選手会長なのにLIV参戦? 谷原秀人が批判に答えた/単独インタビュー

胸中を解き明かした(撮影/和田慎太郎)

日本男子ツアーは年が明けて、3カ月以上に及ぶオフの真っ最中。海外ツアーで始動する選手がいる一方で、4月の開幕戦「東建ホームメイトカップ」を待つメンバーも多い。去る2022年、最終戦「日本シリーズJTカップ」を連覇した谷原秀人は、ジャパンゴルフツアー選手会の会長に就任した一方で、サウジアラビア政府系資金を背景にした「LIVゴルフ」にも参戦。44歳の動向は一部で物議を醸した。渦中の今、何を思うのか聞いた。

実感なき連覇

2022年最終戦「日本シリーズJTカップ」。最終18番でシビアなパーパットを沈めて連覇した(撮影/中野義昌)

カップに収まらなければ、きっと負ける。シビアな2mのパーパットを前にしても、手はしびれなかった。昨年12月の「日本シリーズJTカップ」最終日、後続を1打リードして迎えた最終18番。谷原は名物パー3の急傾斜で下りのフックラインを残していた。

「入らなかった瞬間にプレーオフにも行けないと思ったけれど、腹をくくれていた。『カップいくつ分、曲がる』とかではなく、ただラインをイメージできた。(直前に打った岩田)寛のアプローチも参考になって。『大丈夫だ』と思えたから、全然緊張しなかった」

打ち出したボールはカップに消えた。ガッツポーズ姿にテレビ解説の丸山茂樹は思わず「天才」と感嘆。ただそのウィニングパットにも、健在の勝負強さにも、ベテランは「あまり勝った実感がない」と静かに振り返る。

LIVには5試合出場

さまざまな言葉と向き合う(撮影/和田慎太郎)

22年は谷原にとって激動のシーズンと言えた。選手会長として国内ツアーに18試合(全26試合)に出場、そしてLIV招待には開幕戦のロンドンから5試合(全8試合)に参戦した。世界の男子ゴルフ界をかき回す存在になった新リーグ。「良いものがあれば、日本に持って帰りたい」と勇んで向かった世界には高額賞金だけではないモノがあったという。

グレッグ・ノーマン(オーストラリア)率いるLIVは巨額の契約金を投じ、世界のトップランカーを欧米ツアーから買い漁った事実がある。ただし、谷原自身が感じた“現場”の空気感は外野の想像とは少し違った。

「周りの人は(莫大な契約金で)『選手の欲がなくなる』なんて言うけれど、もともと戦っていた選手たちは、今も負けたくないと思う人ばかり。“ぬるま湯”というイメージは実際には全く感じられない。僕たちにしてみれば、もっと上に行きたい、どうしたらこの人たちに近づけるかと、この年齢になっても考えられる。非常に刺激になっている」

「LIVでトップ選手が何をして、何を悩んでいるかを見られた」ことが自身のキャリアにとって大きい。「トップ選手の調子が良い時も、悪い時もどちらも見られた。あれほどのメンツだから刺激にもなる。フィル・ミケルソンなんかの練習量は今もすごい。試合は午後0時のスタートなのに、朝7時半からショット、パットの練習をしていたりするんだ」

ショットガンスタートの課題

踏み出さないと見えないものもある(撮影/和田慎太郎)

LIV招待は既存の4日間72ホールのストロークプレーを、予選落ちのない3日間54ホール競技に変えた。また、全選手を各ホールから一斉にティオフさせるショットガンスタートを採用することで、全体の競技時間を5時間弱に抑えた。

「(競技全体の)時間が短い中で、お客さんが喜んでくれるようにすることがモットー。短い時間で試合を終わらせて、その後のコンサートでも一緒に盛り上がろうといった、今までとは違うスタイル。いずれ、こうなっていった方が楽しいんだろうなとも思う。これまでとは違うお客さん、ゴルフに興味がない人も、“お祭り”だからコースに来るようになる。先に少しだけでもゴルフを見て、その後、コンサートを楽しめる。日本ツアーでも例えば(コースの)駐車場を使ってできないだろうかと提案したこともあった」

