「人間力磨く」大村工業eスポーツ隊・虎徒の刃  問題解決能力や積極性向上

eスポーツ隊「虎徒の刃」の隊員ら=大村市森園町、大村工業高

 今や世界で競技人口が1億人を超えるといわれるeスポーツ。県立大村工業高(大村市、市丸智大校長)では2020年に生徒によるeスポーツ隊「虎徒(こと)の刃(やいば)」が結成され、各種大会に出場している。「ゲーム=遊び」のイメージも持たれるが、生徒は活動を通じてゲームの腕だけでなく、人間力の面でも成長を見せている。

 同校の第2パソコン室の一角。運転操作を学ぶドライブ・シュミレーターのような機器やパソコン、高い背もたれのゲーミングチェアなどが並ぶ。生徒はそれぞれ真剣な表情でゲーム画面に向かい、時に満足の笑みを浮かべ、時に悔しそうに顔をゆがめた。
 eスポーツ隊は現在1~3年の18人が所属。週3回、この部屋で▽グランツーリスモSPORT(カーレース)▽eFootball(サッカー)▽ぷよぷよeスポーツ(パズル)▽鉄拳7(格闘)▽フォートナイト(サバイバル)-などのゲームの練習に打ち込んでいる。
 これまでに国体の文化プログラムとして開かれている全国都道府県対抗eスポーツ選手権の九州ブロック大会に進むなど好成績を収めている。

◎3連覇

 同選手権のeFootball高校生の部県代表者決定戦で3連覇した東晃希さん(3年)は小中学時代は“リアル”のサッカー部に所属していた。「ドリブル、パス、シュートと的確なプレーを選択しゴールを決めるという点ではeスポーツも同じ。プレーを練り、いかに実行するか練習の積み重ねが大事」と言う。
 eスポーツ隊では本名ではなく、各自が付けたプレーヤーネームで呼び合う。「一人の人間として対等に付き合うため」生徒だけでなく、プロジェクトスタッフの教諭らも同じようにプレーヤーネームを持つ。隊では学年の壁はあまり感じられず、雰囲気は和気あいあいとしている。
 「コーキ」こと東さんは「行き詰まったときに仲間が近くにいてくれるのが心強い。諦めることなく努力でき、継続する力や向上心が強くなった」とこの3年を振り返った。
 eスポーツ隊は、同校がeスポーツの教育効果を研究しようと2020年度から始めた3カ年のプロジェクト。同市を中心にeスポーツの企画・運営などに携わる企業、クーアズ(石崎肇一社長)と連携し、ゲーム機器などの支援も受けている。「虎徒の刃」の隊名には、同校が立地する「放虎原地区」の「生徒」が「刃のように自分を磨き上げる」との思いが込められているという。
 部活動ではないため、隊員となる生徒は全て他の部活動に所属。体育系も文化系もいれば、工業高ならではのものづくりを行う「機械システム専門部」からも参加している。

グランツーリスモSPORTの練習をする隊員。周りの隊員からアドバイスをもらって腕を上げていくという

◎五箇条

 一方で、生徒で話し合って「隊則五箇条」を設定。(1)仲間との交流を深め楽しく活動すべし(2)良い姿勢や戦術は我がものとすべし(3)己のペースを保つべし(4)心と場を整理し切磋琢磨(せっさたくま)すべし(5)eスポーツができることに感謝せよ-を心得として活動してきた。
 プロジェクトスタッフの「ゴリさん」こと毛利公浩教諭は「eスポーツはスタート段階で年齢、性別、体格による差がほぼない。皆が自由に参加できる、人と人をつなぐコミュニケーションツール」と強調。「どのようにすれば強くなれるか、などを分析し意見交換できる『語れるゲーマー』を目指すことで問題解決能力やコミュニケーション能力を身に付けることができる」と話す。
 隊員の多くが「積極的になった」「苦手だったが人との話ができるようになった」などと口にしている。また欠席しがちな生徒の生活習慣が改善され、保健室利用が減ったという。
 同校は3カ年のプロジェクトを通じて、新しい教育活動の可能性を確認。新年度も活動は継続し、隊も部活動の一つとして位置付けられる予定。

© 株式会社長崎新聞社