ウィッグが私を勇気づけてくれた 福岡のフリーアナウンサー磯田久美子さん

ウィッグの手入れをするウィッグリング・ジャパンの川田美歩さん(右)と齊藤友美さん

がん治療に伴う脱毛などの外見の変化を補い、患者の心理的苦痛を軽減する「アピアランス(外見)ケア」について、専用ルームの設置や、がん経験者によるピアサポートなど支援の動きが広がっている。大切なのは治療前の姿に戻すことではなく、「自分らしさ」を実感できるようにすること。患者の不安やつらさに寄り添う姿勢も求められている。(下崎千加)

ウィッグ購入助成、福岡では20市町

抗がん剤で脱毛や皮膚の変色・湿疹、爪の黒ずみが起きたり、切除手術で体の一部が欠損したりすることがある。薬の改良で嘔吐(おうと)などの副作用がある程度抑えられるようになり、通院での抗がん剤投与が可能となった一方、周囲の目を気にして家に引きこもりがちになる人もいる。このためアピアランスケアの必要性が現行の第3期がん対策推進基本計画でうたわれ、2023年度からの第4期計画にも盛り込まれる予定だ。

福岡県がん診療連携拠点病院の一つ、九州がんセンター(福岡市南区)は新病棟となった16年からアピアランスケアルームを設置。約40種類のウィッグ(かつら)やさまざまな生地の帽子を展示し、患者が試着できる(現在は新型コロナ感染対策で入院・通院患者以外は不可)。国立がん研究センター中央病院(東京)の専門研修を修了した看護師も4人おり、肌や爪の保護など技術的なことも相談できる。

ただ、頭頸部(けいぶ)がんなどで欠損があると、エピテーゼ(人工補正具)を着けても完全に元の容姿に戻すのは難しい場合がある。ウィッグを着けても不安が消えない場合は患者とよくやりとりし、「前の私とは違うが、今の私もいい」と変化を前向きに捉えられるよう心理的にケアしたり、背後の課題を見極めて対応したりする。

例えば、ある男性はどのウィッグを試しても「ばれるのでは」と不安がった。よく話を聞くと、土木工事を請け負って生計を立てており「がんと知られれば仕事をもらえなくなる」と心配していた。ウィッグが問題の本質ではなかった。そこで病院のソーシャルワーカーが間に入り、就労支援につなげたという。

廣瀬さゆり看護師長は「前と同じ状態にするのがゴールではなく、『これが自分』『これはこれでいい』と思えるようになることが大切」と話す。納得してウィッグを着けない選択をする人もいるという。

一方で、患者を対象に中古ウィッグの販売やレンタルをしているNPO法人「ウィッグリング・ジャパン」(同市中央区)はがん経験者2人を職員として採用し、今年1月から患者応対を任せるようにした。上田あい子代表理事が「経験者の方が細かくアドバイスでき、患者も相談しやすいのではないか」と考えた。

職員となった川田美歩さん(50)は子宮頚がんでリンパ浮腫にも悩まされた。「髪が抜けていく時の自分が自分でなくなる感じはよく分かる。『大丈夫だよ。こんなふうにまた戻るよ』と伝えていきたい」。乳がんなどの経験がある齊藤友美さん(43)は「不安や悩みを吐き出し、少しでも笑顔の時間を過ごす手助けができれば」と話している。

3度のがん…「元気印」磯田さんは

ショートカットとサングラスがおなじみのフリーアナウンサー、磯田久美子さん(59)=福岡市。グルメ情報や旅先での触れ合いをリポートする姿からは想像できないが、がんを3回経験している。治療をしながら仕事を続けられたのは、自分にぴったりのウィッグ(かつら)や下着があったからという。外見の変化とどう向き合ってきたのか、体験を語ってもらった。(聞き手は下崎千加)

13年前に子宮頸(けい)がん、7年前に左胸、5年前には右胸の乳がんを発症した。そのことは家族の他に、プロデューサーやメークさんなどごく一部の仕事仲間にしか告げなかった。

世間では「元気印」で通っているが、実は小心者で臆病。かわいそうと思われたくない。心配させたくない。ウィッグを着けていると知られたら、外に出る勇気がなくなる。当時はそう思っていた。

ウィッグを着用したのは、初めて抗がん剤治療をした3回目のがんの時。治療前に用意しておいた方がいいと聞いていたが、なかなか決心がつかない。背中を押してくれたのは、20年以上私の髪を切ってくれている美容師さんの「一緒に見に行きましょうか?」という一言。ウィッグ店で少し長めのショートボブのウィッグを見立ててくれ、いつもの私の髪形にカットしてくれた。

実際に髪が抜け始めたのは、抗がん剤投与の2週間後。ロケの日で忙しくて落ち込む暇もなく、かえってよかった。いつもと同じ日常を過ごすこと、私にとっては仕事を続けることが、心の支えだった。

髪だけでなく全身の毛が抜けてしまうので、眉毛は抗がん剤治療に入る前にアートメークを施し、付けまつげは専門のサロンで付け方を教わった。黒ずんだ爪もネイルサロンで隠れる色にしてもらったりと、プロの力も借りた。

左右の胸を部分切除しており、胸のラインをどう保つかも悩んだ。他の人に知られたくないため、予約が必要な専門の下着店は敷居が高い。救ってくれたのはユニクロの「ブラトップ」。一人で試着でき、傷口への当たりが柔らかく、お財布にも優しかった。

こうしたアピアランスケアについてはネットの情報が頼りになったが、がん友(患者仲間)の存在も大きかった。例えば、乳がんの経験者が「もうすぐ『終わらないシャンプー』が始まるよ」と教えてくれた。髪が抜け続けるから、シャンプー後の流しがやめられないという。実際にそうなった時「あ、これね」とそれほど動揺せずに済んだ。

私だけじゃない。このつらい治療はみんなが通る道なんだ。その先には彼女みたいに笑える毎日が待っているんだと頑張れた。

私も誰かにとってそんな存在になれたらと思い、治療後3年の定期検査をクリアした2021年5月、ブログでがんを公表。アピアランスケアや入院体験についてつづり始めた。

手術や抗がん剤投与の痕など、私の体は傷だらけ。それでも生きていることに感謝している。がんを経験して、明石家さんまさんの「生きてるだけで丸もうけ」という言葉がとても好きになった。

(談)

20日に磯田さんが講話 NPO法人ウィッグリング・ジャパンは20日午後1時から、磯田久美子さんと、六つのがんを経験した企画演出業の持原淳二さんによる講話「仕事とがん治療の体験談」を福岡市・天神2丁目の天神パインクレストビル923で開く。定員15人、参加費1000円。オンライン参加も可。申し込みは19日正午までにホームページか電話で。同法人=092(725)6623。

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