「ショットガンスタートはあまりにもトリッキーだったり、難しかったりするホールからはティオフさせない。割とスムーズにラウンドに入れるようなホールが(最初のホールに)選ばれる。パー3になることもあるが、めちゃくちゃ難しいパー4よりも、200のパー3の方がまだ良いと思うのがプロ。問題は(スタートホールまでの)移動。各ホールに行くまでに(カート等で)10分、15分とかかって、それからスタートまで5分、10分と待たなくてはならない。(クラブハウス前で)パッティング練習をして、すぐ隣のホールでスタートする通常の流れとは違う」

チーム戦の未来

独自の団体戦を取り入れたLIVゴルフ(撮影/田辺安啓(JJ))

時間短縮と同時にLIVが推し進めるのが、個人戦がメインのプロゴルフに団体戦の魅力をミックスさせること。フィールドにいる48人が12組に分かれ、個々のスコアを合わせたチーム戦を並行させて実施している。

「(LIVは)フランチャイズ化を考えているのもおもしろい。いずれ企業などがそれぞれのチームにお金を出して、そこを応援するというプラン、チームでユニフォームをそろえる構想もある。実際にはプレー中、最初からチーム戦をやっている意識は少なくて、ラウンドの最後の方に気になってくる。(第2戦では)日本人4人で組んで、最終日は稲森(佑貴)と一緒に回って3位に入れそうだったが、カルロス・オルティス(メキシコ)に20mくらいのパットを決められて4位。惜しかった」

「でも団体戦はダスティン・ジョンソン、パトリック・リードたちのチーム(4エースズGC)が強すぎて、タイでの第6戦から、採用スコアのルールが変わった(※初日、2日目に各組上位2人のスコアを採用していたものを、上位3人に変更した)。LIVはその辺が柔軟。確かにその後の2試合は別のチームが優勝した」

試合後にはアンケートが

第2戦のポートランドでは“日本チーム”が組まれた(Getty Images)

言うまでもなく、発足したての新リーグは手探り状態で船出したことがうかがえる。そこで谷原が痛感したのが、組織の柔軟性の高さだった。

「タイでのプロアマ戦はとにかく暑くて、しんどかった。すると次のサウジアラビアでは気温が高すぎるという理由で、カートでのプレーが認められた。本当に選手をリスペクトしてくれるというか、選手がやりやすいように(運営側が)常に考えて何かをやってくれている。選手は試合後に必ず『今回の試合はどうだったか』というアンケートに答えなければならない。コースセッティングは? ピンポジションは? ヤーデージブックのつくりは? コース内での食事は?といったものもある。そういったアンケートが選手だけでなく、キャディやマネジャーに対してもある。スマホにメールが来て、3分くらいで回答するだけ。常に情報収集をして、改善していこうとしている」

「規模の大きさが違うので、(同じやり方を)日本ツアーにそのまま持ってくることは難しい。でも、大会前のパーティにしても、LIVはとてもフランク。ツアーとスポンサーの付き合い方も、そうすると人気が出るかもしれない。日本らしい“しきたり”を大切にするばかりではなく、例えば会食も立食でやったりすれば、選手とスポンサー関係者が普段から付き合える関係性につながっていくかもしれない」

契約金の是非

PGAツアー、そして4大メジャーを頂点とした既存のピラミッドを、あたかも崩さんとするLIVゴルフは、それを実現する巨大な資金力、サウジアラビアという国家に対する欧米の一部の厳しい視線も相まって、参戦選手は多くの場面で批判にさらされた。ときに誹謗中傷の対象にもなったことについて、谷原は疑問を口にする。

「日本人選手に契約金はなかった」ことを前提に続けた。「選手が契約金をもらってプレーすることがなぜ悪いのか。タイガー・ウッズやアーニー・エルスも大会側から契約金をもらって、いろんな国の試合に出ていた。それと一緒なのに、なぜかLIVの選手はたたかれている。しかもLIVは『LIV以外でプレーしてはダメ』とも言っていない」

