島原半島デマンド交通<1> 「AI活用」希望場所で乗降 縮む公共交通、3市動く

車載の端末(左)に表示される予約状況などを確認する「チョイソコうんぜん」の運転手=雲仙市内

 1月上旬の昼前、長崎県雲仙市の乗り合い送迎サービスの車中。「(島原鉄道の)バスが減ったので、乗り合いタクシーができて助かっている。年を取ると病院通いが欠かせないね」-。同市吾妻町の女性(89)はワゴン車に揺られ、サービスのありがたみを口にした。
 同市は2020年10月から4町で乗り合い送迎「チョイソコうんぜん」の試験運行を始め、昨年7月、全7町をカバー。人工知能(AI)を活用し、利用者が希望する場所で乗降できる「デマンド交通」の先駆けとして注目されている。
 人口減少で公共交通機関が縮小する一方、乗り合いバスやタクシーによるコミュニティー交通は県内21市町のうち同市と島原市を含む16市町が導入、南島原市は実証実験を行っている。

 島原半島3市が導入に動く背景には、中山間地域に集落が点在し、国道が沿岸部を周回する半島特有の事情がある。さらに3市平均の高齢化率は37.4%(20年時点)に達し、県平均を4.4ポイント上回った。自治体が住民の足を守らざるを得ない現実が横たわる。
 半島の公共交通を担うのは島原鉄道の鉄道とバス。鉄道は諫早(諫早市)と東部の島原港(島原市)を結ぶ延長43.2キロ。平日上下計67本を運行する。生活路線を中心とした45系統のバスは近年、減便や廃止が相次ぐ。08年は平日片道357便(高速バス含む)あったが、昨年10月時点で同216便に。約15年で60.5%までに減少した。
 経営環境も厳しさを増す。1990年からの雲仙・普賢岳噴火災害で線路などが被災。輸送人員の減少に加え、復旧経費がかさみ、93年度から赤字が続く。南線(島原外港-加津佐)を2008年に廃止。18年に長崎自動車(長崎市)の子会社となった。
 さらに打撃を与えたのがコロナ禍。20年度のバス輸送人員は19年度比40万人減の123万人。21年度の鉄道輸送人員は同26万6千人減の103万1千人に落ち込み、島原市内の路線バスを21年9月末に大幅に廃止するなど経営立て直しを急ぐが、収益悪化に苦しむ。
 21年度でみると、自動車(バス)部門の営業損益が19年度比7100万円増の3億3300万円に拡大した一方、鉄道部門の営業収入は同1億700万円減の3億2400万円。運転手不足、車両や施設の老朽化など課題が山積する。

島原半島の主要交通網

 そんな中、島原鉄道の在り方を巡る論議が昨年11月、国や沿線自治体などを交えてスタート。県地域公共交通活性化協議会の下部組織として島原鉄道活性化検討部会が設置され、24年度末をめどに、鉄道維持かバス高速輸送システム(BRT)への転換か、今後の方向性を検討する。
 雲仙市の「チョイソコうんぜん」に続き、島原市が21年秋、南島原市は22年秋、デマンド送迎サービスを始めた。いずれもトヨタ自動車グループのアイシン精機(愛知県)が開発した地域交通システム「チョイソコ」を導入。複数の利用予約をAIが処理して最適な運行ルートを割り出し、車両の運転手に伝える。利用者は乗降を希望する停留所、到着したい時間などを予約センターに連絡するだけで、車両が迎えに来る“ドア ツー ドア”の移動手段が実現した。


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