「集中力や注意力が低下する場面も」 去年の出動件数は過去最多 コロナ禍でひっ迫する広島の救急現場

消防庁は、医療機関に4回以上、受け入れの問い合わせをする、現場に着いてから運ぶまで30分以上かかるケースを「救急搬送困難事案」としています。

広島市やその周辺を管轄する広島市消防局では、去年1年間、救急車の出動件数が、過去最多の約7万件でした。このうち、「救急搬送困難事案」が3533件に上りました。前の年のほぼ2倍で、1日あたり10件ほど発生したことになります。

新型コロナの感染拡大による医療のひっ迫も一因とされていて、感染者が増えた8月と12月に多く発生しています。ひっ迫する救急の現場…。現状を取材しました。

今月ある朝の、広島市消防局の通信指令室です。モニターには、消防局が持つ「救急車の台数」が表示されていて、赤色のランプは、「出動中」を意味します。

入電から現場到着までの所要時間は、平均で約8分といわれていますが…。

通信指令室 係員
「一番近い救急車でもかなり時間がかかり、(到着まで)15~20分みてほしい」

わずかな遅れが命の危険につながることもあります。新型コロナが再拡大した去年12月末には、救急車がほぼすべて出動することも…。

同じころ、広島の隊員たちも衝撃を受けた事故が発生します。

この事故は、広島の現場でも、衝撃だったといいます。

広島市消防局 大手救急隊 中川陽介 隊長
「朝まで仮眠できない日もあって、集中力・注意力が低下してくる場面も正直ある。そのときは隊員たちで声をかけあい、何とか乗り切っていこうと…」

中川隊長は、つい先日も1件で4時間、20か所以上搬送先が見つからない「救急搬送困難事案」に直面したといいます。

広島市消防局 大手救急隊 中川陽介 隊長
「不安も焦りもあるが、待たせている傷病者が一番不安。その家族に対しても、状況を説明して、理解してもらうよう努めている」

実際の現場はどうなっているのでしょうか…。

出動した救急車でのやり取りです。

隊員
「右の足を曲げて…。ひざ曲げて。こっちは少し動く?」

出動から5分後、運ばれてきたのは70代の男性でした。男性は、自宅で動けなくなっていたということですが、意識はあり、命に別状はありませんでした。

隊員たちは、男性と会話を重ねながらかかりつけ医に連絡…。ただ、受け入れが難しく、次の2件目の交渉で搬送先が決まりました。

救急車は、車や歩行者などに細心の注意をはらいながら、素早く搬送先の病院などに向かいます。ただ、別の出動では、こんなこともありました。

隊員のやりとり
「搬送はまだ…」

「気分が悪い。動悸がする」などと、体調不良を訴えた50代の女性でしたが、車内で安静後、体調が回復したため、搬送されませんでした。

隊員
「車内(の検査)で異常な数値が出ていない。もしまた何かあれば救急車呼んで」

広島市消防局 大手救急隊 中川陽介 隊長
「(コロナ禍で)受け入れ先の医療機関も決まらない状況。本当に救急車が必要かどうか。自家用車やタクシーでいけないかをもう一度考えて、本当に救急車が必要な方のために、理解と協力をお願いしたい」

ひっ迫する救急現場…。通報から現場を離れるまでの時間も長くなっています。

【所要時間の推移】
広島市消防局で、119番の入電から医療機関収容までの推移をまとめたグラフです。2022年と2021年を比較してみると、入電から現場到着、それから現場を出る時間、いずれも長くなっています。

例えば、救急車がひっ迫して、どこもいっぱいになれば近場ではなく、遠くから出動しなければいけません。そのため、より多くの時間もかかるし、助かる命も助からないケースも出てくるそうです。

【救急車の利用に迷ったら】
電話相談窓口「#7119」なども普及しているので活用してほしい。あなたの行動が、ほかの命を助けることにもつながるかもしれません。

「#7119」救急相談センター 広島広域都市圏
「#8000」子どもの救急医療相談

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