「確かにメジャーは4日間で、72ホールをプレーする。でも『だから3日(間競技)はダメだ』と言うのは違うのでは。予選落ちがない試合は他でもある。ZOZOチャンピオンシップもないでしょう。あるいは、天候で54ホールの短縮競技になることもある。それで決着をつける試合がダメ、優勝に価値がないということはない。ゴルフ界全体を見ても、(ゴルフというスポーツを)短縮する流れはあって、日本でも9ホールのプレーでもいい(推奨する)ゴルフ場もある。女子は3日間の試合も多い。日本の下部ツアー(ABEMA)も3日間ですよね」

「おれってダメだな」

その手は震えているのか(撮影/和田慎太郎)

谷原は今季、前シーズン(2020-21年シーズン)の日本ツアー賞金ランキング上位者の資格でLIVゴルフに参戦した。2023年に出場できる可能性は限りなく低い。それでも「仮に賞金が今よりもずっと低くても、出たいと思う。日本ツアーと同じ賞金だとしても、彼らとプレーしたいと思える」と語る。

これまで日本、米国PGAツアー、アジア、欧州ツアーでメンバーシップを得た。「これだけ多くのツアーでメンバーになった選手はなかなかいないと思う」。そこにLIVが加わった。

「海外には刺激がある。『おれ、ダメだな。下手だな』って、いつまでも思っていたい。もう(2打目以降で)ロングアイアンばかり持つのも慣れた(笑)。ティショットで50yd置いていかれても『はいはい。そうだよね』って感じで。でも、LIVにいるトップ選手たちとは普通は回れない。LIVに行けば回れると思うから、出たいと考える。テレビで見たブライソン・デシャンボー、ジェイソン・コクラック…。2人と一緒に回って驚いた。本当にすごく飛ぶ。そのときは“ワイパー”だったけど(※左右に大きく曲がるという意味)。海外では『オレってダメだな』と感じることも分かっているけれど、分かっていてもそう自分で思いたい。今もそれを求めている」

PGAツアーの集権化

権威にだって物申す(撮影/和田慎太郎)

LIVに参戦した選手たちへの一部からの批判は欧米に限ったことではない。中でも選手会会長の谷原は日本勢では最も矛先を向けられた選手だった。

谷原はイチ選手として、LIVによってキャリアの選択肢が増えることは、プレーヤーにとって有益だと強調する。「より良い選手たちがいるところで戦うこと、刺激をもらえる立場にあって、試合に出ないということ(選択)は正しいだろうか。選手が選べる職場がそこにあるのに『行ってはいけない』というのは不思議な感覚にもなる」

昨今のプロゴルフ界における、過度な米国中心の勢力図が気にかかるという。PGAツアーはLIV参加選手を排除する手段を講じたが、「実際には(LIVの選手は)欧州もアジアも、日本ツアーにも出られる。今、出られないのはPGAツアーだけ」と首をひねる。

「すべてがPGAツアー寄りになっている」。昨年8月に施行された世界ランキングの新システムでは、PGAツアー、下部コーンフェリーツアーへの付与ポイントが相対的に高くなり、欧州、日本をはじめとした諸外国のツアーへの配分が下がった。ロリー・マキロイ(北アイルランド)やジョン・ラーム(スペイン)らトップ選手も悲観的な見解を示した。

「世界ランクが“PGAツアー、一極”になりつつある。コーンフェリーツアーの方がDPワールドツアー(欧州)よりも、ポイントが高くなる恐れがあって、これでは米国からしかメジャーに出られなくなる。欧州はPGAツアーに取り込まれてしまう。来年から(ポイントランク)トップ10人がPGAツアーの出場権を得られるというのは、(PGAツアーの)下部ツアーの扱い。牛耳られているようにすら見える」

