<社説>きょう通常国会召集 国の形 正面から論じよ

 通常国会がきょう召集される。物価高、少子化対策、安全保障、新型コロナウイルス対策など論点は多岐にわたる。 個別の論点を掘り下げてほしいが、与野党双方に望むのは、日本という国の形、針路を正々堂々と論じることだ。

 岸田文雄首相は安全保障、エネルギーといった政策を、国会論議もなく大転換した。首相自身の言葉で日本の未来を語り、各党がその是非を徹底して点検してもらいたい。

 首相は2021年衆院選、22年の参院選を乗り切り、衆院解散がなければ25年まで国政選挙がない「黄金の3年」を手中にした。

 政策を実現するのに十分な時間を得た。では首相のこの間の「実績」とは何だったか。

 国是の専守防衛を逸脱する恐れのある敵基地攻撃能力(反撃能力)保有を明記した安全保障関連3文書の閣議決定があった。原子力発電所の運転期間を最長60年から「60年超」とし、原発を最大限活用する方針も決めた。

 安全保障政策の転換は、戦後日本が積み上げてきた平和国家の根幹を揺るがす。エネルギー政策は東京電力福島第1原発の事故を受けて、原発依存度を低め安全なクリーンエネルギーに転換する目標があったはずだ。岸田政権の方針は時代に逆行している。

 何より問題なのは、これら国の方針を大きく変えるに当たり、国民に問うことなく閣議決定など政権内部で決めたことだ。国民には政権の方針のみが伝えられ、議論の過程が全く見えない。

 敵基地攻撃は先制攻撃と同じ意味ではないのか。東アジアの安全保障環境の変化に対応するのに外交努力を尽くしたのか。物理的な力の増強しか道はないのか。エネルギー危機を乗り切るのに原発以外の手法を模索したか。

 県民からすれば、再び国の「捨て石」として南西諸島を戦場にしかねない安全保障政策は認められない。東アジアに軍拡競争を招く可能性もある政府の方針も、とうてい納得できるものではない。

 疑問や懸念は数多くある。国会の論戦を通じ、国民の不安を解消するのは当然だ。

 同時に安全保障関連の議論では防衛費の増額、その財源をどうするかが盛んに語られる。だが安全保障政策の大転換に当たっては、国民的合意を得ることが前提のはずだ。

 防衛費増額ありきとする議論は、そもそも前提が間違っている。政府、各党はその点を認識すべきだ。

 防衛費増額については、昨年7月、海上自衛隊呉地方総監部の伊藤弘総監が「(個人的感想として)もろ手を挙げて喜べない」と記者会見で語った。社会保障にさらなる予算が必要であり、防衛費を増額できるほど日本経済に余裕はないのでは、という理由だ。

 伊藤総監の言葉はコロナや物価高で生活にあえぐ国民感情と重なる。必要なのは勇ましい言葉でなく、地に足の着いた国民視線の議論だ。

© 株式会社琉球新報社