転して、妙高はねうまライン新井に乗り入れますが、改正後は直通運転も取りやめます。

生き残りの道の一つが観光鉄道化

表面的には利用減を受けた縮小再生産にも思える北越急行のダイヤ改正。改正後の利用促進策は、どこにあるのでしょうか。

答えの一つになりそうなのが「観光鉄道としての誘客」です。ほくほく線に観光列車はありませんが、鉄道ファンや観光客を呼び込む知恵があります。〝観光・ほくほく線〟を知らしめたのが、鉄道利用の魅力的な旅行商品を顕彰する「鉄旅オブザイヤー2019」で最優秀賞のグランプリを受賞した「超低速スノータートル『ナイトタートル~夜のトンネル探検』」。

ツアーは時速5~10キロの超低速列車・スノータートルで、夜のトンネル探検に出発します。普段、列車内のトンネル内は真っ暗で何も見えません。でも内部はどうなっているのか、ファンは興味津々です。

そうした実績をもとに北越急行は開業25周年の2022年、ツアー列車「記念列車オールスター号」を六日町―犀潟間往復で運転してヒットを当てました。

北越急行の小池裕明社長は2022年7月、三セク鉄道の業界団体「第三セクター鉄道等協議会」会長に就任。2023年の年頭所感で、「イベント開催や観光列車など、鉄道に乗車いただく取り組みを進めていく。関係の皆さまとコラボした楽しい企画で沿線地域の活性化に寄与したい」とコメントしました。

3月新ダイヤでスノーラビットは〝冬眠〟しますが、沿線には「鵜の浜温泉」(上越市)など観光資源が豊富。ほくほく線の新たなスタートに期待しましょう。

2022年のツアー列車「記念列車オールスター号」でまつだい保守基地(松代工務区)を訪れた参加者(資料:北越急行)

記事:上里夏生

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