PGAツアーが男子ゴルフの盟主であることには違いないが、集権化を危惧する。「PGAツアーからの“制裁”は今もあって、いつまで(LIVを)イジメるんだとも思ってしまう。LIVの結束は強い。(昨年10月に中東の)MENAツアーと手を組んで世界ランキングポイントが少しでも入るという話が、タイでの試合の時に発表されて、みんな喜んだ。フィル(・ミケルソン)はそのパーティの壇上で突然、『ひと言、しゃべらせてくれ。新リーグが選手のために動いてくれること、あなたたちへの努力に本当に感謝する』とマイクを持った。結局、話はなくなってしまったが…」

選手会長の仕事とは

選手会長として(撮影/中野義昌)

プロゴルフ界の最前線と言える話題を、身をもってキャッチしてきた反面、44歳は日本の選手をリードする立場にありながら、見方によっては母国ツアーをないがしろにしているようにも映る。LIVへの参戦により、今季は選手会主催の大会を含め、国内ツアーを8試合欠場した。谷原自身、選手会長の役割をどう考えているのか。

「(国内)ツアーに出場して盛り上げることも大切だが、選手がやりやすい職場を残したいと思っている。実際には、選手会長に独断で何かを決める権限はない。会社の社長でもないし、選手会は理事のみんな、選手たちと何かを決めていくもの。一般的な選手会長のイメージは分からないが、それぞれ違うはず。日本ツアーでは今、選手、選手会長が大会のスポンサーを探す(べきだという)ような節もある。『ここの会社が試合をやりたいと言ってくれている』と話をつなぐような役割。そういった負担を選手側が長い間、負っている。大会のスポンサーを探すことは本来、選手の仕事と言えるだろうか。そういう選手側の不満をツアーに“突っ込む”のも、選手会長としての仕事でもある」

外の世界を見たからこそ、選手の立場で感じる「不満」。それを“うやむやに”するべきではないという。

「例えば競技にしても、(国内ツアーは)コースセッティングも海外と違う。世界では確かに距離が長いのが当たり前になっているが、距離が長い設定ではラフを短くしたり、グリーンもパンパンに(硬く)しなかったり、フェアな設定を目指している。考え方が違う。プリファードライのローカルルール(※雨でぬかるんだフェアウェイから打つ際に無罰で泥を拭き、打つ地点を変えるなどの救済措置)も、海外では当然出るようなときに、日本ではなかなか出されず、(プレーする時間帯によって)フェアでない時がある」

「本当におれでいいのか?」

男子ツアーへの思い(撮影/和田慎太郎)

選手会長はツアーメンバーの投票で選ばれた18人の理事の中から選出される。昨年1月の就任時、谷原は今後も海外でのプレー機会を模索すること、家庭の事情もあり国外での滞在が多いことへの了承を得た上で、要職に就いたという。「最近も何人かに聞いたところ。本当におれでいいのか?って」

数年後にはシニアになる年代だが、日本ツアーの将来への不安を解消したい。

「イチから、全てを作り直すようなつもりでないといけない。ツアーがすべてのスポンサーに『こうしていきましょう』という道筋を作れるようにならなくては。時代が変わっても昔のまま、『今までこうやってきたから』で話が終わってしまうことが多々ある。『海外ではもう違いますよ』『こうやったら盛り上がりますよ』とリードできるようにならないと。テレビ中継や報道に関しても、そうかもしれない」

これからも続いていく(撮影/和田慎太郎)

ツアー側との話し合いは終わることがない。ただ、谷原は物事が予定調和であってばかりでは望ましくないと考える。前に進むためには侃々諤々(かんかんがくがく)があって当然。

「ゴルフ界の中身を変えてもらうため、いろんな人に相談している。ツアーが誰かに私物化されるようではいけない。(トップダウン型の)会社とは違う。いろんなところから人が集まって、意見を聞いて作っていかないと良いものはできない。成果が出なければ、もちろん自分も批判されるのは当たり前。それは僕たち選手が一番、分かっている。だから練習をして、トレーニングをして、努力している」

(聞き手・構成/桂川洋一)

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