六本木の高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン」増える客、大人気なのは“大宮盆栽” じつは職人に危機感が

大宮盆栽を観賞する清水勇人市長(前列中央)。盆栽を解説する浜野博美理事長(同右)と広田敢太さん(同左)(さいたま市提供)

 埼玉県さいたま市の伝統産業「大宮盆栽」が25日まで、東京・六本木の高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」で展示されている。大宮盆栽村の複数の盆栽園が協力し、希少な盆栽が週替わりで登場。昨年1月に初めて実施し、国内外の利用者から好評を得て実現した。同村が2025年に開村100周年を迎えることから、市と大宮盆栽協同組合は今後、大宮盆栽のPRを強化していく。

 高さ約200メートルの45階にあるホテルのロビーラウンジには、メーンとなる盆栽を配置した。14日に展示されていたのは、「蔓青園」の樹齢約450年の真柏。車寄せのある正面玄関ホールには、「藤樹園」の樹齢約150年の赤松を展示した。温度や湿度などの影響を考慮して、1週間ごとに展示替え。16点ずつ3週間で48点を展示する。水やりは1日3回必要で、各盆栽園が交代で担当している。

 藤樹園の若手盆栽職人広田敢太さん(24)が昨年に引き続き、ホテルの空間の調和を考えて展示する盆栽を選定した。メインの真柏は、迫力が伝わるように、根元から見上げるような位置に配置した。「近い距離で盆栽を眺めることはあまりない。隅々まで見られるように配置した」と意図を説明した。

 新型コロナウイルスの行動制限がなくなり、昨年秋ごろから、ホテルには海外からの宿泊客が増えている。ホテルの担当者は「洋風の空間の中に、日本の本物の芸術が鎮座している。異文化に魅了され、お客さまの反応は非常に良い。展示できたことは非常に幸せで、光栄です」と話した。

 大宮盆栽村(北区盆栽町)は1923年の関東大震災をきっかけに、盆栽園が東京都内から移り、25年に開村したとされる。市観光国際課は100周年に向けて、大宮盆栽のブランディング化を進め、交流サイト(SNS)を駆使するなどして、国内外へのPRを強化するとしている。

 今月8日には、清水勇人市長と藤樹園の園主で大宮盆栽協同組合の浜野博美理事長(85)がホテルを訪れた。夜の盆栽を観賞した清水市長は「新たな魅力の発信につながると感じた。100周年のPRを続け、機運を盛り上げていきたい」。昨年はコロナ禍で訪れることができなかった浜野理事長は「とても良いPRになり、大変うれしい。清水市長と一緒に展示を見ながら、大宮盆栽村100周年について話ができたことは、非常に特別な機会となりました」とそれぞれコメントした。

■後継者不足に広がる危機感 若手職人の広田さん

 「藤樹園」の広田敢太さんは昨年に続き、同ホテルで盆栽のワークショップを担当した。参加者は5~6種類から好きな樹種、好きな鉢を選び、「世界で一つの盆栽」作りを体験した。非常に関心が高く、国内外の利用客が参加したという。「手で触ると、より愛着を持てる。体験型の催しを増やして、大宮盆栽の魅力を発信したい」と意気込む。

 広田さんは今月8日、ホテルを訪れた清水勇人市長に、盆栽や展示の経緯を説明した。大宮盆栽の魅力を語りながら、後継者不足や若手の住宅問題などの意見を述べた。「市長と直接話す機会はなかなかないので、恐縮したが、自分の意見を言わせていただいた。市長は流すことなく、意見を聞いてくれてうれしかった」

 盆栽職人の高齢化が進み、後継者、人材不足に危機感が広がっている。大宮生まれ大宮育ちの広田さんは、地元で盆栽を継ぐ「使命がある」と語り、100周年で終わりではなく、101年からが重要と考えている。「海外だけでなく、さいたま市民に大宮盆栽を知ってもらいたい。誇りある地元産業に育て、子どもたちが働きたいと思えるようにしたい」と話していた。

45階のロビーラウンジに展示されている樹齢約450年の真柏と広田敢太さん=14日、東京都港区のザ・リッツ・カールトン東京

© 株式会社埼玉新聞社